第12話
「あなたって子はどうしてこうも出来が悪いのっ!」
お茶会が終わってすぐに私はアンドレアの部屋に呼ばれた。入ってすぐにアンドレアは私を床に座らせて、その背中を鞭で打った。
「っ」
悲鳴は上げなかった。アンドレアを喜ばせるだけだと知っているから。唇を噛み、出そうになる悲鳴を堪える。強く噛み過ぎたせいで唇からは血が流れた。
「よくもベティに恥をかかせましたね。あの子があなたのせいで社交界から爪弾きにされたらどう責任をとるつもりよ!」
バシンっ。
力いっぱい、何度も背中に当たる鞭。そのせいで生暖かい液体が背中をすーっと流れていった。他人事の様に肉が避けて血が流れてしまったのだと思った。
何度も打ち付けられると痛みはどこかへと消え失せる。代わりにジンジンと熱を帯びて、それがとても不快だった。
アンドレアは気が済むまで私を鞭で打った後、私を部屋から追い出した。
「っ」
さっきまでどこかへと消えていた痛みが、歩くことによって刺激されたのか、再びやって来た。そのせいで真っすぐ歩けない。
私が与えられている部屋は一番奥の日の当たらない場所。日当たりのいいアンドレアの部屋から離れているのでとても遠くに感じる。
「!?」
「あっらぁ。ごっめんなさぁ~い」
私は何かに躓き、転んだ。それが、ベティが出した足だとすぐに分かったのは床に転がった際、彼女が先日、父に買ってもらっていたお気に入りの赤い靴が見えたからだ。
私は受け身が取れず、顔から床に倒れた。
そんな私をベティはくすくすと笑いながら見ている。
「やっだぁ。こっわ~い。そんな醜い顔で睨まないでよ」
床に転がった私の腹部を蹴り上げながらベティがまたくすくすと笑いながら言う。
「お姉さまがいけないのよ。私に恥をかかせようとするから。お姉さまって、本当に性格が悪いのね」
「自分で転んだんでしょう。結構、ドジなのね」
「うっさいわねぇ」
再びベティが私の腹部を蹴ろうとした。私のはその足を掴んでベティを転ばせた。
「ぎゃっ」
バランスを崩したベティはお尻を床に強く打ち付けた。いい気味。
ベティはぎろりと私を睨んだ後大きな声で「お母様ぁ」と泣き出した。するとアンドレアがすぐに駆け付ける。
「お母様。お姉さまが私に乱暴をしたの」
そう言って抱き着く愛おしい我が子を抱きしめながらアンドレアは私を睨みつける。
「あんたって子はまだ懲りないのね。いいわ。もう一度躾けなおしてあげる」
にやりと嫌な笑みを浮かべたアンドレアは動けない私の髪を掴み、床を引きずって、自室に入る。そこで私は気を失うまで何度もアンドレアの鞭を浴びた。さすがに顔や、ドレスで隠せない部分は避けられてはいたが、その傷は背中や腹部にまで及んだ。
いつまでその行為が続けられていたかは分からない。ただ、目が覚めたら私はアンドレアの部屋の前の廊下に転がされていた。窓から見える外はほんのり紫色を帯びていて、もうすぐ夜が明ける頃だと分かった。
「っ」
何とか立ち上がろうとしたけど体が思うように動かず、倒れてしまう。腕だけで体を起こそうとしても無駄だった。仕方がなく這って、壁の所まで行き、体に壁をこすりつけて何とか体を起こした。そこからは壁を伝って部屋へ戻った。
着ていたドレスはズタボロで、もう着れなくなってしまった。今までは多少裂けていても侍女たちが見繕って、何とか着ることができていた。私はベティやアンドレアと違ってドレスをそんなに持ってはいないし、買うことも許されていないので、何度も着まわしているのだ。
着替える余力がないので下着姿でベッドに寝た。ドレスは床に転がしておく。別に問題ないだろう。仕えている家の娘が廊下で倒れているのにアンドレアが怖くて無視をする使用人になんて気を遣う必要もないはずだ。
背中の痛みで寝付けないかと危惧していたけど、かなり体力の限界だったようですぐに寝付くことができた。就寝してから3時間後に、侍女が起こしに来た。
「体調が悪いの。今日は自室で過ごすわ。ご飯もいらない」
「けれど、奥様が食堂で召し上がるようにと」
「食事は要らないわ」
「申し訳ありませんが、お嬢様。奥様のお言いつけですから。急ぎ、支度をして食堂へお願いいたします」
侍女は引きそうにない。私はため息をついて、ベッドから出た。良かった。ベッドで休んだおかげで何とか一人で歩けそうだ。
侍女は私の体についた傷を見て、一瞬だけ痛ましそうな顔をしたけれどすぐに目を逸らし、何事もなかったかのように着替えを手伝い始めた。
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