第2話 初めての友達はミステリアス!?





旧千葉県、現楽園一号アヴァロンに建てられた夢想学園は俗に言う女子校というものだ。そして入学基準がとても高いことで知られている。

『楽園都市計画』が進まれていない、いわゆる外の世界で育った人間はその時点で入学は許されていない。現在、楽園六号エデンまでの楽園が創られているがその中での教養、さらに学業、運動、人柄が良い生徒が最低限の条件。


入学試験は一日目は筆記、二日目は診断である。この診断は健康診断のことではなく機械による入学希望者の診断のことである。

機械が数回の質問を発し、それに答えるという簡単な診断。この二つによって夢想学園に入学できるかどうか決まるのだ。


それと——身内や祖先に犯罪を犯したことのある者がいたら当然入学はできない。

どころか、外へと送られる。



×



紅がクラスに入って数十分が過ぎた。


……しかし、依然として紅に話しかける者は一人としていなかった。


(あぁ……やっぱり最初の印象って大事なんだなぁ……)


紅は誰も話しかけてこないことをクラスに入る際に発してしまった声だと思い込んでいるが当然違う。この年ぐらいの子はそんな些細なことはすぐに忘れてしまう。

それにクラスメイトは紅のことを仲間外れにしようとして話しかけないのではない。

その逆——話しかけることができない。


事実、

紅飛沫は美しかった。


年相応の身長ではあるものの、整った顔立ちに健康的な身体、そして誰とも喋れないということが他人から見たら『寡黙』とも受け取られるのだ。


極め付けはやはり——髪、だろうか。

見るものの視線を独り占めにする鮮やかな紅い髪。光に照らされより、輝きを増しているようにも見える。

例えるなら一輪の薔薇。

周囲にどんな美しい花が咲いていようともその紅色は決して劣ることなどない。メインたりうる素質を持っているからだ。

さらにそれが長過ぎずというのがまた印象を良くしているのに一役買っている。お嬢様のように長い髪ではなく首あたりで切り揃えられた髪はそれだけで健康な印象を与える。


と、いうのに紅がクラスに入ってしたことと言えば指定された席に一直線で進み、そのまま読書をするというものだった。

こうなってしまえば余程の大物でない限り紅に話しかける女の子はいないだろう。


(う、うん……! 大丈夫だって、まだ初日なんだからこれが普通だよ……!これから仲良くなっていけばいいんだから!)


紅と周りのクラスメイトは思考はすれ違いをしていた。



×



入学式の時間がだんだん近づいてくるとクラスに入る生徒の数も増えてくるようになった。

だがその中で一人なのは……


(私しかいない……。どういうこと!? なんでみんな初対面なのにここまで仲良くできるの!? 混ぜて! 私も混ぜて!? 小説のお話なら私詳しいよ! 小学校一年生の時からずっと読書してるもん!)


紅が割と本気で涙目になってきた頃。


扉は開いた。


「出席番号十八番、名前黒鉄切無」


クラスに無機質な声が響いた。

別になんてことはない。先程から人が来るたびに声は出てる。だから今回もそこまで気に留めずに読書に戻ると思っていた。


その少女に紅は目を引かれた。

他のクラスメイトは一回視線を向けただけですぐさまお喋りに戻っていたのにもかかわらず紅ただ一人がその少女のことを見ていたのだ。


(お、お人形さんみたいだぁ……! 本当に私と同じ年齢なの……!?)


紅がそう思ってしまうのも無理はない。

艶々とした流れるような黒髪にそれとは対照的な透き通った肌。目はまさに漆黒、だが呑み込むような黒ではなく全てを包み込む優しい黒を紅は感じた。さらには所作一つ一つが優雅で、歩く姿でさえ気品がただよっていた。


……ただそれは紅にも言えたことでは、ある。


(あれ本当のお嬢様なんじゃ……!?)


正直、他の子たちが食いついていないのが不思議なくらいだった。


(あー……でも、確かにお嬢様って気安く声かけられない雰囲気あるからなぁ……)


そんなことを考えてる紅も自分の横を通る黒鉄切無に挨拶すらできなかった。

そして——紅の席のすぐ後ろへと着席した。


(はうわっ!? ……そ、そうだ黒鉄さんは出席番号が私の一つ後ろだから席も後ろになるのか……)


あーどうしよう挨拶した方がよかったかなでもタイミングを逃した気もするしここで挨拶したら絶対に社交辞令だと思われそうな気もするし……。

紅はどうしようか両手をパタパタさせ、思考がオーバーヒートの直前に、


「あの……」


と、後ろから冷たく、落ち着いた声がかけられた。


「は、はびっ!?」


振り返ると席に座ったばかりの白銀がそこにいた。それは自分もわかっているはずなのだが急なことに、再び驚きの声を上げてしまった。驚きの声というか……ただ噛んだだけかもしれない。


「え? あああの、ななななんでしょうかぁ……?」


明らかに挙動不審な紅に対し、


「いえ……別にこれからよろしくお願いしますと……」


「そ……そうだね! こ、これから一年よろしくお願いします!」


「一年? 僕はもっと長い付き合いになると思うんだけど」


「い、いや三年間一緒のクラスってのは難しいんじゃないかな……? って僕?」


「——君は僕と同じ雰囲気があるよ。君が気づいてないだけで本当はとびっきりの資質があると思うな」


「? なんのことかな……?」


「何かは言えないけど……ともかくとびっきりの資質。それが開花したとき、僕と君は一番の親友、いやそれ以上の関係になるはずだよ」


「……?」



黒鉄の話はまるで要領の得ない、どこか噛み合ってないものだったが実は紅飛沫という人間は同年齢の者と話すのが数年ぶりなのだ。そんな些細なことに気づくはずもなく紅はただ単に友達ができたと思い、心の中で嬉しさを爆発させていた。


(でも……僕? いやいや……顔はちゃんと女の子だから男の子ってことはないよね)


紅は真っ白な天井を見ながら、


(ああ! できた! 私にも友達できた! しかも長い付き合いだって! やったあぁ!! 嬉しいな! 嬉しいな! あれ、友達ってことは名前で呼びあったり、休日に遊びに行ったりするんだよね! 今のうちに練習しとかなくちゃ!!)



×



「ったく、あいつらも狙いを定めてきやがったか。場所はここ、夢想学園……か。おそらく動くとしたらまず間違いなく大勢の人間が一箇所に集まる——中央ホールだな」


男は夢想学園、一フロアに作られた中央ホールの一席に座っていた。

あと数十分で入学式が始まるので中央ホールには教師、上級生などがすでにチラホラと集まってきていた。


にもかかわらず男は気にせず淡々と現在の状況、そしてこれからの出来事について考えていた。


「あいつらがどう出てくるか知ったこっちゃねぇが俺の仕事の邪魔してくれんなら話は別だよなぁ? 容赦なく叩き潰す」


いや男が気にしてないのではなく、

他の者たちが気づいてないのか。


「と言いたいところではあるがこの世界じゃ俺の力は制限させられてるからなぁ。その役目はこいつに任せるとするか」


得体の知れない——を取り出して男はニヤリと残酷そうに笑った。



×



————そして、入学式が始まる。

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