第12話



「ほえ、…」

 目を開けると、一面コンクリートの床が見えた。


「あ…、やっと起きた…」

 すぐ近くから声が聞こえて、首を巡らすと、クラスメイト町田くんの…いや、

「おはよう…リュウ…」

 共に転生した幼馴染、リュウリィの姿があった。私は事態を把握すると、慌てて彼から離れた。

「わあぁっっ⁈」

 私はあの後泣き疲れ、彼の肩にもたれたまま眠ってしまったらしい。

「あはは…おはよう」

 彼は苦笑しながらも、律儀に挨拶を返してくれた。

 私はそろそろと近付いて行き、彼の座る正面にちょこんと正座する。

「ご、ごめん、もたれちゃって。…重かったよね」

「いや…俺も寝ちゃってたから。…足、痛くない?ここ、コンクリートだし、きみ素足だから…」

「あっ」

 心配してくれたんだ…。

「大丈夫。ありがとう…」

「…もう、大丈夫か?」

「…うん。」

 私はこくんと頷いた。

「じゃあ、改めて。…逢えて嬉しいよ、ライラック。…変わらないね」

 リュウは笑顔でそう言ってくれる。その笑顔と、変わらないという言葉に、また少し目の奥が熱くなった。

「…私も。…嬉しいよ、リュウリィ」

 わがままだと思いつつも、我慢出来なくて彼に抱きつく。リュウリィは、嫌がらずに優しく抱きしめてくれた。



「…ところで」

「…ん?」

 私は彼の左隣に座っている。リュウリィが左腕の腕時計を見せてきた。

「昼休み…、終わっちゃってるみたいなんだけど…、この後どうしよっか?」

 時計を見ると短針は2と3の間、長針は6の少し前。…午後2時半。

 うちの学校の昼休みはから12時20分から1時10分まで。授業は大体45〜50分なので、5時限目は完全に終わっている。今は6時限目、それももう半分以上終わってしまっている頃合いだった。

「授業…サボっちゃったね」

「ご、ごめんなさいっ!」

 寝て起きた時点で、時刻を確認しておくべきだった。それなのに私、彼に甘えて…

「あ、いや、サボったのは俺の意思なんだ。気付いてて黙ってたから、気にしないで」

「そうなの?」

 私は気になって聞いてみた。

「…どうして…?」

 すると彼は一瞬驚いたような顔をして、「だってこんな事があった後で授業受けたって、まともに頭に入らないだろ?」と、笑って言った。


 …。確かにね…。

 私はコクリと頷いて、代わりに別の質問を投げ掛ける。

「じゃあ…、これからどうしよっか」

「うーん…。取り敢えずお腹空いたし…」



 結局私達は、6時限目が終わる少し前に学校を抜け出し、近くのパン屋さんで遅い昼食を買った。

 普段から財布を持ち歩いていて、本当に良かった…と、心からそう思った。

 授業が終わり人がはけた教室から、それぞれそそくさと自分の鞄を回収した後、正門を出て学校からやや離れた公園に入る。


 子供達が賑やかな園内を少し歩くと、奥の方に木造の小さな四阿を見つけた。近寄ってよく見ると、中央には同じく木製の丸くごついテーブルと、八角形の壁に沿うようにベンチが設えてある。これは丁度いいと、私達はそのテーブルの上に買ったパンと鞄を置き、ベンチに腰掛けた。

「はあぁ〜〜っ…」

 私はそのテーブルの上にダラ〜ンと腕を投げ出す。テーブルの木が冷んやりしていて、素肌に気持ちいい。外は夏が近いから半袖でも少し暑いくらいだが、ここは屋根の下だからか、1〜2度気温が低く感じられる。

 しかしずっと伸びていると、リュウに『はしたない』と叱られてしまった。…むう…。

 もう少しそうして居たかったが仕方ない、と私は体を起こしてパンに手を伸ばした。

「いい所があって良かったね」

 そう言って、リュウが惣菜パンのホットドッグを齧る。少し大きめのパンに長いソーセージとレタスかキャベツが挟まり、ケチャップと粒マスタードがたっぷりと塗られた、如何にも男性が好きそうなパンだ。それを美味しそうにぱくぱくと食べていく。

「…辛くないの?」

 私は恐る恐る聞いた。彼が飲み込んでから答える。

「うん。見た目は辛そうだけど、そんなに辛くないよ。多分、ハニーマスタードになってるんじゃないかな」

 なるほど…。今度買ってみようかな…。

 私も自分のを袋から取り出した。具が、ベーコン、レタス、炒め玉ねぎのブランパンのサンドイッチだ。ブランパンって何?というのと、単純に見た目がとても美味しそうで買ってみた。早速齧る。

 シャキッと瑞々しいレタス。三枚に折り畳まれたスライスベーコン。そして黒胡椒の効いた塩ダレで炒めた玉ねぎ!

 これらが少し荒っぽいブランのパンと良く合っていて、すごく美味しい!

「んーっ!これ好きな味ーっ!」

 思わず足をバタバタさせる。特にこの玉ねぎがいい。炒められて出た甘みが、優しく全体をまとめてくれている。炒められているのに、しっかりとしゃきしゃき歯応えがあるのがまた良い…!

「…そんなに美味しいの?」

 リュウが興味を持ってしまったらしい。仕方ないなぁ〜。

「一口食べてみる?」

 私はサンドイッチの齧っていないところを向けてみる。

「じゃあ…」

 そう言って彼はパクリ、とサンドイッチに齧り付く。もぐもぐと口を動かして飲み込むと、『ほんとだ…美味しい…!』と、驚いている。

「もうあげないからね」サンドイッチを彼から離す。すると、


「ちぇー…」


 と、彼が珍しく残念そうな声を上げる。

 私はそれがなんだかおかしくて、あははっと声を上げて笑っていた。

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