第91話

 自由都市ユースティティアのとある家庭。そう、具体的に言えば夕食のシチューを煮込んでいた家だ。

 母親はそれを息子に食べて笑顔になってもらうのを楽しみにして。

 息子は母親の作った料理をお腹一杯食べるのを楽しみにしていた。

 だがそんな楽しみも喜びも、これから起きるはずだった凡ては、もう瓦礫の下に埋もれてしまった。

 母親は消え行く意識の中、何とかして息子を探していた。息子はどこだ、息子はどこだと瓦礫を掻き分けて探す。

 息が苦しくなっても手のひらがボロボロになってもよかった。そんなことより、息子を見つけたかった。

 そして。

 その存在は意外にもあっさりと見つかった。瓦礫に埋もれた姿で見つかった。

 それを見て彼女は喜んだ。そして咽び泣いた。

 だが、息子の身体は既に冷たかった。

 遅すぎたのだ。

 そして直ぐに彼女は何故間に合わなかったのかと問うた。なぜ息子が死ななくてはならなかったのかと問うた。

 彼女は涙が止まらなかった。彼女はもうどうでもよくなってしまった。

 彼女はそっと息子の頬に口付けをしてそのまま静かに目を瞑った。




 またとある家庭。具体的には父親と絵本を読む子供が居た家庭のことだ。

 父親は瓦礫を掻き分けて、漸くその頂上に到着した。母親は瓦礫が大してないところにいたらしく、既に瓦礫から出ていた。息子が出てきたのを見て、母親は涙を流しながら息子を抱き寄せた。

 父親は辺りを見渡す。そこはまるで地獄絵図のようであった。いたるところが燃えていて、子供の泣く声が聞こえて、女性が名前――恐らく子供か夫だろう――を呼びながらふらふらと徘徊しているのが、ざっと見渡しただけでも解ることだった。

 自由都市ユースティティアは神の加護により守られている都市――というのが法王庁を信仰する人間が必ずきかされる話である。

 ユースティティアは神の加護を受けていないとでもいうのか? 父親は辺りを見渡しながら、そんなことを考えていた。

 それは、教徒からすれば法王庁そのものを冒涜する考えでもあった。しかし彼はそれしか考えることが出来なかった。

 溜め息を吐いて、彼は空を見上げる。そこにはクリスタルタワーがいつもと同じように光を湛えながらその場に建っているだけだった。



 ◇◇◇



「法王猊下! ユースティティアが敵軍により被害を受けました! 現在確認を進めておりますが、都市の五分の一にまで被害が広がっているとのことです!」


 法王庁のトップを務める法王はその話を聞いただけで頭が痛かった。

 最初は騎士団を拿捕してリリーファーと騎士団員という戦力を確保して順風満帆だったにもかかわらず、僅か三日程で逆転してしまった。現実を理解したくない気持ちも、なんとなくではあるが理解出来る。

 だが、彼はこれに対処しなくてはならない。少なくとも自由都市ユースティティアとそれを中心とする法王庁自治領で起きた問題については法王庁――ひいては法王がその問題に直接対処せねばならなかったのだ。


「……ヘヴンズ・ゲートの方は?」

「ヘヴンズ・ゲートには現在リリーファーを数機そちらに派遣しております。それで何とかなるとは思いませんが、時間稼ぎにはなるかと……」

「時間稼ぎ? 貴様、もしやゲートを陥落させる前提で考えているのか!」

「そんな、まさか! 私はそんなことを一切考えてなど……」


 報告に来た臣下に文句を言っても仕方がなかった。しかし、彼は今とても苛々していて、鬱憤が溜まっていたのだ。

 それについては報告に来た臣下にだって解ることだった。だからといって口答えなどしなかった。上の言葉は素直に聞いて少しでも気持ちを和らがせる、そのために彼は話を聞いているのだ。たとえ理不尽な怒りを受けようとも、それについては仕方ない話だと既に割り切っていた。


「……ゲートに関しましては、聖騎士団を出す方向で調整しまもなく出動させる予定です。バルダッサーレ騎士団長にはまだこの前の戦闘の疲れを労ってもらってはいませんが、参戦していただく予定です」

