第29話sideベティ

「どういうことよっ!」

ベティは部屋にあるものを手当たり次第、壊していく。庶民なら一生食うに困らない価格の花瓶を割り、椅子を蹴り倒す。おかげで椅子の足が折れてしまった。それでもベティは構わず暴れ続ける。

侍女たちはすっかり怯え、隅の方で縮こまっていた。下手に動いてベティの目に止まったら要らぬとばちっりを食らうことになるからだ。

君子危うきに近寄らず。触らぬ神に祟りなし。と、侍女は息をひそめ、自身を空気と同化させた。

「喉が渇いたわ。早く準備をしないさい」

「畏まりました」

ひとしきり暴れて気が済んだのかベティ令嬢らしからぬ乱暴させソファに座る。

「ちょっと、まだなの!いつまでかかっているのよ!本当にとろくさいわねぇっ!」

「申し訳ありません」

お茶を淹れるには茶葉を蒸らしたり、カップを温めたりするので直ぐにできるものではない。そもそも言われて一秒以内にできるものではないのだ。

ベティがお茶の準備を命じてからまだ10秒も経っていないのにベティはお茶の準備をしている侍女を怒鳴りつけた。

ベティにはどうせお茶の味など分からない。ベティもアンドレアも高級か否かで味を判断するためだ。なので侍女もこれ以上ベティの怒りを食らってはたまらないと本来の淹れ方をすっ飛ばしてお茶をベティの前に差し出す。

案の定ベティは味に文句はつけなかった。それどころかお茶を一気飲み。そのせいで口の端から少しお茶が垂れていたがベティは気にしなかった。

公爵家の侍女ともなれば当然、みんな貴族だ。行儀見習いや未亡人で働かなくてはいけなくなった上級貴族を雇っている。その為、ベティのお茶の飲み方に侍女たちは思わず眉を潜めそうになった。

お茶を飲み終わったベティはがちゃんと大きな音を立ててカップを置く。そのせいで折角の高級なカップにひびが入っていた。また、新しいカップを買わないといけない。ベティが壊した椅子に花瓶もだ。出費が重なり、公爵家は火の車だとベティは気づいてもいないようだ。

「私は公爵家の令嬢なのに」

ベティは爪を噛み、イライラを何とか外に逃がそうとするけど全く上手くいかない。

机の上にはお茶会の断りの手紙が溜まっていた。

ここ最近めっきり夜会にもお茶会にも招待されなくなった。ならばと、こっちからわざわざ誘ってやれば全て断られたのだ。おまけに最近、コーディにも会えていない。元々、ダリアのことがあったので彼が大々的に公爵家を訪れることはできなかった。

そのため夜会やお茶会などでこっそりと彼との親交を深めるしかなかったのだ。

「婚約を破棄されたのはお姉さまの素行が悪かったからで私には関係ないのに。何でこっちまでとばっちりが来るのよ」

お茶会を断られるのも、夜会に誘われなくなったのも全部ダリアのせい。彼女の素行が悪いせいで自分まで同類に見られるとベティは憤っていた。

「コーディとカーティス様。二人と付き合っていたなんて。最低。お姉さまなんてただお母様の血筋がいいだけじゃない。でも、お母様だけでしょう。お父様が誰かも分かっていない卑しい血筋の子のくせに。どこまで私の足を引っ張れば気が済むのよ」

そう言って怒るベティを見ながら侍女たちは自分たちが仕えている家がそろそろまずいことを悟り、こっそりと新しい雇い先を探していた。

公爵家なのでここの方が給料はいいのだけど。仕方がない。最後まで残っていて巻き込まれるのは嫌だし。今の給料もいつまで貰えるか分からないのだ。

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