「もう適当」→もうてきとう→きとうもうて→亀頭も撃て。

三木

第1話 ドキドキ!? 緊張の新生活!!




「ふふふーん。ふふ、ふふふふーん」


いきなり『ふ』という文字をゲシュタルト崩壊させているこの少女の名は紅飛沫くれないしぶき

夢想学園の新しい一年生となる少女である。


「ふふん、ふふーん」


今は上機嫌に鼻歌を歌いながら初めての通学路を歩いている最中だ。


紅という少女は人一倍元気があって、スポーツもそつなくこなす体育会系女子、しかしだからと言って勉強が全くできないというわけではない。優秀、とまではいかないが学校のテストで怒られたことは一度ないし、なにより紅の学力は夢想学園に入学できたということが証明している。

勉強もできて運動もできる。

一見、何もかもが充実してるように見える彼女だが一つだけ欠点を上げるとすれば一緒にスポーツをする仲間がいないということだけか。


(今日から新しい学校生活……!小学校では友達が一人もいなかったけど夢想学園なら私と気があう人が必ずいるはず……!)


そう紅は一人決意し、辺りを見渡した。

紅の近くには同じく夢想学園に入学することになった生徒たちが歩いている。同じ制服に同じカバン、それを改めて見ることで本当に新しい学校生活が来ることを実感した。


「よぉーし!私、頑張るぞぉー!!」


道行く人々を気にせず、己の拳を天に突き上げ高々と宣言したのであった。



その天空から何者かが自分を見ているということも知らずに。



×



「——紅飛沫。ハッ、こいつぁいいじゃねぇか」


男は珍妙な格好をしていた。


「運動神経抜群なんて俺と正反対だぜ全くよぉ……」


耳に巨大な鉄球のようなものをぶら下げており、首には獣の牙や神木、鉱石などを繋げて作り出したネックレスをかけている。どこかの民族がつけてそうなものだ。


「で、えぇと……女……!?女かよ……やりづれぇなぁオイ」


そのアクセサリーとは全く合わない和服を身につけていた。この時代が侍のいた時代と遠く離れてることは言うまでもない。


「うぅん……でも十三歳?ならまだいいか」


しかしアクセサリーでも時代外れの和服でもこの男を異色立てているものではなかった。


「——まだやっていけるよなぁ?ひゃひゃひゃひゃ……って変な口癖が移っちまったもんだ」


男の足……正確に言うと男の膝より下の部分が

細いながらも筋肉が引き締まった足であるがその表面は硬い黒い鱗で覆われていたのだ。そこから分けられてる指はたったの三本。当然足よりももっと細いが先端が人を貫けそうなほどの鋭い爪が伸びている。


まるで。

そう、人間ではなく、恐竜のような。


「————あ?」


と、そこで男は人を嘲るような目つきから、人を刺すような目つきへと変貌した。凶暴な肉食獣が絶好の獲物を見つけたかのように。


男は今まで見ていたものから目を離し、それとは真反対の方向に向いた。


「チッ。もう動きやがったか」


言葉こそ憎々しげに吐いたものだが男の顔はなぜか愉悦に満ちていた。



「俺はどの世界でも『魔』ってヤツと縁があるんだよなァ。


——じゃ、今回もさくっと、


—————世界を俺色に染め直してやるか」



高度五万メートルより愛を込めて、

男はそう言った。



×



紅飛沫は困惑していた。


(え……えっとぉ……今日は入学式のはず……、入学式のはずだよね!?)