「バルダッサーレか……。確かに彼奴がいれば聖騎士団は百人力だろう。しかし、幾らあいつとはいえ、こうスパンを短くして参戦を決意するのは大変だっただろうな」

「もともとは指揮官のみの予定でしたが、ユースティティアに直接爆撃されたのを見て、こんなことをしている場合ではないと激昂しておられました」


 バルダッサーレの理由を聞いて、法王は頷く。

 未だここで諦める場合ではなかった。兵士が未だ『やれる』と言っているのだ。守るべき土地に土足で踏み入り攻撃してきた連中に、裁きを下すべきだと言っているのだ。

 なのにリーダーを務める彼が、簡単に戦いを諦めてもいいのだろうか?

 答えはノーだ。諦めていいはずがない。彼の判断一つで法王庁自治領に住む人間を生かすことも殺すことも出来る。ならば、出来る限り、いや、確実に前者の結果に導かなくてはならない。


「ヘヴンズ・ゲートにはバルダッサーレ率いる聖騎士団を送れ。そしてユースティティアには『聖人』を呼ぶぞ」


 その言葉に臣下はひどく驚いた。

 それもそのはず。聖人とは法王庁自治領に二人しかいないという魔術師のことだ。今回の戦争の規模からして彼らが出撃することになるのは、もはや当然にも思えた。

 だが、このタイミングで参戦になる、しかもヘヴンズ・ゲートではなくユースティティアの守護をさせる……そのことに彼は驚きを隠せなかった。


「……どうした。早く聖人とバルダッサーレたちに報告しろ。各自持ち場につけ、と」


 その言葉を聞いて、臣下は恭しく笑みを浮かべながら頭を下げて、その場を後にした。



 ◇◇◇



 『聖人』アタナシウス・レブルゴールは暗闇の中で沈黙を保っていた。

 彼なりの精神統一、或いはそれ以上といえるだろう。

 アタナシウスは何かの気配に気が付いたのか、前を向いた。


「……それ以上黙りを続けているつもりならば、敵と見なして攻撃を行うぞ」


 彼が声をかけた先にはただ闇が広がっていた。

 しかし、そうではなかった。闇の向こうにかすかに明かりがある。


「突然のことで申し訳ない。だが、事態はそう悠長に待ってくれるほど優しくないのです」

「……なんだ、さっさと言えよ。そんなに勿体ぶって」

「聖人のお二方を戦場にお招きしたい……法王猊下はそのように考えているようです」


 それを聞いてアタナシウスは目を輝かせた。


「……ふうん。ずっとずっとずっと待っていたが、これで漸くその不安は消えたと。猊下は我々に何をさせる気なんだ、まったく」

「猊下は、このまま行くと敵に飲み込まれていくのを回避したい狙いがあります。たとえば今はもうユースティティアの目の前まで敵の騎士団が迫ってきています。市民にも多数の被害が出ています」

「つまりはそれをどうにかしたいから、とりあえず聖人でも呼んでおけば何とかなるだろう……。話だけ聞けば、物語をこのようにしか解釈出来ない」

「必ずしもそうとは限らないのですが……、まぁいいでしょう。ともかく今法王庁自治領の一大事であることには、変わりありません」


 アタナシウスは苦い表情を浮かべる。それほど戦いたくないのだろうか……というのははっきりと解っていないが、しかし彼が浮かべた表情は、どちらかといえばそれとは違う何かに起因する。

 アタナシウスが持っていた杖が、暗闇であるにもかかわらず、仄かに輝いた。


「……というか僕だけに参加の命令を言うのは些かどうかと思うけれどね。聖人には僕のほかにもう一人居るじゃないか。怒ると怖い、もう一人が」

「呼びましたか、アタナシウス」


 背後から聞こえたその声は彼にとって既知だった。そして出来ることならば敵に回したくない存在の声だった。

 アタナシウスは振り返った。そこに立っていたのは、女性だった。腰まで伸びた長い黒髪は艶やかであり、それを頭の上の方で結んであった。服は彼女が持っているその武器にまったく似つかわないものであった。

