第135話

 その頃、崇人の目の前には一人の少女が立っていた。

 いや、正確には性別が把握出来ない。ゆったりとした茶色のローブを着ていることから身体のラインが一目で解らないというのもあるだろう。


「はじめまして、タカト・オーノ。私はアインと言います。以後、そう呼んでください。……まぁ、別に私の名前を覚えなくても何ら問題はありませんけれど」

「……御託はいい。で、何をしにここに来たんだ? まさかそういう無駄話をするためだけに来たわけじゃないだろ?」

「ええ、その通りです。あなたを私たちの思い通りにするために私はここにいるといってもいいでしょう」

「思い通りにする、だって? 生憎、そんな簡単に動く人間じゃねえぞ」

「ええ、それは理解しています」


 アインは身動きの取れない崇人の頭に手を当てる。

 それと同時に崇人の脳内が金属音で埋め尽くされた。

 アインは呟く。


「思い通りに動いてくれないなら、こちらからそうしてしまえばいいんですよ」

「あ……ああ……」


 崇人は恍惚とした表情を浮かべながら、小さく喘ぐだけだった。それしかできなかったというわけではないが、行動が支配されていたと言ってもいい。自分でそれ以外の行動をすることを考えることができなかったのだ。


「……さあ、動きなさい。タカト・オーノ。そしてあなたに命じられた使命を、やり遂げるのです」


 そして、崇人の意識は微睡みの中に落ちていった。




「タカト・オーノの洗脳はうまくいったかね?」


 ヴァルトが訊ねるとアインは小さく頷いた。それを見てヴァルトは笑みを浮かべる。

 洗脳が成功したということは彼の命令に従う傀儡が出来たということになる。タカト・オーノが現時点をもって赤い翼の傀儡と化した。これを世界に発表すれば世界は赤い翼を脅威として認定せざるを得なくなる。それが彼らにとっては必要なことだった。


「力で来るのならばこちらも力でねじ伏せるだけだ……。それが最強のリリーファーならば尚更というわけだよ」

「ええ、存じております」


 アインは頭を下げる。


「アイン、と言ったな。ご苦労様だった。しばらくは休憩をしても構わないぞ。洗脳が確認取れ次第、報酬を払おう」

「ありがとうございます」

「なに、ウィンウィンの関係だろう。私は洗脳がかかり傀儡が手に入る。そちらは大量のお金が手に入る。これ以上にウィンウィンの関係を見たことはない」


 そう言ってヴァルトは上機嫌に部屋をあとにした。

 アインが不敵な笑みをずっと浮かべていたことは、誰にも知り得ないことだった。




 コロシアムを走るマーズたち。

 先ずはコロシアムの地下へと向かわねばならない。広大な地下施設が広がっているというのにそれが国に秘密となっていたその事実を表向きの交渉事由として行う。それによってどうにかして地下への活路を導くという作戦だ。

 しかし、それは思ったより難航していた。


「……地下室への入口は愚か、そういう怪しいものすら見えないぞ……?」


 そう最初に言ったのはヴィエンスだった。彼もまた地下室への入口を探していたのだった。

 マーズはスポーツドリンクを一口飲み、言った。


「確かにそうね……。倉庫を見せてもらったけどそこですらそういう怪しい場所は見つからなかった……。それとも私たちの知らない通路が存在しているとでもいうのかしら……」

「まさか……。いや、考えるべきかもしれない。ここまでして見つからないとなると、こういった場所にあるかも」


 ヴィエンスは壁に手を当てた。

 それだけだった。

 壁がゆっくりと回転し始めるのだ。


「ヴィエンス、それって!」


 マーズにコルネリアはそれを見て慌ててヴィエンスのそばにくっつく。唯一手に入りそうな手がかりだ。ここで逃しては何が起こるかわからない。手遅れになるかもしれない。だから、急いで向かわなくてはならないのだ。

