③ジェンツーペンギン(ジェーン)

遊具

ピンポーン


インターホンが鳴り、いつもの様に玄関に向かう。

いつもの様に配達員から段ボールを受け取り、いつもの様に箱を開ける。

そして、いつもの様に、フレンズをいじめる。


そうしたいのだが...






「兄貴、何だそれ」


今日は弟がいる。

コイツはクレイジーだ。

折角の嗜好品なのに、コイツに邪魔されるのは心外だが、今更追い返すわけにもいかない。


「なあ、教えろよー、頼むよー...」


擦り寄って来てしつこい。


「わあったから...」


段ボールを開けてみせた。


「おっ...!

めっちゃ可愛いいじゃん!

これ何なの!?」


「ジェンツーペンギンのフレンズ

6万8千円」


「フレンズ...、密輸したのか?」


「裏取引さ。ハンター頼んで欲しいフレンズの注文をする。あの手この手で捕まえてきて、こうやって送ってきてもらう。金になるから、パーク従業員の中にもハンターがいるんだ」


弟に男はそう説明した。


「はえー...、すっごい...

なあ、兄貴、これ俺にくれよ」


「ああ?」


「倍の10万払うからさ!

長髪の子好きなんだよねぇ...!

頼むよ!この顔に免じて!」


両手で手を合わせ、懇願した。

コイツは良しと言うまで引き下がらないのはよく知っている。1度目をつけたものは離さない。


「あーもう...、しかたねぇなぁ...

