第134話

 むかしむかしあるところ。翼の生えた人間が暮らす小さな街がありました。

 その街は山々に囲まれており、滅多にほかの人間が入ることができませんでした。

 そんなある日、その街にひとりの少年がやってきました。少年はとても傷ついており、息も絶え絶えでした。それを見つけた翼の人間たちはその少年を見て驚きました。

 彼には翼が生えていなかったのです。

 それを見た彼らはそう長く論じることもなく、ある一つの結論を導きました。



 ――この少年を殺してしまおう、と。



 しかしその時、翼の人間のリーダーが現れて言いました。

 それは可哀想ではないのか。私がその少年を観察しよう。そして人間がほんとうに危なくないのかそれを確かめようではないか、と。

 翼の生えていない人間は、かつて翼の人間たちをケダモノだと罵ったのです。そして彼らをこの地へと追放したのです。彼らの怒りも尤もでしょう。

 しかしリーダーは思いました。確かに過去、翼の人間たちは人間による差別を受けた。だが、それももうはるか昔の出来事だ。

 今からでも人間と翼の人間が寄り添い合って生きていっても――いいのではないか、と思い始めたのでした。




 翼の人間のリーダーは、その名前をトキと言いました。少年もはじめは翼をはやしたトキの姿を見て怯えていました。当然でしょう、今まで自分たちと違う存在と関わったことがないのでしょうから。若いからこそ、経験も浅いのです。

 しかしトキが世話をしているうちに、彼も徐々に言葉を話すようになりました。打ち解けるようになってきたのです。

 少年の名前はトオイと言いました。トオイは笑みを浮かべてトキの行動を見るようになりました。自分の身の回りの世話を何でもしてくれるトキに、いつしかそういう感情が芽生えていたのでした。

 ある日のことです。やはりトオイのことをよく思わない翼の人間たちが居ました。しかし彼らはトキのことを崇敬していましたし、ほかの民も崇敬していました。トオイを殺すということはトキの思想に反すること。何が起きるのか彼らにも解らなかったのです。

 トキのことは裏切りたくない。でも|翼の無い人間(トオイ)は許されない。それはやはり人間に対する禍根が深いことを示していたし、人間を信じることが出来なかったのです。

 そこで彼らは考えました。トオイを事故死に見せてしまえばいい。それならばトキは他殺を疑うことなどなく何れそう遠くないうちにそれを受け入れ、翼の人間たちを導いてくれる――そう思い込むようになりました。

 翼の人間に存在するグループ概念は人間が通常に取るグループ概念とは大きく異なります。一般にグループとは『組』のことを言い、人間は自然に群れを成すことが多いのですが、翼の人間はそうではなく、今の時代に比べればもっと前時代的なものでした。

 『天啓』――彼らはそう呼ぶイベントによってリーダーを決めていました。その内容は一部の翼の人間たちにしか知らされません。ですから知らない人が大半なのです。

 天啓によって決められたリーダーは彼らにこういう意味合いで呼ばれるようになります。



 ――何れ現れる『終焉』の時、|翼人≪よくじん≫を安寧の地へと導く勇者



 安寧の地が彼らにとって何処なのか解りませんでしたし、そもそも終焉がいつ来るのかも解りませんでした。ですが彼らはそれを信じていたのです。彼らはそれを信じながらも、それが起きて欲しくない――そう思っていたのです。当然と言えば当然なのかもしれません。だって『導く』役割が勇者なのですから、勇者以外の人間がそれを知っているのもおかしな話です。

 しかし彼らはそれを信じていました。信じきっていました。いつ起きるか解らない終焉を待ち、その終焉が少しでも伸びないかカミに祈り、カミや勇者に安寧の地へ踏み入ることを認めてもらうために善行を重ねたり、様々な行為を行動を重ねました。