 そして彼女たちは通路の裏へと足を踏み入れた。


「まさか壁が回転するとは思いもしなかった……。そこまで古典な仕組みを利用しているとは……」


 マーズは呟く。それはほかの団員も一緒だった。地下室の入口が見つからなかったのは甚だ疑問だったがまさか壁を回転させるとは思いもしなかったのである。

 通路の裏は思ったより明るかった。電気も通っており、質素な作りになっている以外は普通の通路となっていた。そう、まるで従業員用通路のような雰囲気だった。


「まさかこんなところに通路があるとはな……」


 マーズは呟きながら通路を進んでいた。今ハリー騎士団はマーズを先頭にし、|殿≪しんがり≫をヴィエンスが務める形で進んでいた。

 通路の広さは人一人分、さらにそれから若干の余裕がある。壁はコンクリートで出来ており、とても質素なつくりとなっていた。


「この通路はただの従業員用のそれに見えますけれど……。特に何の問題も無さそうですし」


 訊ねたのはコルネリアだった。

 彼女の言う通り、ここはただの従業員用通路だった。それ以上でもそれ以下でもない。かといって何も仕掛けが無いかと言われればそれは嘘になる。


「従業員通路として設計されたこの通路……恐らく赤い翼の通用口として使われていた可能性がある」

「どうしてですか」


 コルネリアは訊ねた。マーズの言葉に違和を抱いていたわけではない。疑問に思ったというよりもどうしてその結論に至ったのかが気になったのだ。

 それに対してマーズは足元を指差す。


「これを見ろ」


 そこにあったのは鳥の徽章だった。いや、正確には鳥だったがその翼が炎だった。煌々と燃えていた。


「これは……赤い翼の徽章……!」


 コルネリアの言葉にマーズは頷く。


「そうだ。その通りだ。赤い翼の徽章がこんなところに落ちている。罠かもしれないが……だが、彼らがここを使っていた可能性はこれで拭いきれなくなった」


 仮に罠であったとしても、それを確認する必要がある。彼女たちはそう考えた。

 それは確かに正しいだろう。だが、それと同時に敵に見つかりやすくなる危険性も孕んでいる。

 とはいえ彼女たちにとってそんなリスクよりもインフィニティのパイロットを確保することが優先された。そうでないと敵に洗脳などされてしまっては大変なことになってしまうからだ。

 仮に洗脳した人間が居たとしたら、その個人或いは集団にとって最強の味方となり得るだろう。なぜなら現時点においてインフィニティは最強のリリーファーなのだから。


「インフィニティが最強のリリーファーたる所以……ですか?」


 マーズは歩きながら、団員に訊ねる。


「そりゃ当然でしょう。ほかのリリーファーが持ち合わせない装備ですよ。それを補うためのエネルギー生成もすごいし、それを操縦できるのはタカトだけってのもあれですがね」


 言ったのはコルネリアだった。

 それはそのとおりだ。インフィニティは最強のリリーファーとして名高いのはほかのリリーファーに装着することの出来ない武器が多数揃っているからである。

 その武器さえ使えれば世界を支配することも容易だろう。それ程にインフィニティはリリーファーというカテゴリから既に超越した存在だといえる。


「だからこそ……だからこそ、インフィニティは正しい使い方が出来る人間のもとに無くてはならない。あれがテロリストの手に落ちてしまえば……何が起きるのか容易に考えられる」


 殺戮か、破壊か。

 少なくともその先に見えるのは良い未来でないことは確かだった。


「とにかく急がなくちゃ……!」


 マーズ率いるハリー騎士団の面々はそう言って通路を駆け出していく――。



 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇



「ところで、どうやって世界を破壊するつもりだい?」

「世界を破壊するんじゃないよ。あるべき段階まで下げるんだ。具体的には人間から文明を奪う」

「文明を奪う……それは石器とかを使わせるということか? 人間が初めて火を使うことが出来、喜び、食事を作ることができた時代レベルにまで?」


 通路をハンプティ・ダンプティと帽子屋が歩く。ハンプティ・ダンプティといえば未だに少女の姿をしていた。彼女曰く、そのほうが動きやすいのだという。

 ハンプティ・ダンプティの問いに帽子屋は微笑む。


「流石にそこまではしないよ。それに、そこまでしてしまったら計画が失敗に終わってしまうだろう?」

「計画というが……まだ具体的な計画の、その凡てを誰も理解していないぞ。凡て帽子屋、君の心の中で留まっている。だから誰も知らないし誰も同調できない。アリスとともに私たちは世界を監視し続けてきた。それにほんの少しの『刺激』をあたえるものとなる……我々はそうなると思ったから、その計画に賛同したのだ。それが実は肩透かしだったとなると……どうなるかは把握しているだろうな?」

