第二章 Le diable interieur

第21話 プロローグ


 ――また、あの夢か。


 綾斗は片手で胸を抑えながら、高鳴る鼓動を沈ませる。

 シーツは汗で冷たく湿っていて、肌に張り付く不快感を剥ぎ取るようにベッドから起き上がった。


 記憶の奥底で揺れる銀色の流線。


 悪夢を見たのは二ヵ月ぶりだ。


 仮想現実からレムを救出してから悪夢は見ていなかった。

 きっと自分の中で何かしらの踏ん切りがついたからなのだろうと綾斗は思っていた。


 ――分かっている。罪はまだ償えた訳じゃない。だからきっと、それを自身に戒めるために見せた悪夢。


 綾斗は奈落ならくに呼び込まれる亡者のようにふらついた足取りで、ガレージへ向かった。


 裏口を出て庭先でふと視界に映り込んだもの。


 月明かりを浴びて闇夜に浮かぶ群青色の紫陽花あじさい


 見慣れたはずの光景が何故か今日は目についた。

 しかし、立ち止まることはせず視線を戻して目的の場所へ向かう。


 ガレージのおよそ半分を占める躯体くたい

 無言のまま硬質なそれに身を横たえた。


 すっと冷たい空気を吸い込んで、沈みゆく意識のふちに強く刻み込む。


 ――強くなれ。もう二度と同じ過ちを繰り返さないために。

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