真打ち登場
「――お兄ちゃん」
規則的な波の音と共に声がする。それもすぐ近くだ。
「起きて、お兄ちゃん」
弱々しい力で肩を揺すられる。
うるさいな。一言文句が言いたくなって瞳を開く。するとそこには、
「佳澄ちゃん……?」
愛しのJS、佳澄ちゃんが目の前にいた。
「あ、やっと起きたんだお兄ちゃん。一時間近く目を覚まさなかったから心配しちゃったよ」
「一時間も? どうして……あ」
思い出した。なぜかキレた幼馴染にぶっ飛ばされたのだ。あのアマ、俺が何したってんだ。ちょっと空気抵抗の少ない胸を褒めただけなのに。
「華恋と紅葉は?」
「二人なら海で遊んでるよ」
気絶してる俺に構うことなく海で遊ぶとは……あいつら、いつか復讐してやる! それに引き換え、佳澄ちゃんはJSなだけあってあいつらにはない優しさを秘めているな!
「お兄ちゃん?」
パラソルの下で愛しのJS佳澄ちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。JSの顔が至近距離にあることに胸が高鳴る。
「ん……?」
何だか頭の辺りに柔らかいものが当たってる。何なのかと思い触ってみると、そこで自分の現状に気が付いた。俺は今、佳澄ちゃんに膝枕されていたのだ。
「うお……!」
思わず飛び起きるが、それはすぐに後悔に変わった。なぜなら、ここで飛び起きなければもう少しJSの太ももを堪能できたから。
クソ、JSの太ももなんて一生に一度巡り会えるかどうかの代物なのに!
しかし佳澄ちゃんは俺の下心など露知らず笑みを浮かべている。
「その調子ならもう大丈夫だね、お兄ちゃん」
「あ、ああそうだね、佳澄ちゃん」
……JSの太ももの絶妙な柔らかさも良かったが、JSの満面の笑みというのも悪くないな。
「ねえお兄ちゃん。今の私どうかな?」
「え、今の佳澄ちゃん? さっきまでと変わらず超絶可愛いけど……」
「もう! 私はそういうことを訊いてるんじゃないよ!」
そんなこと言われてもなあ……頬を膨らませてプリプリ怒るJSにかける言葉なんて、可愛い以外に何かあるのか?
「私今水着なんだよ! 何か感想はないの!?」
「あ……」
よくよく見てみると佳澄ちゃんは水着だった。淡い水色のセパレートタイプのものだ。
正直、JSの太ももで頭がいっぱいだったので水着にも気づけなかった。不覚だ。まさか俺がJSのことで見落としがあるなんて……!
ここはJS愛好家としての名誉を回復するためにも、佳澄ちゃんのありとあらゆる点を褒め称えなければ!
「まずはJSというだけでご飯が三杯いけるほどの魅力を秘めているが、そのことに慢心せず水着というオーパーツの力を頼ることでJSとしてより高い次元に立つことが可能となっている。具体的には、過度な露出を控えたこの水着。これによってJS特有の瑞々しい肢体を余すことなく――」
「お、お兄ちゃん……?」
少し戸惑った様子の佳澄ちゃん。しまった、熱く語りすぎたか。しかしJSを褒めるのに言葉はいくらあっても足りない。このバランスは難しいものだ。
「何バカなことやってんのよ」
どこか呆れ混じりの表情で忌々しい幼馴染がイカレJCと共に、俺と佳澄ちゃんの愛の巣(パラソル)までやってきた。
「バカなこととは何だ。俺はただ、佳澄ちゃんの水着姿を褒めてただけだ!」
「褒めてただけ? 私の目にはJSに狂言を口走る変態に見えてたけど」
「誰が変態だ。あまり舐めたこと抜かすなら、女だからって容赦しねえぞ」
「上等よ。両手足の骨をコナゴナに砕いてから返り討ちにしてやるわ」
それは最早返り討ちではなくオーバーキルだと思う。ウチの幼馴染は中々にバイオレンスだ。
「師匠大丈夫ですか? 紅葉さんに殴られたところ、痛くないですか?」
「佳澄ちゃんのJSパワーで完治したから問題ない」
「JSパワーって何で――やっぱりいいです……」
なぜか疲れ切った表情の華恋。何か言いかけてた気がするが、最後まで口にしないのなら大したことではないだろう。
「そんなことより、お前ら佳澄ちゃんを見てみろよ。佳澄ちゃんの水着姿、ヤバいくらい可愛くねえか?」
あまりの可愛さに思わずラリってしまいそうになるな!
