第23話
「いよいよだね」
「はい」
「止めてもいいんだよ」
「それ、今日で何回目ですか?いい加減、諦めてください」
「でも・・・・」
「一緒に行くのでしょう?本当はそれさえもどうかと思うのですが」
エストレアで十分に傷を癒し、まともな環境、まともな教師の元で立派な淑女教育を終えた私、ダリアは16歳になった。
王侯貴族の子息令嬢は規定として16歳~18歳まで学校に通わなければいけない。そして、エストレアの王族は交流も兼ねて隣国へ留学する。もちろん、その逆もある。順当に行けば今回はエストレアの王族がウッドミルに留学しなければいけない。
ウッドミルは私の祖国でもある。陛下とカーティスは難色を示したけれど私は自分の家族だった人がどうなっているのかも気になるし、このままここに居続けるのは逃げているような気もした。いい加減、けりをつけるべきだろうと思って、留学の件を了承した。
するとなぜか既に公務の殆どを陛下から請け負っているはずのカーティスが一緒に行くことになった。しかも陛下も当然だとばかりに了承し、その間のカーティスの仕事は全て陛下と側近たちが請け負うことになっている。私の知らない間に準備万端。整えていたのだ。
そして、留学が決まってから既に何万回と繰り返したこのやり取り。まだ不満そうなカーティスにじと目を向けるとカーティスは口を尖らせ。子供の様に拗ねた顔をする。
「君一人を行かせるわけにはいかないだろ。君は私たちにとっても、エストレアにとっても大事な存在なんだから」
最初は護衛として騎士を30人は連れていくと言っていた。一応はエストレアとウッドミルは友好国なのだ。そんなことをしたら要らぬ不信感を与えかねない。そんなことは聡明な陛下とカーティスなら分かっているだろうに。
もちろん。二人を何とか説得して侍女を10人。騎士を10人にまで減らしてもらった。
二人の説得にはブリジットとガルーシアも手を貸してくれた。年々、陛下とカーティスの過保護はひどくなっていったのだ。
「気を付けすぎなぐらいには気を付けるわ。決して一人にはならないし、それに騎士だって10人も連れて行くのよ」
騎士たちは年齢が近いものが選ばれた。と言ってもかなり優秀な者たちを選りすぐってはいる。
正装をした騎士たちが10人も私の為に学校に配置することはさずがに了承されなかったので同じ生徒して通うことになっている。もちろん、内二人は正式に騎士として私に配置することが許された。
「当たり前だよ」
そう言ってカーティスが私を抱きしめた。
「この国にずっといればいいのに」
私の肩に顔を埋めてカーティスが言う。私はくすりと笑ってカーティスを抱きしめ返す。カーティスたちの気持ちが分からないわけじゃない。彼らが行かせたくないと思うぐらい、ここへ来た当時の私の状態は酷かった。
背中の傷は今も残っている。
「ごめんなさい。心配させているのは分かってる」
「それでも、と言うんだろ」
ぐりぐりとカーティスが私の肩に自分の頭を擦り付ける。こういう仕草はいつもの毅然として姿からは想像できない。とても可愛らしい姿だ。私だけが知っている。
「ここに来てからずっと幸せだった。だけど、心のどこかにずっと家のことが気になっていたの。きっとこのままだとずっと残り続ける。それは嫌なの」
はぁ。と、カーティスは深いため息をついた。顔を上げてカーティスは私の目を真っすぐに見つめる。
「私も嫌だよ。君の心に私以外がずっと住み続けるなんて。分かったよ。既に了承していることだし。私も行くし。もう何も言わない。君の気が済むまでやればいい」
「ありがとう、カーティス」
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