勝手にしろよ…」


頭を掻きながら言った。


「ありがとう!さすが兄貴だぜ!」


弟は満足そうに言った。








「...!!」


目が覚めて驚いた。

前後の記憶が曖昧だが、みずべにいた

はずなのに、見知らぬ場所にいる。


しかも、知らないやつに抱かれて眠っていた。


頭の中が混乱して状況がわからない。


すると、優しく髪を撫でてきた。


「可愛いね...」


小さく呟かれる。


ハッキリ言って怖い。肌が粟立つ。


「だ、誰ですか...!」


「誰だっていいだろ...」


私は怖くなり咄嗟に立ち上がった。


抱きつきはそんなに拘束力を持っていなかった。すぐ様ドアに手をかけ外に出ると。


「あぐっ!?」


腹を抑えて屈み込んだ。


「はぁ...はぁぁ...」


「どうだ、痛いか?」


「苦しい...です...」


「おいおい、兄貴、何してんだ。

ジェーンちゃんが可哀想だろ?」


男は笑顔を見せながら、


「悪い悪い」


と、平謝りをした。


「はぁー...はぁ...」


「ゴメンな、ジェーンちゃん。

お腹空いたろ。ご飯食べさせてあげるから」


無理矢理腕を取り引っ張って行った。


「あぁ...、ちょっと...」


嫌だ。嫌な予感しかしない。


後ろからは兄貴と呼ばれた人もついてくる。逃げられない。


私は椅子に座らされた。

兄貴に、手を持たれロープか何かで縛られた。


抵抗しても勝てるわけない。


この人達は自分よりも強い。


「ほら、ご飯だよ」


瓶の中には蠢く何か。恐らく虫だろう。

じゃぱりまんしか食べたことの無い私にとって未知の物体は恐怖でしかない。


「...や...やだ...」


ピンセットでその物体が摘まれる。

細長く、色が薄ピンクで。

生き生きとうねっている。


「口開けてよ」


ピンセットを持った男がそう言う。

しかし、こんな変なもの、食べたくない。


口を閉ざしていると、いきなり後ろから、カチッ、カチッ、という音が聞こえた。


その物体の正体が視界に入る。


この男の兄はフレンズの生態について熟知していた。火を怖がるのは知っている。着火装置を取り出し、彼女の目の前で灯したのだ。


「...!」


恐怖心で涙が浮き上がる。


「ほら、アーンしてあげるよ」


「...」


仕方なく口を開けて食べた。


口の中で“それ”は動き回る。

噛むとプチッと何かが弾ける。


気持ち悪い。


しかし、まだこんなの序の口の虐めだった。


食事したあと、直ぐに兄貴と呼ばれている男に連れられ、暗い部屋に押し込められた。


ドアの外で微かだが話が聞こえた。


「なあ、俺にも遊ばせろ」


「わかったけど、傷付けんなよ」


「わかってるよ」





そう入って来たのは兄貴の方だった。


「よお、ジェーンちゃん」


私は部屋の隅へと下がる。


「なんで怖がってんだよ」


この人はさっき私のお腹を思い切り

殴ったからだ。それに手を縛って火をつけた。


「や...やめてください...」


怯えた声で訴える。

男は黙ったまま私を見下ろすだけだ。


「何もしねえよ...」


しかし、この男は。


ジェーンの口に布を詰め込み、言葉を発せなくすると、何かを身体に貼り付けた。


貼り終わると直ぐに布を外される。


「はぁっ...はぁ...」


「さあ、喚いてくれ...!」


男が手元のリモコンを触る。

すると。


「あああっ?!」


バチバチという衝撃が身体に伝わった。


「電圧をあげるか...」


「いやあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」


強い電流が身体を駆け巡る。


手と足がビクビクと痙攣する。


「痛い...、痛い...」


「ハハハハ!!」


男は笑った。


息も絶え絶えの私に男はある物を差し出した。


「咥えろ」


細い紙巻状のモノを咥えろと言われる。

あのビリビリが怖いので従う。


取り出したのは火だった。


紙巻状のモノに火を付ける。

煙が立ち上がるが何をどうしていいかわからない。


「ゲホッ、ゲホッゲホッ...」


咳ごみをした。

それを見ると私から、それを奪い、

男が咥える。その後、ハァーと白い煙を吹きかけた。臭かった。


「ゲホッ...、ゲホッ...」





「ジェーンちゃん、一緒に来てよ」


そう声を掛けたのは弟の方だった。


「イヤだ...イヤ...」


抵抗するジェーンの頬をパチンと叩いた。


「...っ」


「言う事聞かないとダメでしょ」



無理矢理また、連れてかれた。




「いやっ...!!やめてっ....!!」


「兄貴!抑えてろ!」


「言われなくてもわかってる」


拘束された腕を更にガッシリと掴まれ、服を脱がせられる。というか、ハサミで切られる。


「いやだ...、いやぁ...」


すると今度は首に縄を巻き付き始めた。


「死にたくないです...ぐすっ...

イヤだ...、死にたくない...」



涙の叫びは届かない。


椅子の上から天井に吊らされる。


「ありがとう、兄貴」


「ちゃんと金返せ」


バタンと、扉を閉めた。


呼吸が早くなる。


「まだ死にたくないっ...、まだ死にたくないっ...」


まだ死にたくない。

踊りたいし、歌いたい。


男は涙と恐怖心にまみれた顔を眺めニヤニヤするばかりだ。


「かわいいよ...、ジェーンちゃん!」


椅子を引き抜かれた瞬間、首がキツく絞まる。


「あ゙っ...、あ...っ...じに...た...」


どんどん苦しくなる。

息が出来ない。


だんだんと、視界は真っ暗になって行った。


足からポタポタと水滴が零れ落ちる。


生前“溜め込んでいた”モノだ。






彼女の死体を降ろし、身体を綺麗に拭く。


「あはっ...、ジェーンちゃん...」


男は息をしていない彼女の唇を大胆に奪った。


硬直が始まる前の豊胸を弄る。


「気持ちいいかい...、幸せだよなぁ?

そうだろおがよお!」


喋らないのに1人で語りかけた。


死んだ彼女の中にも、入れて、無意味に

放出する。それがこの男にとっては幸せだった。そうして、長い一夜を過ごした。









翌朝、男に弄ばれた彼女の体は焼却炉に放り込まれた。


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