 そしてその時は訪れました。ある靄がかかった朝でした。レースのカーテンが空全体にかかっているようでした。それはどこか幻想的でした。

 トオイはいつものように外に出て身体を伸ばしたあと、裏にある湧水で顔を洗いました。

 目を覚ました彼でしたが、それでも、背後から迫る気配には気付かなかったのです。




 顔を洗うのから戻ってこないトオイを不審に思ったトキは外に出て彼を探しました。どこかに行ってしまったのではないかと思い、探しました。

 どこに行ってしまったんだ、どこに消えてしまったんだと彼を探しました。



 ――そして、遂に彼を見つけました。



 滝壺のそばで、冷たくなった彼の身体を見つけました。殴られ蹴られ切られ裂かれ……原型をとどめていない姿で発見されましたが、彼が彼であることは、トキは直ぐに理解しました。

 どうしてこうなってしまったのか、トキは冷たくなった彼の身体を抱いて泣きました。男が泣くことはあまりかっこいいことではありませんでしたが、そんなこと彼にとってお構いなしでした。彼はただ、泣きたかったのです。

 そして涙を流すだけ流して、彼は決意しました。

 誰がトオイを殺したのか。そして、なぜ死んでしまったのかそれを突き止めるために。





「……これがティパモールに伝わる、天使の伝説だよ」


 ヴァルトは縄に縛られた状態にある崇人に語っていた。

 その内容はティパモールに伝わる天使伝説。言い伝えと言ってもいい。昔から伝わるティパモールの話を崇人に話した真意は誰にも理解出来ない。強いて言うならばヴァルト本人しか知らないだろう。


「……その中途半端の話、続きはないのか?」

「続き? さあね、きっとトオイを殺した犯人を突き止めて殺したに違いない。罪を受けるべき存在はたとえ天使であっても罰する必要があるからね。ティパ神はそれを説いているわけだ」

「天使、ねえ……。ところでその話をした意味がまったく理解できないのだが、それについて質問しても?」

「構わないよ。だが、それについて答える必要も無いがね」


 そう言ってヴァルトは部屋を後にした。言うことだけ言って、立ち去っていった。


「……何がしたかったんだ、あいつ」

 崇人のその言葉はヴァルトに届くことはなかった。



 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇



 イグアス・リグレー率いる増援部隊は闇夜の中を進んでいた。視界は悪いが、ライトを点けてしまってはこの近辺に住んでいる住民に疑問の目を向けられてしまう。噂を持たれてしまった時点で作戦は失敗したことになるのである。だから、それは入念にチェックしていかねばならない。


「しかし……ここまで道が悪いとは思いもしなかったな」


 そう言ってイグアスは舌打ちする。今回彼は初めての指揮をとる。そのためほかの起動従士たちは疑問を浮かべていた。たとえ王族といえども指揮を務めることが出来なければ意味がない。そうなれば最悪勝手に行動する必要だってある。

 そしてイグアスもその危険性を理解していたし、対策も考えねばならないと思っていた。だが幾ら考えてもその対策は出てこず、結局後回ししているだけに過ぎなかった。


「……まあ、結局は俺がどうにかすればいいだけのこと。指揮官としてヘマしなければいい。ほかの起動従士に愛想を付かれなければいいだけの話だ」

『リーダー、目標を確認しました』

「目標……コロシアムだな」


 通信に答えるイグアス。

 一瞬の遅れがあって通信が返ってくる。


『はっ。コロシアムは明かりが点いていますから遠くからでも目立つものですね。あれが敵の要塞だったら一番狙われやすいものですが』

「冗談を言っているのも今のうちだぞ。これから大きな戦いが起きる。場合によってはコロシアム一帯に住む住民を犠牲にしてでも平和を守らねばならないかもしれない」

『今のうちに避難させておいたほうが無難なのでは?』

「馬鹿いえ、そんなことしたら敵にばれる。ならばそんなことをしないでそのまま突入したほうがいい」


 それ以上起動従士は答えず、通信がぶつ切りになった音だけがした。どうやら了解したらしい。

 彼が提案した作戦は最小限の死者に抑え最大限の結果を得ることだった。コロシアム一帯の人間に犠牲になってもらう代わりにティパモールのさらなる混乱を阻止し、国として形を保持していく。これならば何の問題もなく国を発展していくことができる。彼はそう考えていた。

