第14話



「ねぇ、リュウリィ。これからどうしよっか?」

 私は町を俯瞰で眺めながら、そう呟く。


 私達は昨日、結局午後の授業全てに出なかったので、当然先生に怒られた。が、次の日の昼休みも、懲りずに屋上に来ていた。

 ちなみに、今日は忘れず、来る前にそれぞれ昼食用のパンを購買で買ってきた。


 ライラックとしての記憶も無事戻り、再会も果たせた私達の今後の課題は、“これからどうするか”。今日は、それを話すためにここへ来ていた。

 私の呟きに、リュウリィがパンの包装を開けながら言葉を返す。

「“どうする”か…。俺は取り敢えず、前世の事は隠して、学校や家ではこれまで通り、“町田流”で通したいかな…」

 言い終わると、リュウリィは唐揚げサンドを頬張った。

 まあ、急に『私前世は異世界で魔法使いやってましたー』…とか言われても、『頭大丈夫?』って感じだよね…。うん…。

「ライラックはどうしたい?」

 リュウリィに振り向かれ、訊かれて私は答える。勿論、聞くからにはちゃんと考えてきてはいる。私はパンの袋をガサガサと弄りながら話す。

「私も、…大体同じかな。わざわざ言うのもなんか変だし、言われた方も困るだろうし…」

「だよね」

 リュウリィが笑った。彼は、『じゃあ、取り敢えずはこれまで通り、でいいかな…』と、話を締めくくろうとする。私は慌ててその結論に待ったをかける。

「え?…あ、何か言い忘れてた?」

 そのまま彼に、『ごめん。どうぞ』と促され、私は一瞬口籠る。

「………」

 い、言いにくい。けど、言わないと何も始まらない。

「……っ…」

 けど、でも…。


 やっぱり、もう同じ事は繰り返したくない。…よし。


「あのね」

 私は意を決して話し始める。話さないという選択肢は勿論もう無いが、やっぱり恥ずかしいのは変わらず、言葉が詰まりスムーズには出てこない。それでも、なんとか頑張って言葉を繋ぐ。

「あの、あのね。…その、ま、前…ライラックの時も、お、思ってた事なんだけど、…」

 リュウリィは黙って聞いている。その顔が、どんな感情のものなのか分からず、少し怖くなる。

「その、…。……。こっ!…こ…、こ…」

「こ?」


「恋人にっ、なって!」


「わ、私…の……」


 語尾が小さくなって消える。限界だった。顔が熱くて、とても目は合わせていられない。私は顔を俯ける。

 あまりに緊張していたせいで、気がついていなかったけど、心臓がばくばく言っていた。強く強く鳴っているから、少し胸が痛い。

 私は左手でシャツの胸辺りをぎゅっと握り締める。昨日も緊張したけど、それとはまた違った緊張感だ。右手に未開封のパンを持っているけど、この後食べられるかちょっと自信が無い…。

「えっと…」

 リュウリィが呟く。その小さな呟きに、私は何かで刺されたかのような衝撃を覚えた。思わず肩が跳ねる。

「あ、ごめん、びっくりさせて。…うん。」


 やや間があって。


「…こちらこそ。…よろしくお願いします」


 と、返事があった。


「あっ!」

 私はその言葉を聞いて、思わず足の力が抜けたのか、バランスを崩して倒れ尻餅をついた。お尻の痛みと、意外なコンクリートの冷たさで我に帰る。

「大丈夫?」

「びっくりした…」

「いや、それはこっちの台詞だよ…」

 苦笑いしながら、リュウリィが引っ張り起こしてくれる。

「ありがとう…」

「いいえ。それより、お尻痛くない?」

「あ、うん。大丈夫。それより…」

 私は、反射的に聞いていた。


「どうして…OKしたの?」

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