第10話
あの日から、コーディとのお茶会には必ずベティが来るようになった。コーディが許可を出している以上、私が口を出すことは許されない。
二人が楽しそうに話すのを私は見ていた。
そんな私たち三人の様子をコーディの護衛が心配そうに見ていた。彼はベティが無邪気にコーディに触れるたびに眉間に皴を寄せている。
◇◇◇
「殿下」
この日はいつものようにお茶会が開かれていた。私はベティとちょっとしたトラブルがあってコーディを出迎えることができず、さらに待たせてしまっていた。
コーディはメイドが庭に先に案内しているので急ぎ向かっているとコーディと彼の護衛が話している声が聞こえ、私は思わず足を止めてしまった。
護衛はとても厳しい顔でコーディを見ている。
「殿下の婚約者様はダリア・スチュワート公爵令嬢です」
いつになく厳しい声にコーディは戸惑っている様子だ。
「なぜ婚約者とのお茶会に無関係な人間をお呼びになるのですか」
「無関係ではないだろう。ダリアの妹ならいずれ私の義妹になる。それに彼女は、その・・・・家族にあまりなじめていないようだし」
視線を逸らして、ぼそぼそと話すコーディに護衛の顔がより険しくなる。
「そうでしょうか。私には婚約者様の方がなじめていないように見えますが」
「それは、ダリアのプライドが高いからじゃないか」
ぶちりと私の頭の中で何かが切れた。同時に心の中にある何かがパリンと壊れた。
「それは。だから、私が平民の血が流れている妹を蔑み、虐めているということでしょうか」
急に聞こえた私の声に護衛もコーディも驚いた顔をしている。さらにいつにない私の険しい顔にコーディは視線を逸らした。
「殿下は、私が妹を虐めていると思っているのですか?殿下は、私の言葉ではなく、妹の言葉を信じるのですか?」
彼は気づいているだろうか。私が今、名前を呼んでくれと言った彼の言葉に逆らっていることに。きっと気づいてはいないのだろう。
「まだ、その、出会ったばかりだから。君のこともベティのことも知らない」
「それでもあなたは妹を信じる」
「違う!」
「何が違うのですか?あなたのこれまでの言動は私に対して不信感があると語っています。たとえ、本当に違ったとしても、いえ、だからこそご自分の今までの態度を思い返してみてください」
視界が歪む。
泣くな。ここで泣くのはみっともない。泣くな。これ以上、自分を惨めにさせるな。泣くな。
「人の心は移ろうもの。お好きな方を信じてください。私にはあなた様の心を動かす力も、変える力もありません。今日は気分が悪いので失礼します」
踵を返す私をコーディは止めない。弱弱しく私の名前を呼ぶ声が背後からしたけど振り向かなかった。
「コーディ様」
私の横を通り過ぎていくベティ。彼女の口元には笑みが刻まれていた。
「コーディ様、どうなされたのですか?」
コーディの元へ駆け寄り、心配そうに彼に寄り添うベティ。その姿を私は流し目で見た。
泣く必要はない。痛む心もない。出会ったばかり。まだ、お互いによく知らない相手。ああ。良かった。出会ったばかりで。だから、ほら。涙さえ出てこない。
「コーディ様。お姉さまに虐められたのですか?可哀そう。本当にお姉さまは酷いですわ。コーディ様。私がお慰めして差し上げますわ」
その言葉にコーディがなんと答えたか分からない。私は耳を塞ぐように、心を閉ざすようにその場を離れたから。
何て、惨めなんだろう。
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