紅がいる場所は憧れの夢想学園、その一年二組のクラスである。



今日こんにちの日本は世界でただ一つの『犯罪都市』と呼ばれている。

2013年から始まった宗教団体によるテロ、急増した狂人らによる事件、さらには手口が不明の事故の多発。もともと少子化が進んでいたこともありたった五年たらずで人口は一億人をきってしまったのだ。

極め付けは2020年に東京で起こった五輪殲滅事件ロストデイだろう。2020年はもちろん56年ぶりの東京オリンピックが開催された年だ。2013から多発し始めた犯罪により、競技が開かれる会場の警備体制は過去最高とまで謳われた……のだが、そう人員や機械を導入しただけの付け焼き刃では真の犯罪は防げるはずもなかった。東京オリンピック自体は何事もなく終わったのだ。しかしその後に続くパラリンピックで事件は起こった。

初日の開会式に会場で爆破が起きた。

死者は会場にいた全員。この爆破を起こした犯人もこの世を去っていた。

言うまでもないかもしれないが2013から始まった事件のほとんどがこの五輪殲滅事件のための布石だったのだ。

そしてこの事件を機に日本だけの問題ではないと委員会は思い、2021年に日本を『犯罪都市』と定めた。犯罪都市に指定された国に行くことはもちろんできるはずもないし、もともと日本にいた住人たちも他国に行くこともできなくなるという逆鎖国が完成。これは事実、世界が日本を捨てたことになる。


…………そして、『犯罪都市』の烙印を押された日本でも時は過ぎ去り、西暦2999年。

オリンピックが終わりそれまでの犯罪数よりは低くなったものの完全になくなるということにはならない。だが着実に日本は世界復帰への歩みを進めていた。


その第一歩として作られたのが犯罪が起きない機械に管理された完全なる楽園、すなわち紅飛沫が住む町——楽園一号アヴァロンである。



いたるところに機械が見えるこのクラスでは紅の他に数十人の生徒がすでに入っていた。


(今日が入学式ってことは……みんな初対面のはずじゃないのぉ……!?)


その数十人全員が黙ることなく人と喋っていたのだ。ここにいる人間はみな紅が思ってる通り初めて会った人間だ、だというのに……


(なんで初日で笑って話せるの……!?学校初日ってもう少しギスギスしてるものじゃないのぉ……!?)


小学の時では見慣れていた光景だったはずのひとりぼっちの人間がこのクラスには一人もいないのだ。

むしろ、このクラスには楽しんでる者しかいない。

小学校六年間、友達無しの紅からしたらこの状況は驚愕以外の何者でもない。クラスのドアを開けたまま紅は立ち尽くしてしまった。


(ま、まずい……。クラスに入らないと変人認定されちゃう……けど、この中に入るというのはかなりの勇気が必要なってきましゅうぅ…………)


顔から煙を吹き出し、しかし立ち止まったままの紅。そんな彼女に——


「出席番号十七番、名前紅飛沫、入学前ノ健康診断トノ身長体重体型ヲ照合中……完了、続イテ指紋照合……一致、楽園一号アヴァロン出身紅飛沫、教室ニ入ルコトヲ許可シマス」

「はうわっ!?」


唐突の出来事でつい間抜けな声を出してしまい、さらに赤面する紅。その声によってクラスにいた生徒もこれまでの話を止め一斉に紅へと視線を向ける。


(さ、さすが……『楽園都市計画』の始まりファーストステップだ……。教室に入るだけでもこのセキュリティのすごさ……)


紅に無機質な声をかけたのは新しいクラスメイトではなく、管理するただの機械だった。声こそ教室の中から聞こえるものの紅を本人かどうかを確認したのは薄さ1.5センチのドアである。


(よし……!よし、よし、よし!こっから私の新しい学校生活が始まるんだ……!クラスメイトにはまず、元気な挨拶!……ってお母さんが言ってた!)


ふーふーふー、と呼吸の乱れを直していると


「紅さん、顔が引きつってますよ。ここにいる人たちはみんな初めてなのですからそこまで緊張しないでください。さ、いつも通り自然な挨拶を」


紅にしか聞こえない声で再び機械の声が聞こえた。しかしさっきと違うのは無機質な声ではなく優しい、慈愛に満ちた声だった。

……それに紅は不自然さを感じることはなく


「……はいっ、ありがとうございますっ」


小さな声で呟いた。



×




ここは『犯罪都市』日本。

そして『楽園都市計画』の第一歩、楽園一号アヴァロンの中。

そこは機械が人を管理し、機械が人を裁く場所。中で生まれた者は外の出来事を知らない、犯罪というものをしらない、楽園の住民となることを義務付けられている。



——



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