第1話



 年度の始め。入学式の日の夜から、私は突然ある夢を良く見るようになった。

 内容は場所も時間も結構バラバラなのだが、決まって鮮やかな紫色の髪の少女と、綺麗な金色の髪の少年が出てくる。彼女らは最初は小さかったのだが、夢を見る度にだんだんと成長していっている。今日は…多分、高校生…16歳くらいの見た目だった。

 夢のくせに、あんまり鮮明で現実感があるので、毎回起きてすぐはどちらが本当なのか、若干分からなくなる。


「う、眩し……」

 カーテンを開けると、直射の朝陽が目を刺した。目が慣れると、見えてきた外の景色をぼーっと眺める。…うん。今日もいい天気。


 階下に下りて台所へ入り、水道から水をコップに半分ほど注ぎ、それを飲み干す。

「…はぁっ」

 よし。目が覚めた。

 そのまま顔を洗おうとすると、母親に頭をぺしっとはたかれた。

「こら!まーたここで顔洗って!洗面所でやりなさい、洗面所で!」

「…はーい」


 母に言われて洗面所へ移動し、バシャバシャと顔を洗う。顔を上げると、鏡に写った自分と目が合った。…肩までの黒髪。前髪の分け目は左(に写っている)。目は黒目。起き抜けだからか若干眠たそう。

 まあ、特にこれといった特徴もない。

『普通の日本人(女子)』…だ。


 顔をタオルで拭いて洗面所を出た。



 制服に着替えて朝食を摂り、家を出た。

 梅雨も明けてきて、だんだんと夏に近づいている。気温も日に日に高くなる。


 …今年も暑いんだろうな〜。




 ローファーでアスファルトを踏みしめること20分。学校に着いた。

 教室に入ると、クラスメイトから「おはようー」と声を掛けられたので、「おはようー」と返す。

「!」

「ん?ああ、おはよ。鳴上(なるかみ)」

「………」

 私は声を掛けてきた男子生徒から視線を逸らし、自分の席に着席する。教科書などを机にしまって、カバーをかけた文庫を開いた。


『鳴上』は、間違いなく私の苗字。このクラスに鳴上は私、『鳴上 来(なるかみ らい)』1人しか居ない。


 けれど、私は答えなかった。

 …本当は、答えた方が良いし、出来れば答えたい。…のだけど、

 彼とは…ちょっと、目を合わせにくい事情があった。


 入学式のあったその日、私は教室で彼と、

『町田 流(まちだ りゅう)』と、出会って泣いた。

 どうしてあの時泣いてしまったのかは、今も全く分からない。けれど、いきなり初対面の男の子に泣き顔を見られ、しかも当然ながら教室中の注目を集めてしまい(特に女子に何かされたのかと心配された。もう誤解は解けている)

 そんな事があり、別に彼が悪いのではないだけれど、なんとなく、どうしても…恥ずかしくて。


 …だから、今日も顔は…合わせられなかった。

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