「ねえ、何であいつは私たちの水着は褒めなかったくせに佳澄ちゃんの水着はあんなに褒めるのかしら?」
「意味が分かりませんね」
二人が何かぶつくさ言ってるがどうでもいい。
それよりも今すべきは佳澄ちゃんの魅力を永久保存すること――つまり撮影だ。
近くにまとめてあった荷物の中から、俺のリュックサックを見つける。そしてリュックサックの中から一つのカメラを取り出した。
「佳澄ちゃーん、こっち向いてくれ」
「何、お兄ちゃ――きゃッ……!」
突然のフラッシュに佳澄ちゃんが短い悲鳴をあげる。
「いきなり何するの、お兄ちゃん!?」
「悪い悪い。ちょっと写真を撮りたかくてね」
「もう! そういうことは先に言ってよ!」
「ああ、次からは気を付けるよ」
ヤバい。JCのお説教……クセになりそうだ。
ちょっと新しい世界に目覚めそうになりつつも、俺は撮影を続ける。前後左右あらゆる角度、距離から写真を撮る。
「いいよいいよ! あ、目線はこっちにお願いします」
「こ、こうかな……?」
最初は戸惑っていたか佳澄ちゃんだが段々慣れてきたのか、数分もすると結構ノリノリだった。
「ふう……」
十分経過したところでひとまず区切りが付いた。
「よし、次は他の水着を着てくれ」
「ま、まだやるの!? 私もそろそろ海で遊びたいよ!」
「む……」
どうやら佳澄ちゃんはいい加減撮影に疲れてしまったようだ。遊び盛りのJSにとって十分以上の拘束は辛いものだ。俺としても、JSに嫌がることは強要したくない。
「佳澄ちゃん、最後に一着だけ俺が用意した水着を着てくれないか? それで終わりにするから」
「それで最後にするなら……いいよ」
「よし……!」
思わずガッツポーズをしてしまう。やっぱりJSは最高だな。どこかの暴力幼馴染やキチガイJCなんかとは格が違うよ。
俺は佳澄ちゃんにふさわしい水着を見つけるために、リュックサックを漁る。さて、佳澄ちゃんにお似合いの水着はどんなものがいいか?
セパレート、ワンピース、ビキニ、マイクロビキニ……色々あって一つに絞るのが難しい。
「……これだ」
だがまるで神からの啓示のように、
「佳澄ちゃん、君に着てほしい水着はこれだ!」
そう言って俺が取り出したのは――スクール水着(旧式)だ。
「ふん……!」
「ああ、スク水が!」
しかし次の瞬間、取り出したスク水は紅葉の手によって空の彼方へ消え去ってしまった。
「何すんだよ紅葉!」
「それはこっちのセリフよバカ! あんた、あんなものを佳澄ちゃんに着せようとするなんてバカじゃないの!?」
「あんなものだって!? あれは未使用のスク水だぞ!」
「あれが使用済みだったら、空の彼方に消えてたのは水着じゃなくてあんただったわよ」
クソ。気を遣って未使用にしたのに、何がいけなかったんだ?
「長い時間この変態に付き合わせてごめんね佳澄ちゃん。もう海に遊びに行っていいわよ」
「え、でもまだお兄ちゃんが……」
「あの変態は私がどうにかするから気にしないでいいわ」
「ええと……ありがとう、お姉ちゃん!」
それだけ言って佳澄ちゃんは海の方に駆け出した。
「ちょっ……佳澄ちゃん!? まだ撮影は終わって――」
「透は私とちょっとお話しようか?」
「拒否権は……ないですよね」
「よく分かってるじゃない」
ガッシリと肩を掴まれながら、俺はこんな状況に慣れつつある自分に嫌気が差した。
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