第9話ベティside
私はベティ。私のお母様は平民で、体を売って生計を立てている。世間一般で言う娼婦。そんな人を母に持つ私は哀れでしょう。でもね、ちっとも哀れなんかじゃないのよ。だってね、私のお父様は公爵家っていう貴族の中で一番偉い人なの。
その人がたまにやってきてたくさんのお金や綺麗な装飾品、肌触りの良いドレスを買ってくれる。それに大きな邸にも住まわせてくれた。だから、お母様は体を売る必要はなくなったし、生活も楽だった。でも、ひとつだけ残念なことがあるの。それはね、お父様が一緒に暮らせないこと。
お父様には違う国から貰って来た正式な奥様がいるんですって。でもね、その人は病弱でちっとも役に立たないの。その人が死んだら私たちと一緒に暮らせるの。
早く死なないかな。
◇◇◇
私が4歳の時。やっとお父様と一緒に暮らせるようになった。
今まで住んでいた邸よりも大きなそこには私の一つ上の姉がいた。燃えるような赤い髪に翡翠の瞳。ちっともお父様と似ていないわ。もしかして、愛人の子だったりして。
お姉さまはお母様を亡くしたばかり。可哀そう?ううん。ちっとも可哀そうじゃないわ。だって、お姉さまはずっとお父様と暮らしていたし、こんなに立派な邸に生まれた時からずっと暮らしていたんですもの。ドレスも装飾品もたくさん持っている。だから、ちっとも可哀そうじゃないわ。
寧ろ、私の方が可哀そうだわ。お父様とずっと暮らせていなかったし。
ねぇ、お姉さまはたくさんの物を生まれながらに持っているから可哀そうな私が少しぐらいとってもいいでしょう。貴族なんだから。可哀そうな子に恵んでくれるでしょう。それが貴族の義務なんでしょう。だから、可哀そうな私にたくさんの物を恵んでね。
◇◇◇
お姉さまに婚約者できた。コーディ様。コーディ様は第二王子だけど、第一王子は病弱だから、きっと王にはコーディ様が即位する。そうなると婚約者であるお姉さまは王妃になる。
お姉さまは毎日、お母様に怒られているわ。たくさん、お仕置きをされている。私と違って出来が悪いから。それにお姉さまは修道院に送られるほど性格にも問題がある。お父様に似ていないお姉さまは私と違って血筋だって不確か。きっと、コーディ様は騙されているんだわ。
「お姉さまと本当に結婚されるんでですか?」
お姉さまのせいで転んだ私を診た医者は私の言いつけ通り、ねん挫ということにしてもらった。お姉さまの元へ戻ろうとしたコーディ様を引き留めた。
「愛してもいないのに」
私の言葉にコーディ様は困ったような笑みを浮かべた。
「まだ、出会ったばかりだからね。そういうのは徐々に一緒に育んでいくつもりだよ。それに、政略結婚に愛もお互いの意思も重要視されないものだ。君には分からないかもしれないけど」
つまり、コーディ様は仕方がなくお姉さまと結婚するのね。可哀そう。私がお慰めしてあげなくてわ。
「でも、お姉さまは私に酷いことばかりするのですよ。さっきみたいに転ばされるなんて日常茶飯事。ドレスも装飾品もたくさん壊されましたわ。本当にそんな方と結婚していいのですか?」
コーディ様の目に動揺が走る。やっぱりコーディ様がご存じなかったのね。可哀そう。
「コーディ様」
私がコーディ様の腕にそっと触れるとコーディ様はさらに動揺した。可愛い。
「私とお話しませんか?お姉さまのせいで怪我をしてしまって、しばらくはベッドから起き上がれないんです。とても退屈です」
「ダリアが待ってるから」
「妹に怪我をさせておいて謝罪もしない人がそんなに良いんですか?」
「・・・・」
「私とお話しましょう。コーディ様」
お姉さまよりも私の方がコーディ様に相応しいわ。
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