第11話

コーディの行動は全て陛下たちに報告されていた。まだ子供だからと少し様子を見ていたようだけど、どうにも嫌な方向性に向いてきている。その為、陛下はコーディをかなりきつく叱ったそうだ。

そして、一か月の謹慎を言い渡され、その間は精神修行という名の勉強付けの毎日だったそうだ。

なぜ私がそんなことを知っているかというと謹慎が解けてすぐに私に謝りに来てくれたコーディが教えてくれたからだ。

ただ、コーディは私に謝りながらもきっとそこまで自分の行いに問題があったとは思ってはいないのだろう。現に彼はベティに少しでもいいから優しくしてやってくれだと、可哀そうだのと言っていた。

ベティはそんなコーディにしな垂れかかりながら「コーディ様は優しいのですね」と言っていた。

あの日から、コーディが私を置き去りにしてベティと楽しそうに話すというのはあまり見られなくはなったけれど、それでも時折ベティを気にしているような態度をしている。


◇◇◇


「きゃあっ」

社交界前の子供たちは社交界の予行演習として親同士が交流のあるお茶会に参加することがある。私とベティは父の知り合いの伯爵夫人が開くお茶会に招かれていた。

お茶会は立食式のものだった。私は何となく、自分の近くにいた令嬢と話をしていた。そんな時、たまたま近くを通ったベティが転んだ。

「ベティ、大丈夫!」

アンドレアがすぐに駆け付け、周囲の貴族たちも何事かと視線をベティに向ける。

「ええ。お母様」

父が今日の為に折角見立ててくれたドレスが泥で汚れてしまった。ベティはちらりと上目遣いで私を見る。とても怯えた目で。それだけで周囲は私が彼女をわざと転がせたと思わせることができる。実際にアンドレアは目くじらを立てて私を睨みつけてきた。

「ダリア。なんて性悪なの。妹に恥をかかせようとするなんて」

私の隣にいた伯爵令嬢は巻き込まれまいとそっと私から離れた。アンドレアの言葉に周囲の貴族たちは半信半疑で私のことを見ている。

「何のことでしょう」

「とぼけないでちょうだいっ!」

「とぼけたつもりはありません。彼女が勝手に転んだだけです」

「何ですって」

「お母様、やめて下さい」

涙目になりながらもベティがアンドレアを止める。そして無理やり作ったような笑みと怯えた目を私に向ける。

「わ、私が、勝手に転んだだけですわ。お、お姉さまのせいではありません」

全て本当のことなのに、彼女が私を庇って嘘を言っているように思える。そんな状況を彼女は作ろうとしている。

「ベティ。優しい子。こんな仕打ちを受けても、姉を庇うなんて」

アンドレは愛おしそうにベティを抱きしめる。彼女は周囲に気づかれないように私を見て、舌を出す。なんて下品な子かしら。

「スチュワート公爵夫人、何か行違があったんですわ。きっと。ベティ嬢は私の娘と体格も似ていますし、すぐに着替えの用意をさせましょう。ダリア嬢も大丈夫ですよ。どうぞ、お気になさらず」

すぐに主催者である伯爵夫人が動き、ベティとアンドレアを別室に案内した。場は一瞬、静まり返ったがそこは貴族。すぐに何事もなかったかのようにお茶会を再開した。


◇◇◇


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「見たか?今の」

「はい。全て。一部始終、逃すことなく」

銀色の髪に紫水晶をはめ込んだような瞳をした美しい青年は今の出来事を全て見ていた。彼はクククッと喉を鳴らして笑った。

「公爵は随分な毒を内側に持ち込んだようだ」

喉を鳴らして笑う銀髪の青年を黒髪、黒目で銀髪ほどではないが女性が喜びそうな顔をしている青年は不愉快そうに眉間にしわを寄せた。

「笑い事ではありません。あれでは、あまりにも姫が哀れです」

「ああ。全くだ。まさか上流貴族だけが参加できる茶会に娼婦が紛れているとはな。それも二人も」

笑顔を引っ込めた銀髪はアンドレアとベティが消えていった先に冷たい視線を向ける。

「行こう。行って、このことを報告せねば」

「あの話が提案ではなく、実行されることになりますが」

「問題ない」

きっぱりと断言して踵を返す銀髪に黒髪は黙って従った。

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