 だが、一般的思考に立ち戻ってみればそれははっきりとした異端である。誰が考えようともそれは異端であることは間違いないのである。彼が王族という立ち位置でなければ誰かが進言したに違いない。その方法は間違っている、もっと民を大切にした戦い方をすべきだ……と。

 進言する人間がいないということは彼が王族であること、さらに彼が大臣という要職に就いていることが挙げられるだろう。国の|政(まつりごと)を担う立場にある人間の言動をそう簡単に否定することなど、特に起動従士である彼らには出来ない。

 そもそも起動従士は戦争や紛争が起きないと使えない人間であるから、全体的に見れば使い勝手が悪いのは誰だって理解出来ることかもしれない。戦争が起きない、紛争もない、平和な世界が訪れるということは、イコール起動従士の仕事が完全に失われたことを意味しており、それについては彼らも危惧しているのである。


「さて……諸君、コロシアムの光が見えてきたということはまもなく到着するということだ。コロシアムに到着次第戦闘態勢に入る。コロシアムに居る人間は敵味方問わず殺す勢いで作戦に臨むこと、以上だ」


 そして、静かに作戦は幕を開けた。




 その頃、マーズは自身の部屋で増援が来たことを知った。しかしそれはイグアスからのものではなく、彼女を慕う起動従士からのものだった。

 マーズはその起動従士から聞いた言葉を、出来ることなら信じたく無かった。もっと言うならば聞きたくない事実だったとも言えるだろう。


「……それ、ほんとうなの?」


 マーズは話を聞いてからその真偽を起動従士に訊ねた。

 起動従士は静かに、小さく、呟くように言った。


『確かに。イグアス様は敵味方問わずコロシアムを破壊すると、そう仰りました』


 はっきりと、それでいて明確に。電話で話す起動従士は言った。彼女はそれを聞いて舌打ちする。自分がこの場に居て何も出来ないということが、とてももどかしかった。

 敵味方を問わない。それは即ち、マーズたちを誤って殺しても何の問題も無いということだ。


「国は……イグアス様は、そんな決断をしたというのか……!」

『ええ。私たちの殆どはそんな決断は拒みたいところですが、イグアス様の気持ちが変わらない以上は私たちに変更の権利などありません……』


 もし勝手に変更などしたら国家反逆罪と見なされその場で殺されかねない。誰もが皆自分の命が惜しいことは当然であった。

 だが、その起動従士はマーズに助かって欲しかった。マーズ・リッペンバーという存在はこんなところで失ってなどいけなかった。彼女はここで死ぬわけにはいかなかったのだ。


『……マーズさん、こうなったら方法は二つしかありません。あなたはここで失ってはならない、失ったら世界のためにはなりませんから』

「嬉しいことを言ってくれるじゃない」


 微笑み、頷く。


『一つは私たちに見つかるよりも早く凡ての人間を救出することです。……何とか我々も策を講じます。時間稼ぎが成功すれば良いのですが……ともかくそれが一番幸せな終わりを迎えることが出来るでしょう。ただし、リリーファーを使うことが出来ません……というよりもそれを使うために戻る時間が確保出来ませんから、自ずとリリーファーを使わずして作戦を実行する必要が出てきます。はっきり言ってこれは危険な選択です』

「確かにね。幾らメンバーを集めても大半は学生上がり。それも場数を踏んでいない人間ばかりだから、足手まといになるのは確実……かしら」

『……二つ目は今すぐこの国から脱出することです。あなただけならどの国に行っても起動従士として働くことは出来るでしょう。そして未だこの国が好きだと言うのなら、ほとぼりが覚めてから戻ってきてもいいではないですか』

「駄目よ、それじゃ……。ほとぼりが覚めたとしても私はここへと戻ることが出来ないでしょうね。国を、ヴァリエイブルの力は凄まじい。例えどう誤魔化したとしてもいつか追い付かれてしまう」

『だったら……ヴァリエイブルの力に屈しろというんですか。理不尽じゃないですか、あなたはずっと国のために頑張ってきたというのに!』


 マーズは溜息を吐く。


「しょうがないわよ、起動従士は戦争や紛争が起きない限り必要とされない。それ以外はただの税金ドロボウと言ってもいい。……まぁ、そう思われても仕方無いのかもしれないわね」

