第2話
スバルは幼いころから「生命」を感じることができた。すべてのものがキラキラとする粉で覆われて見えるのだ。
大きくなるとその輝きの強弱によってそのものに残された時間や密度、さらには今後たどる運命までも感じとるようになった。
そんなスバルを町の人々は伝説のリュアの生まれ変わりとして、ルーナ王から隠し、大切に守りながら育てた。
スバルはリュアンの救世主である。
ルーナ王以外を崇拝することが禁じられた世界で、どうして生き延びることができよう。
もし、スバルの存在をルーナ王に知られれば、スバルもその両親も、町の人々までも殺されてしまう。
その危険を知りながら人々はこっそりとスバルのもとへ通った。
ルーナ王が亡くなり、オリオン王が即位したとき、スバルはちょうど10歳の誕生日を迎えたばかりであった。まだまだ幼い子どもだったが、まだ見ぬ革命を夢想する大人たちは少年を放っておかなかった。
誰がなんと言おうと、スバルは救世主になるかもしれない、いやなるべき存在であるのだから。
もはやスバルをスバルとしてみてくれる人はほとんどいなかった。
町の人々にとってスバルはリュアであり、自分たちを導かなければならない存在なのだ。
大人たちは毎日のようにスバルの家に集まり、リュアンを取り戻すための作戦を練る。
しばらくすると酒を飲みはじめ、そして決まって言うのだ。
「なんて言ったってこっちにはリュア様がいらっしゃる。」
まるで、スバルが伝説のリュアその人で、リュアさえいればどんな敵も消えてなくなるとでも言うように。
スバルはもう飽き飽きしていた。
自分を頼りにするばかりで肝心の計画を一切練らない大人たちの宴会にも、いつまでもリュアンを忘れずに美化ばかりして昔話をする大人たちにも。
そして何よりリュアの生まれ変わりとして扱われることに嫌気がさしていた。
大人たちはスバルにリュアの生まれ変わりとしてのふるまいを期待してくる。
冷静で、聡明で、何事にも動じずに対処する姿を求めてくる。
しかし、スバルはまだたったの10歳だ。
遊びたい盛りである。
不安を感じることだってある。
好きなように生きてみたい。
だんだんと自由を求めるようになったスバルを大人たちはさらにリュアに仕立て上げようとしてきた。
あなたはリュア様の生まれ変わりだから。
何度も、何度も、何度も繰り返して言い、リュアであることを押し付けようとした。
ほとんどその自覚もなしに。
絶望の中にも一筋の光くらいはあるもので、スバルにもスバルをスバルとして受け止めてくれるただ一人の少女がいた。
オトネである。
家が隣であることもあり、幼いころからスバルと共に過ごしてきたオトネは、大人たちとは違ってスバルに期待することがなかった。
スバルが愚痴を言っても、怒っても、泣いていても、頼りなくても、それがスバルであると納得し、リュアらしくいることを強要しなかった。
それがどんなにスバルにとっての癒しとなったか。
見たこともない伝説の人物と比べられ、期待という重荷を生まれたときから背負ってきたスバルにとってオトネはたった一人の理解者だった。
そんなオトネに惹かれないわけがない。
スバルは1日の大半をオトネと過ごすことに使った。ときに河原へ行って魚を追いかけ、ときに草はらで虫を捕まえる。
何をしていてもたのしい。
オトネとさえいれば、どんなことでもできる気がする。
その気持ちが「恋」というものに近しいものであるということにスバルはまだ、気づいていなかった。
やがて大人たちの会合を抜け出してまでオトネに会いにいくスバルに大人たちは気付きはじめた。
もしや、リュア様の生まれ変わりともあろうものが、女にうつつをぬかしているのではないか。
そんなことが許されるわけがない。
リュア様は救世主であるから。
私たちとは違う高尚な存在であるから。
そんな声があがりはじめた。
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