第15話



「どうして……って」

「だって…。忘れて、たんだよ?この気持ちも、思い出も。それなのに、急にあんなこと言って…。…普通」

「じゃあ“ごめんなさい”って言って欲しかったのか?」

 リュウリィは言いながら自身も腰を下ろす。

 私は息を呑んだ。ひゅっと喉から音がした。何かを言葉にしようと、口を開いた。けど、うまく音が出なかった。

「…そんな顔するくらいなら、聞かなきゃいいのに…」

 私はばつが悪くなって顔を俯けた。リュウリィが、苦笑する。しながら、頭をふわ、と優しく撫でてくれた。その、大きくて暖かい手のひらに、私はまた、恥ずかしいような嬉しいような、不思議な気持ちになる。

「…俺だって、ずっと一緒に居たかったんだよ。アイツに勝ったら、告白して…、そして、いつか一緒に暮らそうって、そう思ってたんだ。…けど」

 リュウリィが優しい黒色の瞳を細める。その瞳は、すごく、悲しそうな色をして、揺れていた。


 私も…ずっと一緒に居たかった。小さな家を買って、何度もデートをして、キスをして。美味しいものを食べて、たまには一緒に料理したりして、生きていきたかった。

 …その未来は、残念ながら前世の私達では叶わなかったけど。


「…今度は、今度こそは…ずっと一緒に居よう。まだ年齢的にちょっと壁があるけど、向こうでぶつかった壁に比べたら…そんなのなんでもないだろ?」

 私は頷いて応える。

「うん。そうだね。なんでもない…」

 私は少し昔を思い出して…。

「…もう、絶対、離さないからね。“流”」

 彼の手を取り、私は、昔の自分に、そっと別れを告げた。

 流は一瞬驚いたようだったけど、すぐに笑顔で


「ああ。…俺もだよ、“来”。…離れないし、離さない」


 と、私の手をぎゅっと握り返してきた。そのまま、互いに顔を近づける。



 …世界を越えて、時も越えて。


 私達はやっと…、『恋人』同士になれた。


 とても、とても長かった。辛かったけれど…でも。


 …お陰で、どんな二人にも負けないくらい、深く、強い絆で結ばれた。



 …そこだけは、…少し。本当に少し、良かったって思えるかもしれない。


 私はこっそり、笑顔でそう思った。

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