⑧かばん

安楽死的

箱を開けるといつものアニマルガールでは無く、赤い服の黒髪のヒトが入っていた。

最初は死体だと思ってマジビビった。


紙にはこう書いてあった。


『唐突に、変わったフレンズをお送らせて頂きました。お得意様に押し付けるのもどうかと思いましたが、いつもの御礼としてお受け取りください。今後ともよろしくお願い致します』


アイツらが何をやったのかは大体わかる。

にしても、コイツもフレンズなのかと、

驚いて何も言えなかった。


SSの凄さを実感しつつ、男は彼女を部屋まで運んだ。







あれ?僕は何をしていたんだっけ。

...そうだ。目の前でフレンズが倒れたから

駆け寄ったんだ。そしたら、後ろから誰かに口を塞がれて...。


ここは...。


コンコン




ノックの音で目が覚めた。

心拍数が跳ね上がる。

電気が灯される。


「...お前か」


ポツリと呟いた男の声は、まるで魔物のような声に聞こえた。


「た、たぇ...」


咄嗟に誰かに助けを求めようという考えが

浮かんだ。しかし、ここはパークではない。


どうすればいい?


普段は良いアイデアがバンバン出てくるのに、何故か頭が真っ白で、名案が思い付かない。


ゆっくりと男が近付く。


「お前もフレンズなのか」


「...は、はい。

でも、よくわからないです...」


ここは相手を刺激しない方が良い。

本能的に思って、そう言い返した。


「ふーん...」


男は上から彼女を見下ろした。


「名前は?」


「ほ、他のフレンズさんからは...、

かばんって呼ばれてます」


「....」


何かを探るような目。

いや、邪悪な事を考えているのかもしれない。

妙な沈黙が、ますます彼女を不安にさせた。


「フレンズなのか...」


男は呪文みたくそのフレーズを繰り返した。


自然と唾を飲む。そしてまた、沈黙した。

だが、その沈黙は思わぬ形で破られる事になる。



「...っ!」


パシッ、と乾いた音が部屋に響く。


...顔を叩かれた。

左手で頬を抑え、見上げると、そこには、口元を緩める男の姿があった。


「やっぱお前、フレンズなんだな」


納得したという声だった。


「なに...するんですか...」


「今日は最後の夜を充分楽しむといい」


意味深な言葉を残し、男は立ち去った。



(どうしよう...、逃げなきゃ...)


部屋を見回すとなんと大きな窓がある。

しかし、暗く外の景色はわからない。


窓の鍵を開けると、冷たい風が流れ込んでくる。


今居るのは2階。高さは幾つあるかわからない。だが、逃げ出すにはこの窓から飛び降りるしかない。


「...」


意を決した。

窓の縁に足を乗せ、闇の底へ飛び降りた。




着地した瞬間、解放への期待は一変、

苦痛と化した。


「ああああああああぁぁぁっ!!!!!」


その拍子に歩いてしまう。するとブスブスと足に鋭い物が刺さって行き、激痛が襲う。


バランスを崩し手を着いてしまった。


「あああああぁぁぁッ...!!!!!」


声が枯れるくらいの悲鳴を出した。


懐中電灯を持った男が彼女を照らした。


「痛いだろ。逃げようとするからだ」


「助けて助けて助けてっ!!!!!」


必死そうな彼女の声を聞いた男は、

笑いながら


「しょうがねえな」


と、呟き彼女を助けた。


家に入ると改めて手足が酷いことになっている。

黒いタイツ、手袋に穴が開き血みどろである。


足を地につけただけで、猛烈な痛みが襲いかかりそうだと、男は思った。


「ハァーッ...ハァー...ハァー...」


死への恐怖からか、彼女は過呼吸になっていた。優しい眼は恐怖で支配され怯えた眼になっている。


だが、男は決して憐れんで彼女を助けた訳では無い。


虐げる為に救ったのだ。


「治療してやる」


男が持ち出したのは注射針だった。


「やめ...やめてく...っ...」


腕を抑えられ、針を刺された。


「痛いっ....!」


涙声だった。


「ハァー...ハァ...ハァ...」


突然、身体が火照った様に熱くなる。

かと思えば、急に乗り物酔いした感覚が襲う。気持ち悪い。


「うっ...」


胃から何かを出したく、口を開けるが、

出てくるのは唾液だけだった。


自分でも何がしたいのかよくわからない。


上手く言葉も発せなかった。


全身の意識がハッキリとしない。

男はそんな彼女の腹部を何度も殴った。


「うグッ...」


死んだような目をして、だらしなく口から唾液を出す。


顔も殴られるが泣くことはなく、

何か不気味に微笑むだけだった。

恐らく、薬の効果だ。

男が彼女に投入したのは一種の麻薬だ。


殴られる事でさえも、快楽に感じているのかもしれない。

あるいは、もう頭が働いていないのかもしれない。


朝まで暴行は続いた。


身体の痣や腫れ、傷跡が醜かった。


しかし、そんなのお構い無しと言わんばかりの嬉しそうな表情だった。


「...変態かよ...」


タバコを口に咥え、煙を吐き捨てた。


(処分しないとな...)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

虐ものフレンズ みずかん @Yanato383

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