2-1 元気にあいさつだっ!
三人がたどり着いたのは真っ暗な教室。ここもストサポの部室と同様、本来ならば使われていないはずだ。
それにもかかわらず、中からは軽音部と同じような音がする。だが、軽音部ではないと委員長と癒月は確信した。激しいシャウトが聞こえるのだ。
「日比谷くん、ここって一体……?」
「ここはⅤ系バンドクラブの教室。癖は強いけど、いいやつらだよ」
委員長のレンズ越しの眼差しは、期待と緊張が入り混じっている。
「ここも非公認であんまり表に出ないからな、知らないのも無理ないさ。中に入るぞ」
「は、はいっ」
晴樹からの合図を受け、緊張を消し去るように深呼吸をしてから唾をごくりと飲み込んだ。
扉を開けると彼らの演奏がダイレクトに三人の体にぶつかった。
ベースとドラムのリズムキープは正確だし、かき鳴らされているギターの技術は凄まじい。ボーカルの声も心惹かれる。
しかし、どこを取っても狂気じみたものを感じた。
四人のバンドメンバーの髪色は赤や青とカラフルで、顔には化粧が施されているため、本当に高校生なのか疑わしい見た目だ。おまけに、息をするようにヘドバンもキメている。
演奏が一通り終わると、晴樹は凍りついている癒月と委員長を横目に教室の電気をつけて一歩前へ出た。
そして息を大きく吸いこみ、シャウトする。
「お疲れぇぇぇっ!」
取り残された二人はこう思った。こいつ、頭が弱いのかな、と。だが、その考えはすぐに変わった。
今度は赤髪ロングでパッチリ二重のボーカルが晴樹と同様に一歩前へ出て、息を吸いこむ。
「ありがとぉぉぉぉぉぉぉう!」
晴樹よりも伸びる叫び声。
あ、なるほどね。『こいつ、頭が弱いのかな』ではなく『こいつらは、頭が弱い』が正解なのか。
それぞれのクラブの『頭が弱い』が、満足げに拳をこつんと合わせる。どこの熱血少年漫画だよ、と癒月は心の中で呟いた。
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