第8話

「きゃあっ」

それからベティの攻撃は始まった。私とコーディが並んで廊下を歩いているとわざと私の横を通り、転ぶ。

「だ、大丈夫」

コーディは慌ててベティを抱き起す。ベティは涙目で私を睨んでくる。

「酷いわ、お姉さま。足を引っかけて転ばせるなんて」

「自分が勝手に転んだのでしょう。私のせいにしないで。だいたい、わざと狭い方を通るなんて。私の足に引っかて勝手に転んだとしても文句は言えないのではないの?」

それに、反対側にいたコーディは気づいてはいないようだけど、彼女は私の足を思いっきり、踵で踏んだのだ。おかげで足が痛い。

「っ。足が痛いわ」

わざとベティは足首を抑えて、涙目で私を見つめる。

「私、お姉さまのせいで足を痛めたのよ。それなのに、謝罪もしないんて」

「何もしていないのだから、当然でしょう」

「何て傲慢な人なの」

私はベティが抑える足首を見つめる。別に赤くもなっていないし、腫れてもいない。

「と、取り合えず、彼女を部屋に運んでくるから。ダリアは先に行ってて」

「コーディ様」

嬉しそうに頬を染めながらベティはコーディを見つめる。

「いいえ。コーディの手を煩わせることありませんわ。彼女は使用人に運ばせます」

「わ、私が平民の子だからって。お姉さまは心配もしないのですね」

「怪我もしていないのだから、する必要はありませんわ」

「あ、足が痛いのよ」

「ダリア、先に行っていてくれ。彼女を部屋まで運ぶから」

埒が明かないと踏んだのか再度、コーディが言う。ベティは勝ち誇った顔で私を見る。なんて醜悪な顔だろう。

「・・・・・分かりました」

私は二人を残して、自室に行った。今日はコーディと一緒にお茶をする予定だったのだ。

侍女に頼んでお茶の用意をする。コーディが来るのを待った。でもこの日、コーディは来なかった。

帰る時間になって漸く、気まずそうな顔を出したコーディを私は馬車まで見送った。

「ベティ、ねん挫だって」

「そうですか」

自室の窓から見た医者には見覚えがあった。アンドレアが懇意にしている医者だ。どうせまた誤診でもしたのだろう。よくあることだ。

「ダリアは、ベティのことが嫌い?」

コーディが躊躇いながら聞いてきた。

「母上が亡くなって日も浅いうちに後妻を迎えて、しかも自分と一歳違いの義妹なんて受け入れにくいとは思うよ。公爵のことを許せないという気持ちも分かる。でも」

「殿下」

私は自分が思ったよりも低い声が出た。コーディが驚いたように私を見る。それは私が放つ冷気のせいか。それとも殿下と呼んだせいか。その両方かは分からない。私は気を落ち着かせるように一度目を閉じた。

「私は、私の大切なものを全て奪っていく彼女が嫌いです」

「?」

コーディは不思議そうな顔で首を傾げた。コーディはまだベティの本性を見抜いてはいない。だから私の言葉の意味が分からないのだろう。

「あなたも奪われてみますか?」

「ダリア?」

「もうお時間も遅いのでお帰り下さい。次の約束の日は一緒に過ごしてくださいね。あなたの婚約者は私ですから」

「ああ。今日はすまなかった」

コーディは私に頭を下げて馬車に乗り込む。私は馬車が見えなくなるまで見送った。

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