 ――純白のドレス、だ。彼女はそれを着ていた。

 そして、その純白のドレスの格好にはまったく似合わないそれを、彼女は背負っていた。

 それは剣、だった。しかしそれはただの剣ではない。まず大きさが普通の剣の規格外であった。大抵、普通の剣というものは腰に構えていることもありそれほど長くはない。

 しかし彼女の武器になっている長剣は違った。彼女の身長とほぼ同じ大きさだったのだ。その割りには刀身は太くないので、彼女の華奢な身体がそれで隠れてしまうことはない。

 だが、そうとはしてもその重量は相当である。普通の人間ならば歩くこともままならないだろう。そんな規格外の剣を持って戦うのだから、尚更『聖人』という存在が規格外であることを実感させる。

 そんな彼女が、アタナシウスの前に立っていた。


「……まったく。リリーファー同士の戦いに私たちを使うとは。|法王庁(うえ)は相当お困りのようね」


 誰に言ったでもない言葉を呟いて、彼女は目を瞑った。

 彼女の姿を見て、アタナシウスは直ぐに反応することは出来なかった。何故なら、アタナシウスの中での『彼女』のイメージは、仕事が早い存在などではなく、彼以上にマイペースな存在だったからだ。

 聖人はあまりにも強い。それゆえに普段は表舞台に登場することなどなく、法王庁に仇なす者が現れた時やこのようにピンチなタイミングになったときに用いられる――所謂最後の切り札であった。

 だから、聖人を法王が使用するのを決断したということは、裏を返せば法王庁がそれほどまでに追い詰められていることを意味していた。


「えぇ……。残念ながら現在の戦況はとても我々にいい方向に傾いているとは言えません。寧ろ逆です。悪い方向に進んでいます」

「ヘヴンズ・ゲートも攻め入られている……とのことらしいな? あちらに聖騎士団を割いて、僕らをユースティティアに配置するって少々おかしな考えではないかな?」

「それは仕方ありません。それは変えられようがないのです」


 そう言って、男は踵を返す。


「いいじゃないか。もう少し話をしよう。どうせここでなら時間の流れは緩やかだ。……法王猊下もそれを考えた上で魔法で私たちを無理矢理召喚することもしなかったのだろう?」


 そう言ったのは長剣を背負った女性――キャスカ・アメグルスであった。

 キャスカの問いに、男はこちらに振り返らないまま、ただ微笑みで返した。


「……ですが、この場所は時間が止まっているわけではありません。ゆっくりであっても時間は蓄積され続けているのです。それが意味することは聖人であるあなたたちが知らないとは言わせませんよ」

「……冗談だ。解った。直ぐに敵を倒すために出撃しよう」


 男の返事にキャスカは頷いた。

 そして男は再び歩き出し、その空間を後にした。



 その頃、ヘヴンズ・ゲートのある洞窟を探索している『クライン』に乗り込んでいるハリー・メルキオール共同騎士団の面々は、予想以上に入り組んでいる洞窟に苦しんでいた。


「この洞窟がこれほどまでに入り組んでいるなんて、聞いてないぞ!」


 ヴィエンスは思わずそんな文句を垂れる。だが、今その文句を言ったところでそれを聞き届けてくれるはずもない。

 ヴィエンスは舌打ちしながら、その理不尽な状況を受け入れながら、進むしかないのだった。

 彼を含めるクライン一行が行うことは以下のとおりだ。先ず、洞窟内部にあるというヘヴンズ・ゲートへと向かいそれを発見する。

 見つけたあとはそれの座標を地上に居るインフィニティ、アレス、アシュヴィン、ガネーシャに報告する。そしてインフィニティら四機がその直上に向かい、そこからコイルガンで地上までの穴を開ける。

 その後はヘヴンズ・ゲートそのものを封印或いは破壊……といったステップで進んでいく。その計画さえ見てみればそう難しい話ではなく、寧ろ簡単な部類に入る。しかしながら、彼が今回の作戦のポジショニングに失敗したと実感しているのはこの洞窟の形状によるものであった。