『そんなことは……!』

「ありがとう、心配してくれて。だけどあなたはあなたの任務を遂行しなさい。情に流されてチャンスを逃すなんてあってはならないことよ。例え不満な作戦であったとしても、表情一つ変えずに実行する。我々はそうでなくてはならない」

『ロボットと同じではないですか、それでは』


 電話の相手は力なく呟いた。

 予てより起動従士を自動化しようという動きはあった。その方が感情的にならなくて済むし何しろ命令を聞くからだ。人間ならば予想外の事由で思い通りにならないことが多々ある。


「そう。ロボットと同じよ。我々起動従士の究極体がそれと言ってもいい。ロボットは意志を持たない。自らで考えて行動しない。だから重宝されるのよ。使いやすいから。使い勝手がいいから。抗うことをしないから」


 人間の都合というのはいつまでも勝手なものである。


『……ですが、ですが! 我々は人間です!』

「人間……そうね。確かにそうだけれど、でも私たちはロボットに近しい存在であるのは確か。人権こそ認められているけれど立ち位置は……」

『解りました。それじゃ、あなたは……』

「タカトを救う。そしてリリーファーが凡てを破壊する前に赤い翼を完膚なきまでに破壊する」


 マーズはそう言って電話を切った。



 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇



 マーズ・リッペンバーはハリー騎士団の面々を集めて作戦を発表した。


「最初私たちが戦争を阻止するのかと思っていた……だが、思惑は殆ど違った方向に行ってしまった。今言ったとおり、二時間後を目安にコロシアムの全面爆撃が開始される」

「全面爆撃……大会のメンバーも俺たちも全部皆殺しっていうのかよ!?」


 ヴィエンスの言葉にマーズは頷く。


「皆殺しという表現は間違っているかもしれないわね。正確には殺戮と言っていい。それがこのコロシアムで幕を開けようとしている」

「しかもそれをしようとするのが……イグアス・リグレー……王族だってことか……。最低で最悪だな。ここに本人が居たらハッ倒していくレベルだ」

「もしくはここであの忌まわしき歴史を消去するつもりなのかもしれないわね」

「忌まわしき歴史……ティパモール内乱のことか?」


 首肯するマーズ。


「先程も言ったかもしれないけれど、新たなる夜明けはティパモール内乱に関する新しい事実を知っているのだという。それが真実だとすれば、それが世界に公表されてしまったら、世界は混乱してしまうだろうしヴァリエイブルは反感を喰らうことは間違いない。……彼らはティパモールを完膚なきまでに破壊したヴァリエイブルを嫌っているからそれをしようとしているのも頷ける」


 マーズの言葉は至極論理的であった。ティパモール内乱の出来事は未だにヴァリエイブルにも汚点であるといえる。

 その出来事を掘り起こしてしまうような、新しい事実を持っているというのならばそれを公表して欲しくないのも頷ける。

 だが、そのために話し合いをするでもなく強硬姿勢に出るヴァリエイブルはどうなのだろうか、とマーズは思った。コロシアム周辺の住民を殺戮してでもその事実を公表したくないというのだろうか。


「とにかく作戦について説明する。簡単だ、現時点において私はタカト・オーノが新たなる夜明けに捕まったのではないかと推測している」


 その一言に集まっていたハリー騎士団の一員は驚いた。予想していたのかもしれないが、それでもいざ言われると驚いてしまうものだった。


「新たなる夜明けに捕まっているとしたら、新たなる夜明けがどこにいるのかを見つけなくてはならない。……そこで私は調べた。どうやら大会会場の地下に怪しい人影が大量に出入りしているのが目撃されているらしい。それから推測するに、地下に新たなる夜明けがいるのではないかと考えられる」

