第2話
授業中、ふと気持ちのいい風が髪を揺らした。ノートから顔を上げ、どこから入ってきたのか見てみると、町田くんの席の横にある窓が少し開いていた。
彼は黙々と板書をノートに写している。
そういえば…似てるかも。
あの、夢に出てくる金髪の少年と。
「なんてね」と聞こえない声で呟き、私もまた黒板と視線を移し、作業を再開した。
その日の夜。また、あの夢を見た。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
今日の夢は2人が何か濃い灰色の狼に似た、けれど、体格はその2倍3倍ありそうな獣に襲われそうになって、あわや…というところで目が覚めた。背中や脇に汗をぐっしょりかいていて、Tシャツがじっとりと張り付いている。
「…今、何時…」
枕元の時計を見ると、針は午前3時を指している。
…このまま寝るの、少し怖い。
結局、その後私は一睡も出来ず、登校時間を迎えた。
「おはよー」
教室は、今日も朝から元気な同級生たちの賑やかなおしゃべりで満たされていた。
…寝不足の頭にはキツイわ。
「おっと!」
ふらついて、うっかり転びそうになったところを誰かに抱きとめられる。私は慌てて振り返る。
「ごめんなさ…あ」
「いや、平気」
私を支えてくれたのは、あの町田くんだった。私は慌てて離れようとする。すると、突然町田くんに手首を掴まれた。
「は、離し…」
「っ!その目の下のクマ…鳴上、もしかして寝てないのか?」
…え、クマ?そうなの?
「ちょっと、夢見が悪くて…大丈夫、気にしないで」
「いや、顔色も悪いし…佐倉!」
「何?町田くん…ってそれ」
「寝てないらしい。ちょっと保健室連れてってやってくれないか」
「いや、大丈夫…」
「分かった。任せて!…さ、行こう鳴上さん」
私は有無を言わせて貰えないまま、佐倉さんに保健室に連行された。
「先生使っていいって。ほら寝て寝て」
「うん…」
佐倉さんはてきぱきと保健医からベッドの使用許可を貰ってきた。…保健係とか、やったことあるのかな、もしかして。
私もいい加減抵抗するのはやめて、大人しくベッドを使わせて貰う事にした。
「それじゃ私行くね」
「待って…っ!」
あ…。
「ごめんなさい」
まさか『1人で寝るのが怖い』なんて言えない。伸ばした手を引っ込める。
「……なにか、困ってることでもあるの?」
佐倉さんは私の手を取ると、近くにあった丸椅子に腰掛ける。私は戸惑いつつも、コクリと頷いた。
「最近、変な夢を見るの…」
「それで寝てなかったんだね」
「うん…」
佐倉さんは私が話している間、ずっと手を握っててくれた。…本当は、迷惑だろうに。ずっと。
「じゃあ、鳴上さんが…らいちゃんが、寝付くまでここに居ようか!」
「えっ…。でも、佐倉さん授業が」
「うーん。もう今更だし!らいちゃん心配だし。ちゃんと睡眠取らないと、今度は倒れちゃうよ?」
「…ありがとう。……らいちゃん?」
佐倉さんが慌てる。
「あ、ごめん、嫌だった?」
「ううん。ありがとう、なんか、くすぐったいけど…ちょっと安心する」
「なら良かった!私のことも、さっちゃんでもひーちゃんでも好きに呼んでいいからね」
「じゃあ、…瞳ちゃん」
「うん!」
「おやすみ、らいちゃん」
「おやすみ、瞳ちゃん」
私はそのまま、ぐっすりと眠った。
…今度は、きっと良い夢を。
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