 この洞窟は深く入り組んでいる。それだけならば問題はないが、それが上下に入り組んでいるのだ。進めば進むほど地下奥深くへと進んでいく。リリーファーには酸素ボンベが装備されているため酸素の問題はないが、とはいえあまりにも深く潜る。

 それを知らなかったヴィエンス(もちろんほかの人間もそれを知るはずがないから、初めてのことである)は、その環境に慣れるために苦しめられることになった。それにイライラしていたのだった。


『……おい、ヴィエンス。どうした、遅れているぞ』


 コルネリアが言ったので、ヴィエンスはそれに遅れないようにそれなりのペースで歩き始める。今、一番前を歩いているのはメルキオール騎士団のリパクル・エボワンスであった。リパクルは容姿端麗で、かつ八方美人と謳われる存在であった。

 リパクルをリーダーに据えたのはヴァルベリーとマーズが話し合った結果によるものであり、決してヴァルベリーが我を通したわけではない。しかしその詳細を知らない、特にヴィエンスにとっては怒りを募らせていた。

 なぜ自分ではないのか。なぜ自分がリーダーの役割を果たすことができないのか。

 出撃前、マーズに訊ねたが帰ってきた答えは芳しいものではなかった。

 要するにマーズはヴィエンスを見下していたのだ――ヴィエンスは勝手にそう思い込んでいた。マーズがほんとうにそう思っているかどうかは彼女じゃないと解らないことであるが、彼自身はそう思い込んでいるので、きっと彼女の弁解を聞いてもそれを聞き分けることはないだろう。

 それほどにヴィエンスは歪んでいた。リリーファーに乗りたかった。注目されたかった。

 どうして彼がそこまでリリーファーに執着するのかといえば、簡単だ。――彼が戦争孤児だからである。

 戦争はリリーファー同士によって引き起こされるものだ。だから、戦争孤児とはリリーファーによって家族を殺された人間という意味に等しい。

 にもかかわらず彼がこの選択をしたのは、『これ以上意味もない人々を殺したくない』という意味から来ているのかもしれなかった。だが、それは叶えることの出来ない願いであることもまた、事実ではあるのだが。


「……ともかく、この迷路をどうにかして脱出しなくてはならないな」


 迷路、と彼は言った。それは間違いではないのだが、かといって正しくもない。

 迷路というよりは迷宮に等しい。迷路というよりはアスレティックに等しいからだ。『迷路』と『滅入ろ』のダブルミーニングになっているようなそんな雰囲気もヴィエンスは思ったが、正直な話そんなくだらないことを考えてしまうほどいろいろと疲れているのだろうと思うと自然と溜息が出てしまうのであった。


『ヴィエンス、前方をみろ』


 コルネリアからの声を聞いて、ヴィエンスは前方を見た。

 ――そこにあったのは、巨大な扉だった。

 金色に輝く、巨大な扉だ。宝飾品が至るところに装着されていて、まるでこの世の凡ての宝石がこの場に集中しているようにも思えた。目を奪われる光景とはこのことをいうのだろう……その場にいる彼らはそんなことを考えてしまった。


