3-1 ついに実行だっ!

  ついに実行日。Ⅴ系バンドの教室には、すぐに七人のメンバーが集まった。晴樹は改めて作戦の役割を確認する。


「Ⅴ系バンドはステージに楽器を運んでくれ。ドラムセット一式とアンプとかの機材はステージ裏に浮いてあるのを使うから、ギターとベースだけ大丈夫だ」


 ドラムセットと機材が体育館に置いてあるのは助かった。もしもこれらを運ぶ作業があったらそれだけで疲れるし、時間も押してしまう。


「俺と癒月は、会議室の扉を外からロックして先生たちの足止めをする。要は、時間稼ぎだ。それと体育館に人が集まるように放送をかける」


 癒月が縦長の筒状のものを軽く掲げた。ナイロン製で、上方の側面に袋を開け閉めするためのごつい金具がついた竹刀袋だ。中学生用らしく、長さは百二十センチくらい。中には竹刀が二本と鍔がいくつか入っている。以前姉が使っていたものをパクっ……拝借したとのことだ。


 これで扉が開かないようにするなんて、一体どんな手を使うのだろうか。


「最後に委員長。アレは持ってきたか?」


 委員長はアレの入ったトートバックを持ち上げ、力強く頷いた。


「なら、あとはそれぞれがやるべきことをやるだけだ。何か質問はあるか?」


 一人、ドラマーがさっと挙手する。「体育館にドラムスティックがなかったら、素手で叩くべきか」という内容に「自前のスティックを持参しろ!」と全員が笑った。一気に場の緊張がほぐれる。


 晴樹が手を広げて右腕を前へ伸ばすと、その上に六つの手が重なった。


「作戦開始だ。頑張るぞー!」


「おーーー!!!!!!!」




 ストサポペアは職員室の横にある会議室に向かい、教師たちが続々とそこに入っていく様子を近くの階段から隠れて見ていた。


 会議室の中から司会らしき声が聞こえる。


「先生方、お集りでしょうか? それでは時間ですので会議を始めます」


 今がチャンスだ。癒月は持っていた竹刀袋を会議室の扉にあるレバーハンドルと扉の間に差し込む。竹刀袋の金具が引っ掛かり、レバーは動かなくなった。これなら中からでも動かせないだろう。


 無理矢理レバーを下げればどうにかなるかもしれないが、ここは学校。壊すわけにはいかない。


「第一ミッション、クリアです」


 階段に身を潜めて周囲の監視をしていた晴樹のそばに癒月が戻り、報告する。誰が見てもわかる得意げな表情だった。


「ありがとな。よっしゃ、今度は俺の番だ」


 晴樹は職員室にこっそり忍び込んだ。


 職員室内は……誰もいなかった。がらんとしていて、普段よりも一回りくらい広く感じる。


 晴樹は奥にある放送室をめがけて走った。

 

 マイクを使って校内に放送をかける。


『四時から体育館でⅤ系バンドクラブによるライブを開催しますっ! 暇な人も、暇じゃない人も、絶対に来てくれっ! 以上、ストサポの日比谷晴樹でしたっ!』


 ここまでが彼らのミッション。晴樹は廊下に出て「第二ミッションクリアっ!」と癒月にピースサインをした。


 体育館に行く前に念のため会議室に寄ってみると、「開かない! ストサポが何かやったな!!」と鈴石の怒り狂った野太い声が聞こえた。


 おー、こわいこわい。


 ストサポの二人は逃げるようにその場を去った。


 ――その姿を見ていた男子生徒が一人。生まれつきの丸顔をさらに丸く膨らませて、急いで二人組を追いかけた。



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