「その推測からいくと新たなる夜明けは随分と前からコロシアム地下に潜伏して準備を進めていたということか……。いくらなんでも警備がザル過ぎたんじゃないのか?」

「確かにそうね……。それについてはこれが終わってから対策を考えてもらわなくちゃ」


 呟いて、マーズは紙を取り出す。それは畳められており、テーブルに広げていく。


「これはここの地図。断面図というタイプね。断面図を見ると明らかに怪しいスペースが見える。……ほら、例えばこことか」


 そう言って指差した場所にあるのは名前も書かれていない空白のスペースだった。見るからにして怪しいスペースなのに、誰も気付かなかったのだろうか。


「おかしいと思わない?」


 マーズはヴィエンスたちに訊ねる。

 ヴィエンスもコルネリアも薄々ながらその事実に気付いていた。

 もしかしたら――新たなる夜明けはヴァリエイブルとパイプが繋がっているのではないか。それはあまり考えたくない事実であり、出来ることならなっていて欲しくない事実であった。


「ええ……そうでしょうね。きっとあなたたちも今のことを聞いて嫌なことを考えてしまったと思う。だが、これは変わらない。事実よ」


 マーズの言葉にヴィエンスたちは何も言わなかった。


「起動従士の意味をどう捉えているのか解らないけれど……いい駒としか思っていないんじゃないかしら。本人から話を聞いていないからただの推測になってしまうけれどね」

「推測、ですか」


 そうは言ったが、彼女の話は推測だと言い難いくらい的確なものだった。

 コルネリアは怖かった。自分の『正義』が間違っていたのかと思った。どうして自分が死なねばならないのかと思った。自分がやっている行動は正しいものではないのかと思った。

 どうして、どうして、どうして……。彼女の頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。


「……まあ、確かに解らない気持ちも解る。私もどうしてこんなことになってしまったのか……今までは建前ばかり並べてきたけれど、いざこうなってみると解らないものね……」


 マーズは溜息を吐く。

 しかしこうしている場合ではない。彼女の決意はそれほど軽いものなどではないのだ。


「どちらにせよリリーファーを良く思っていない集団もいるし、今回みたいにティパモールと組んで何か為出かそうとしている人間がいるのも事実。だけれど、私たちはそれでも戦わなくてはならない。私たちの背後にヴァリエイブルの住民五千万人がいることを、努努忘れないように」


 マーズの言葉を聞いて、ヴィエンスたちは大きく頷いた。

 彼らの目にはこれから始まる大きな戦い、そしてその勝利が写りこんでいた――のだろう。



 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇



「物語を転換させる?」


 ハンプティ・ダンプティはソファに腰掛けて紅茶を啜っている帽子屋に訊ねる。訊ねる、といってもハンプティ・ダンプティが言ったのは帽子屋の言葉の一部を反芻しただけに過ぎない。


「そう。物語を転換させるんだ。文字通り、大幅にぐるっと、百八十度ね」

「そうはいうが……いったいどうやって?」

「簡単だ。インフィニティを使うんだよ。そしてそのためにパイロットを用いる。簡単だろう? 世界を転換させる、ストーリーを転換させる……。そうでないとやっぱり『見ている側』からしても面白くないしね」

「見ている側……つまり我々から見て、ということなのだろうが、それで何が得られる? 作戦の可及的速やかな実行こそが目的では無かったのか?」


 帽子屋は残っていた紅茶を飲み干した。


「可及的速やかに。確かにその通りだ。そうでなくてはならない。……だが、必ずしもそれをやろうというわけじゃない。作戦遂行も大事な目的だ。だがハンプティ・ダンプティ、僕たちがやりたいのは未々ある。その第一段階として先にこちらを済ませてしまった方がいいだろう、ってわけだ」

「成る程。それほどまでに時間がかかる可能性があるならば致し方無い。……それで? それによる効果は何だ?」


 ハンプティ・ダンプティの言葉を聞いて、帽子屋は薄ら笑いを浮かべる。まるで彼はその言葉を待っていたかのようだった。

 帽子屋は腰掛けていたソファから立ち上がり、ハンプティ・ダンプティの肩に軽く触れた。


「……一度世界をある段階まで破壊する。その為にインフィニティとその起動従士に犠牲になってもらうよ」

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