「分かっているよ」


 帽子屋は深く溜息を一つ。

「だから計画の一端を見せようとしているのだから」

 帽子屋は立ち止まる。

 そこにあったのは巨大な扉だった。彼らの身体の数倍もある大きさの扉がそこに屹立していた。

 その扉には大きくこう書かれていた。



 ――関係者以外立ち入りを禁ず。



 そのとなりには小さく『produceed by Dias and Retenberg』と書かれていた。


「……これはいったい?」

「まあ見ていればわかるよ。それは因みに開発者の名前だ。正確にはあるグループの名前とも言えるがね」


 そう言って帽子屋は扉をゆっくりと開けた。

 ゆっくりと扉が開く。それをただじっと見つめるハンプティ・ダンプティと帽子屋。

 いったいその先に何があるのか。そして彼は何を考えているのかこれといって掴めないところが、帽子屋にはあった。そう思っていたハンプティ・ダンプティは帽子屋を今ひとつ信用していなかった。

 彼に対して抱いていたのは、圧倒的恐怖。

 シリーズの中堅の立ち位置という彼だが、既に二体のシリーズを『破壊』している。彼はシリーズの中にいてシリーズを存続させようとしていないのではないか。そう思うくらいだ。

 だからこそ、彼には疑念を抱いているのだ。いつ反逆を為出かすか解らない。だが、反逆をした時、ハンプティ・ダンプティはそれに抗うことが出来るのか、アリスを守ることが出来るのか……そう考えると圧倒的不利であることは明らかだった。

 帽子屋の凡てを手に入れることは無理でも、彼の戦力は把握しておかねばならない。だからこそ、常にハンプティ・ダンプティは帽子屋とともにいるのだ。


「ほら、開いたぞ……」


 帽子屋はそう言って中へ入っていく。それを聞いたハンプティ・ダンプティも一歩遅れて彼の跡を追った。




 中は広かった。ドーナツ状の床を彼らは歩いた。壁にも模様があるのだが、ハンプティ・ダンプティはそれよりも別のものに惹きつけられた。

 そこにあったのは大きなガラス管だった。ガラス管の中には緑色の液体が満たされており、そして、そこに居たのは――。


「これは……人間?」


 巨大な女性が、一糸まとわぬ姿で浮かんでいた。


「人間じゃあない。これもリリーファーだよ」


 そう言う帽子屋にハンプティ・ダンプティは首を傾げる。


「……何を言っている、帽子屋? あそこにいるのは確かに人間のメス……『女性』だろう。リリーファーはもっと機械的だし直線的なフォルムを……」

「直線的なフォルムをしていないと、それはリリーファーじゃないのか?」


 帽子屋の問いにハンプティ・ダンプティは何も答えられない。

 そのとおり、リリーファーの定義など誰も決められない。だから、直線的なフォルムで無かったとしても、それが機械的なフォルムでなかったとしても、人間的フォルムであったとしても、リリーファーと定義されればそれはリリーファーだった。