「すごい……すごすぎる……」


 メルキオール騎士団の一人が、外部スピーカーへの接続をオンにして、そうつぶやいた。その言葉は、誰もが言いたかった言葉でもあった。

 一機のリリーファーが、ゆっくりとそちらに近づいていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと。

 そのリリーファーに従うように一機また一機と扉へと近づいていく。

 ヘヴンズ・ゲート。

 直訳すれば、天国の門。

 その扉が今、彼らの前に屹立しているのだ。

 リリーファーが一機、ヘヴンズ・ゲートの前に立って、それに触れた。

 たった、それだけだった。

 刹那、ヘヴンズ・ゲートの周りから鐘の音が聞こえ、それが空間へと響き渡っていく。周りのどこを見ても鐘の音が響いている、その光景は異様なものであった。


「な、なんだ……!?」


 リリーファーはその鐘の音を聞いて後退る。そして、その時に開け放たれていた扉の奥を目撃してしまった。

 扉の中には、暗黒が広がっていた。

 しかし、扉は壁に設置されているわけではなく、広々とした空間の真ん中に設置されている。普通の常識からすれば、扉の先には広々とした空間の向こうが見えるはずだった。

 だが、それは間違いだった。そんなものは見えない。ただ、暗黒が広がっているのみだった。


「……ヘヴンズ・ゲートは……ほんとうに『異次元』へとつながっているというのか……!?」


 リリーファーに乗る起動従士が呟く。

 その言葉を聞いて、ほかの起動従士もどよめいた。

 ただ一人、馬鹿馬鹿しいと思ってその光景を俯瞰しているヴィエンスを除いて。


「馬鹿馬鹿しい……。そんなことあるはずがないだろうに……」


 ヴィエンスはそう言って溜息を吐いた。

 ヘヴンズ・ゲートに変化が見られたのは、ちょうどそんなタイミングのことであった。

 ヘヴンズ・ゲートの中身から、何かが出てきたのだ。

 それは、巨大な腕だった。

 その腕は黒く、凡てを吸い尽くしそうな禍々しい色であった。そして腕は、ヘヴンズ・ゲートに一番近かったリリーファーを掴んだ。


「ば、バケモノめ!」


 リリーファーに乗っていた起動従士は叫んで、コイルガンを撃ち放つ。

 だが、その腕に命中したはずのコイルガンから放たれた弾丸はひしゃげていた。

 それを見て起動従士は鳥肌が立った。そして、彼の経験が『こいつはマズイ』と語っていた。


「こいつはマズイ! 逃げろ、逃げるんだ!!」


 彼は最後の力を振り絞って、ほかの起動従士にそう命令する。

 その刹那、そのリリーファーは腕に掴まれたまま離れることもできず、ヘヴンズ・ゲートの中へ吸い込まれていた。

 彼の放った断末魔は、そこにいた起動従士の耳からしばらくは離れなかった。


「地上、マーズ副騎士団長、タカト騎士団長! 地下、ヘヴンズ・ゲート探索隊のコルネリアです!」


 コルネリアは即座に通信を図った。通信の相手は地上で今か今かと待っているアレスの起動従士マーズ・リッペンバーとインフィニティの起動従士タカト・オーノであった。

 相手からの反応を聞くまでもなく、コルネリアは話を続ける。


「ヘヴンズ・ゲートから生えた謎の腕がリリーファー一機を飲み込みました! 現在そのリリーファー及び起動従士は消息不明! 座標を大急ぎで送信しますので、救援願います!」


 それを地上で聞いていた崇人は冷や汗をかきながら、マーズに訊ねる。


「おい、聞いたかマーズ。地下から救援要請が入っているぞ」

『ええ。聞いているわタカト』


 通信の相手であるマーズも、それを聞いていたが、その反応は芳しくない。

 なぜなら。


『……聞いていた話によればもっとリリーファーはいると聞いていましたが、まあいいでしょう。少なくても多くても、私たちには敵うはずがないのですから』


 彼らの目の前にはリリーファーが立っていた。

 その数、三十機。

 彼らが聖騎士団と呼ばれていて、その声がリーダーであるバルダッサーレのものであるということは、崇人たちは知る由もなかった。

 バルダッサーレはリリーファー『聖騎士』の中で北叟笑んでいた。


「あれがインフィニティ、最強のリリーファーか。なんだ、思ったより普通のリリーファーではないか。こんなものにレパルギュアの港は陥落させられ、ヘヴンズ・ゲートを守っていた聖騎士はやられたというのか……。さらには『大会』における赤い翼殲滅もあいつが行った……と」


 ぶつぶつと呟いているが、これはあくまで戦略を立てるための大事なプロセスであるとしていて、いくらほかの人間から奇妙な行為だと揶揄されても彼がし続けるプロセスであった。

 声に出して、問題をはっきりさせるとともに改めて理解する。

 それは彼の中で大事としていることであったのだ。

 それを整理して、彼は大隊に命令する。


「どうしようとも構わない。目的はインフィニティ含む前方四機のリリーファー。作戦はいつも通り。そして……破壊しても、お咎めなしであることはいつもと同じだ」


 ニヒルな笑みを浮かべて、バルダッサーレは行動を開始した。

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