3-3 本心をぶつけろっ!
「Ⅴ系がライブ? 行ってみようぜ」
「あそこって非公認でしょ? よく体育館借りられたね」
――と校内に残っていた生徒たちは、ライブ会場に足を運ぶ。
時間は四時。ステージ前にはそれなりの人数が集まった。
体育館の後ろの出入り口にたどり着いた癒月が、右手を高く挙げてステージ上に合図をする。ライブスタートだ。
「邪魔するな、中止の放送をするんだ!」
「それはさせないっ!」
放送室前で晴樹と会長はもみ合っていた。会長の顔を濡らせば、力が出なくなるのかもしれない。……が、近くに液体はない。残念だ。
もみ合っているうちに職員室の時計の針は四時を指した。ありがたいことに、会長はそれに気づいていない。
このまま足止めせねばっ、と晴樹はより一層気合を入れた。
ライブは順調に進行していた。ノリのいい生徒が多く、予想よりも盛り上がっている。
ラスト一曲というところで、見たことのない人物が登場した。黒のロリータ服に、長くふわふわとしたミルクティー色の髪。顔はばっちりとメイクがされており、目には緑っぽいカラコンまで入っている。
体育館の前の出入り口から入り、最前列の中央に突き進む。「あの人誰?」と会場がざわついた。そのことには何も触れずにⅤ系バンドは演奏を始める。その瞬間、謎の人物の周囲にいた生徒たちは凍りついたように動きが止まった……。
謎の人物が体全体を使って、首を上下に激しく振り出したのだ。その様子に皆、目が釘づけになっている。しかし途中から「俺たちもやろう」といった声が聞こえはじめ、謎の人物を中心にヘドバンの波が広がった。その中になぜかヲタ芸をしている男子生徒が数人混じっていたのは内緒だ。
曲が終盤に差しかかる。
体育館の外からライブを観察していた癒月が、ゴリラのような教師が大股でこちらに向かって来るのを見つけた。――鈴石だ。
癒月は「止まってください」と両手を大きく広げたが、鈴石のゴリラ的巨体には効果なし。すぐに押し通られてしまった。
鈴石はふんっ、と鼻息で癒月を威圧し、後ろの出入り口から体育館に入った。
体育館内の光景に鈴石は怒りが爆発した。生徒たちが勝手な行動をしているのが許せなかったのだ。
「何やってるんだ!」
叫び声に、生徒たちは一目散に逃げる。Ⅴ系バンドクラブも自分の楽器とスティックを持ってステージから消えた。
残っているのは、外の癒月と謎の人物だけ。
「そこのお前、どこの誰だ!」
鈴石は無音にもかかわらずヘドバンを続けている謎の人物に、どすどすと足音を立てて近づく。
やっとヘドバンを止め、ロリータとゴリラは向き合った。
「私です」
謎の人物は頭に手を伸ばし、綺麗な髪を豪快に引きはがす。ウィッグの下から見覚えのあるおさげが顔を覗かせた。カラコンも外してメガネを掛ける。完全に委員長だ。
鈴石は心の底から驚いたらしく、目つきの悪い目が丸くなる。
「何でこんなことをしたんだ」
「ストレスが溜まってたんです」
「それなら担任の俺に相談してもよかったじゃ――」
「私は!」
委員長が鈴石の言葉を遮った。
「先生に対してストレスが溜まっていたんです。先生の都合のいいように使われたり成績について小言を言われたりするのに、もううんざりなんです!」
鈴石は目を鋭くさせて反論する。
「俺はお前のことを思ってやってるんだ」
「それは違います。先生は自分のクラスはまとまったクラスで成績も優秀だって、他の先生にマウントを取りたいだけですよね? …………お前の都合に私を利用するな!!!!」
彼女は本当に委員長なのだろうか。バンドギャルの力を借りてたくましくなっている。
痛いところを突かれたようで、鈴石はたじろいだ。
「失礼します」
その場を後にする委員長。ストレスの塊は何も言い返すことなく棒のように突っ立ったままだった。
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