第3章

「ダリア・スチュワート。お前との婚約を破棄する」

ウッドミルに留学して一週間。仲良くなったご令嬢たちと食堂で食事をしていたら、ベティの腰を抱いたコーディ殿下が私を指さしてそう言い放った。

周囲は騒然とした。何が起こったのか分からず、固まっている。やがて、我に返った者から顔を青ざめさせていく。

私はと言うと、周囲と同じように一瞬何を言われたのか全く分からなかった。どうやら久しぶりに会ったコーディ殿下はすっかりベティに篭絡させられ、おバカになっていたようだ。

スチュワート公爵家が私に行った虐待は公にはされていない。四大公爵家の一つを失えば、政治内のバランスが崩れ、無用な争いを生みかねないからだ。とはいえ、エストレアから正式な抗議もありましたし、何もしないわけにはいかないのでしばらくは社交界の出入りを禁止されていた。

まぁ、それも今となってはとっくに終わった処分ではあるけれど。

「コーディ殿下。何を勘違いされていらっしゃるのですか?」

「王族の俺相手に許可もなく発言するな」

「さすがはお姉さま。隣国に行ってもその愚かさは直ってはいないようですわね」

コーディ殿下は不快気に眉間にしわを寄せ、ベティは私を小ばかにしたように鼻で笑う。その光景に周囲は余計に青ざめ、何人かが食堂を慌てて出て行った。貴族の子供が廊下を走るなんてはしたないことは普段なら絶対にしませんが、なりふり構っていられないという態度からおそらく教師を呼びに行ったと思われる。

「私も王族ですよ。同じ王族ならば発言することに許可は要りません」

「お前の母親は確かに王族だ。だが、スチュワート公爵の妻になった時点で王族ではなく、臣下だ。そしてその娘であるお前も王族の血を引く公爵家の人間と言うだけだ。思い上がるな」

「そうですわよ、お姉さま。お姉さまが王族何てあり得ませんわ」

私の隣に座っていた伯爵家の令嬢が体を震わせ、俯いている。彼らの不敬がどのような事態を招くのか怖くてたまらないと言ったようだ。

コーディ殿下の言い分は正しい。本来ならば、確かにそうだ。でも、現実は違う。変えたのは公爵家とコーディ殿下だ。

「あなた方の勘違いは二つです」

私は席についたまま私の横に立っている二人を見上げる。二人は私の視線に僅かにたじろいだ。一瞬でも私に怯えたのが恥ずかしかったのかコーディ殿下は悔しそうに唇を噛む。

「私は幼いころ、エストレアへ行きました」

「お前の我儘で従兄妹殿がたいそう迷惑を被ったそうだな。外交問題も良いところだ」

つまり、私の我儘でエストレアに行ったということになっているのか。突っ込みたいけれど、話が進まないのでスルーします。

「私がエストレアへ行って暫くして、あなたとの婚約は破棄されています」

「は?」

これはウッドミル国王からコーディ殿下に直接話が言っているはずなのに、随分と間抜けな顔をしている。聞かされた時、子供だったから忘れてしまったのだろうか。だとしたら残念な頭だ。

「当然ですわね。お姉さまに王妃が務まるまずがないもの。作法もなっていない。愛人の子のくせに」

・・・・・愛人?

ベティも婚約破棄のことは知らなかったのか驚いた顔をしていたけれど、すぐに勝ち誇った笑みを浮かべた。なんか、おかしな言葉が聞こえたけれど。取り合えず今はスルー。一つ一つ潰して行こう。

「それから、同時期にスチュワート公爵家とは離縁しています」

私の言葉にコーディ殿下は一つの推測を導き出し、顔を青ざめさせた。腐っても王族。そこら辺の察しは良かったようだ。本当なら全て知っていなければならない情報だったのだけれど。

「そして、私は今回。このウッドミルに帰って来たのではありません。エストレアの人間として留学をしているのです」

ベティだけがまだ理解していないようで、首を傾げながら青ざめるコーディン殿下を見ている。ここまで言っても分からない。察しの悪さ。これが公爵家の娘とは。

「私はエストレア王国国王、オスニエル陛下の養女になりました。つまり、私はエストレア王国の第一王女。そして、エストレア王国王太子、カーティス殿下の婚約者でもあります」

「二又かけてたの!?」

騒ぎを聞きつけた教師が駆け付けたのと、ベティの叫びが食堂に充満するのは同時だった。状況は生徒から聞いてある程度把握している教師はまさかのベティの発言に体を硬直させた。かけつけた数人の教師のうち、女性教師はあまりのことに失神してしまった。

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