生きてみたかった
松江 三世
第1話
この世界にはたくさんの平行する世界がある。その中に人々が三つの身分に分けられた世界があった。物語はそこから始まる。
昔、その世界には様々な国があった。
その国々の中の一つがこの話の舞台、ルーナ王国だ。好戦的な王様と強大な軍隊に恵まれたこの国は、次々に周りの国々を飲み込み、この世界そのものを一色に染めてしまった。もともとあった文化や宗教は否定され、ルーナ王を崇拝し、ルーナ王国の文化を継承することこそが国民の務めとされた。
そんな世界に嫌気がさしたのか、多くの人間が武器を隠し持ち、時を待つようになった。
やがて、そのときは来た。
好戦的だったルーナ王が亡くなり、新たな王がたてられたのだ。
オリオンという名の新しい王は臆病者であった。この世で何よりも怖いことは自分が死んでしまうことだった。
彼は国民の多くが王である自分を憎み、命を狙っていることを知っていた。
そしてそのことに強い恐怖を感じていた。
彼はまた、子どものような人間であった。
自分の欲に対して素直な人間だった。
そのため、ときにひどく残酷なことをいとも簡単にやってのけることがあった。
彼は自分以外のいかなる命にも重みを感じていなかったのである。
彼は秘密裏に自分専用のスパイ組織をたちあげた。オリオン軍と名付けられた彼らは完璧に街に潜り込んだ。誰も彼らを知らなかった。
大陸の端にリンという小さな町があった。
リンはもともとリュアンという国であった。
少しばかりの森と美しい湖があるだけの小さな国だったが、その国の人々はたいそう器用で美しい織物や細密な挿絵の入った本を作り、他国との貿易で利益を得ていた。
リュアンにはある伝説が伝わっている。
昔、左目の青いリュアという少年がいた。
リュアはその青い目でさまざまなものを見ることができた。草木を見ればその草木を使って薬を作る方法を知ることができ、人を見ればその人の未来をのぞきみることができたという。
ある日リュアはリュアンの王様にこう告げた。「敵がやってくる。王は殺され、国は滅びる。草木は枯れ、湖は干上がるだろう。」驚く王にリュアはさらに続けた。「国境にいばらを植えなさい。そうすれば、国は守られるだろう。」
さっそく国を囲むようにいばらが植えられた。低くて小さないばらの木。
こんなもので国が守られるわけがない。
王は戦いの準備をしようとした。
リュアは王を止めるといばらの近くに歩み寄り、葉を優しく撫ではじめた。
するとどうだろう。
いばらの茂みはゆっくりと伸び始め、とうとう国を囲むようにして閉じてしまった。
隣国の兵士が攻めてきたとき、そこに見えたのは巨大ないばらの塊のみであった。
兵士たちは何度もいばらに突撃を仕掛けたが、誰一人としてリュアンに入ることはできなかった。
リュアンは守られたのである。
リュアンは死ぬときに王にこう言った。
「私はこの国が危機に陥ったとき、何度でも戻ってくる。左目が青い少年少女を大切にしなさい。彼らは私で私は彼らとなるだろう。」
それからというものリュアンでは青い左目を持つ少年少女を大切にするようになったのだ。
それから何度もリュアンは滅びの危機を免れた。そうしたときには必ず青い左目を持つ少年少女が現れ、国をまとめるのだ。
しかし、リュアは危機に陥ったときに必ず戻ってくるわけではなかった。
事実ルーナ王国に攻め入られたとき、リュアンには青い目の少年少女はいなかった。
リュアンが滅び、数年。
人々がリュアの伝説を忘れかけたそのとき、町の靴屋に左目の青い男の子が一人生まれたのである。
名前をスバルと言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます