第21話

その夜、私はカーティス殿下に貰った絵と鏡を胸に抱いて眠った。その日は悪夢を見なかった。


◇◇◇


カーティス殿下とオスニエル陛下は仕事があるので今日は別行動だ。と言っても私には二人の護衛がつけられ、どこに行くにも彼らがついて来る有様だ。

これは些か過保護過ぎなのではないかと進言したのだけど、爽やかな笑顔で却下された。

「本来なら普通でも十名以上の護衛と侍女が君にはつけられてもおかしくないのだよ。寧ろ、それでも少ないぐらいだ。それを分かっていない愚か者に育てられたのは悲しい不幸だ」

と、笑顔なのに背筋がぞっとすような空気を纏ってカーティス殿下が言っていた。その後ろでオスニエル陛下もしきりに頷いている。そんなものなのだろうか。

邸では護衛何てついていなかったし。侍女はいたけれど、専属ってわけではなかった。日替わりみたいでいつも顔ぶれが違っていたし、呼ばなければ来ないから部屋ではいつも一人だった。だから、正直カーティス殿下達の言い分が正しいのか分からない。

まぁ、これがここの流儀ならばそれに従うのが筋というものだ。だから私は大人しく護衛を伴って図書室に行った。家庭教師などは私がここでの生活に慣れたらつけるとのことなので今は特にすることがない。こんなに暇なのは初めてなので何をしていいか分からず、取り合えず図書室でいくつか本を選ぶことにした。

でも、数が多すぎて何を読んだらいいのか分からない。

流し目で本のタイトルを見ていると、昨日カーティス殿下が勧めてくれた本に目が留まった。

「お取りしましょうか?」

足を止めて一点を凝視していた私に気づいて護衛の一人が声をかけてくれた。私の頭から数段上にある棚なので背伸びをしても届くかは微妙だ。

「お願いします」

「かしこまりました」

私がお願いすると護衛は嫌な顔をせずに本を取ってくれた。そのことに困惑しながらも取ってもらった本を受け取って礼を言うと、今度は護衛の方が困惑してしまった。何か対応を間違えただろうか。ちょっと不安になっていると「ダリア、何をしているんだ?」と聞きなれた声が聞こえた。

「陛下」

護衛の二人はすぐに横にずらして、敬礼する。陛下は手で、彼らに敬礼を解くように指示。阿吽の呼吸で彼らは敬礼を解いた。

「何をしていいか分からないので読書を」

「そうか。でも冒険ものとは珍しいね。ここには女の子向けの本もあるよ」

「これはカーティス殿下のお勧めで」

「そうか」

「陛下はどうして?」

「仕事に使う資料を取りにね。ここには執務の資料になりそうな本もたくさん揃っているからね」

「そうなんですね」

陛下は私の頭を撫でて「カーティスと上手くいっているようで良かった」と言って仕事に戻っていった。カーティス殿下と言い陛下といい。ここの人は人の頭を撫でるのが好きだなと私は思った。

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