 帽子屋は恍惚とした表情で女性――否、リリーファーを眺める。


「ここまでに恐ろしい程時間がかかった。年月というのは過ぎるのが速い。特に自分に興味のある事柄を延々とやっている場合は、ね」

「帽子屋、おまえはいったい……何がしたいんだ。世界をある段階まで昇華させる、と言ったが……」

「いや、違う。文明をあるレベルまで落とすんだ。そこまで落とせば誰も僕の計画を無視することなどできなくなる。人間は再び……神を崇敬するようになるんだ」

「帽子屋……おまえ、まさか……!」


 ハンプティ・ダンプティは気付いた。

 今まで帽子屋が言わなかった、計画の裏側に。


「……神を作るつもりなのか!!」


 ハンプティ・ダンプティは帽子屋に対し、そう激昂した。


「神を作る、か。成る程、それもいいアイデアかもしれない。僕のメモ帳に書き添えておくことにしよう」

「神を作ることじゃ……ないというのか」

「違うね」


 帽子屋はハンプティ・ダンプティを鼻で笑った。

 帽子屋はガラスに手を置いて、


「僕は神を作るのではない。だって僕達は世界を監視するために生まれた存在なのだから。だけれどもうそれに飽きてしまったんだよ、僕は。理由は二つある。一つは人類が我々の思っているプランで生きていくことをしなくなったという点について。これについては非常に面白いことではあるが……しかしいつか我々の凡てが知られてしまうのではないかという恐怖もある。そして、もう一つ」


 帽子屋は人差し指を立てる。


「もう一つは簡単だ。単に私利私欲と言われればそれまでだが……。だが、そんな言葉で囚われるものではない。もっと素晴らしくて、もっと崇高な考えなのだから」

「……何だ。そんなに勿体ぶらずに言ってみろ」

「これは神の|御座≪ござ≫だ」

「神の、御座……だと?」


 ハンプティ・ダンプティは帽子屋の言葉を反芻する。


「そう、神の御座。神の座る場所と言ってもいい。これは神になる魂が座る場所に過ぎない。君はこれが神そのものではないかと考えたが……そんなわけはない。これはただのリリーファーだ。それ以上でもそれ以下でもない」


 この人間めいた形の巨大な物体が、リリーファーである。帽子屋はいうがハンプティ・ダンプティには如何とも信じられないことだった。そもそもこれ程のリリーファーを見たことがない。


「リリーファーであることが間違っているわkではない。ただリリーファーである意義が解らない。これに君が乗ってドンパチでもするつもりかい?」

「成る程。そのアイデアもあるね。だが、今ここでは不採用だ」


 踵を返し、帽子屋は指を振る。


「そんな簡単な問題ではない。そんな簡単に解決出来ることじゃないんだよ。だが、簡単に解決する方法がたった一つだけある。それは僕が実施しようとしている方法だ」


 彼の目の前に置かれていたのは機械だった。普通、機械といえば様々な用途に用いられるためにボタンとかレバーとか数多に設置されているものだと思われるが、この機械にはレバーが一つしか設置されていない。


「このレバー、何に使うと思う?」

「……まさか」


 ハンプティ・ダンプティは自らの考えの恐ろしさに冷や汗をかいた。

 帽子屋は笑みを浮かべて、


「そう、その通りだ。これは『彼女』を解放するための装置だ。これを引けば、地上へと彼女が解き放たれる。そのあとに何が起きるかは……誰もが想像出来るかもしれないし、誰も想像出来ないことかもしれない」

「お前は……悪魔になろうとしているのか!」

「悪魔? いいや、違うね。僕は神の御膳立てをしているだけに過ぎない。神が降臨するために、自分たちが住みやすい世界にするために、行う第一歩だよ。もっとも、その一歩は大きすぎてそれだけで計画の大半を終了してしまうのだがね」


 悪魔ではなく。

 神が降臨する空間を創りだす。

 そのための苦労は惜しまない。


「しかし……それとこの巨大なリリーファー、どう関係があるという? まさかこれを駆動させて世界を破壊するとか言い出さないだろうな?」

「半分正解だ。だが、半分誤答とも言える」


 遠まわしに帽子屋は答えたので、ハンプティ・ダンプティは苛立ちが隠せなかった。当然だろう、今までけむにまいてきたのだから。漸く彼の作戦の全容が明らかになるといったこんなところでまたけむに巻かれるわけにはいかないのだった。


「ならば、その誤答と言える部分をお教え願えないかな? 幾ら何でも君だけが知っている情報が多すぎるよ。そうだと僕たち『シリーズ』も君に対する疑念をぬぐいきれない」

「……そうか。確かにそうかもしれない。だが、今更ここで真実を告げたとしてもそれを変更することなどできないのだよ。もう計画は最終段階に突入しているのだから」

「おい、それってつまり……どういうことだ」


 ハンプティ・ダンプティの言葉に帽子屋は答えない。

 いや、それどころか。

 この世界に、この空間に誰ひとりとして存在しないような、そんな感じで帽子屋は立っていた。笑みを浮かべ、水に揺蕩うリリーファーを眺めていた。


「やっと……僕の思い描いた世界を作ることができるんだ。長かったよ……アリス、そしてイヴ」


 帽子屋は微笑む。

 彼は手に握っていたスイッチを――ゆっくりと押した。



 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇



 ヴァリエイブル連合王国、その首都にあるヴァリス城。


「国王陛下! 大変です!」


 兵士が大声を上げてノックもせずに王の間へと入ってきた。

 国王であるレティア・リグレーはそれをものともせず、兵士に訊ねる。


「兵士よ。先ずは落ち着きなさい。そして落ち着いてから何があったのか、私に伝えてください」

「落ち着いてもいられません」


 しかし兵士はその命令を拒否した。


「先程、大きな爆発があり……その原因は不明なのですが、ティパモールが消滅しました! そしてその付近にあったカーネルも損傷! 現在確認作業を急いでおります!」

「カーネルとティパモールで爆発……? カーネルはリリーファー開発の拠点となっている場所ですよ! いったいあそこで何が!」

「分かりません! 分かりませんが……、ただ爆発の近くに居た人間は口を揃えてこう呻いていたそうです」



 ――巨大な人間が地の底から湧き上がってきた



「……何ですって?」


 レティアはそれを聞いて耳を疑った。そうだろう。そのことは実際ならば有り得ないことなのだから。

 しかし彼女は思い出す。それは世界の伝承とも言えることだった。おとぎ話のようにも思えて、子供達がよく大人から聞かされる、ポピュラーな昔話だ。

 巨人が出現し、世界を無に帰すというその昔話。

 彼女はそれを即座に思い出した。


「『アルファの巨人』……まさかほんとうの話だったとは!」

「アルファの巨人、というと……昔話の一つとして有名なアレですか」

「そうです。あなたも聞き覚えがあるでしょう? 小さい頃、親から聞いたことがあるはずです。私も母からその話を聞いて覚えています。あの物語の最後は確か……」

「大いなる光に包まれた巨人がその巨人とひとつになって、世界を闇から守る……でしたか」

「それは一般的に知れ渡っている話、ですね」


 それを聞いて兵士のひとりは首を傾げる。

 アルファの巨人には二つの物語が存在している。一つは民衆に広く知れ渡った一般的な物語。闇を振り払うという伝統的なハッピーエンドで物語は締められる。

 もう一つは王族などの限られた人間しか知らない真実の物語。昔話として語られるのは変わりないがそれが実際に起きたのかどうかは解らないし、ハッピーエンドかどうかも解らない。

 レティアの話は続く。


「あのアルファの巨人……私の知っている話では光の巨人とひとつになり、そのあと、巨人の意思によってどちらにも世界は傾くのです」

「どちらにも……とは、もしや」


 兵士の顔がみるみるうちに青ざめていく。レティアの言いたかったことが理解できたからだろう。

 レティアは頷き、話を続ける。


「ええ、つまりそういうことです。世界は闇に包まれるかどうか……それは巨人の意思によって決定されるということ。裏を返せば巨人を操る人間の意思によって世界が繁栄するか破壊の一途を辿るのかが決まる……ということなのです」


 レティアは立ち上がり、窓を見上げる。

 ティパモール、それにカーネルのほうは黒煙が上がっていた。


「どちらにせよ、このままでは危険です……。ティパモール、カーネル近辺に住む国民を急いで首都へ集めなさい! 今すぐに!」

「はっ!」


 敬礼し、兵士はその場を去る。

 レティアは、黒煙をただ見つめるだけだった。


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