(5)
その日、かれんと真人は一日中、新潟市の万代のお客様の会社やお店を回っていたが、行く先々で例の女の子をチラホラと見た。
かれんは女の子の姿を見る度に、女の子の帽子と髪の間からチラリと見えたあの瞳のことを思い出した。
一瞬だけ見えたあの女の子の瞳が、どうしても忘れられない。
真人の言う通り、目力がすごいと言われればそれまでだが、一瞬見えただけであんなにも人に印象付けられる目力を持っているというのは、すごいと言えばすごい。
でも、本当に目力があるから、忘れられないだけなのだろうか……。
真人は相変わらず女の子を見かけると、「困っちゃいますね」と全然困っていない表情で言って来る。
かれんはその度に、(まったく、最近の若いものは……)と呆れるのだった。
それでも、かれんと真人が営業を終えて会社がある古町へ戻ってみると、女の子の姿はいつの間にかいなくなっていた。
「――あの
真人もいつの間にか女の子の姿が見えなくなったことに気付いたのか、辺りをキョロキョロと見渡しながら言った。
「そうだね」
「あの
「そう、だね……」
確かに真人の言う通りだな、とかれんは思った。
女の子がかれんと真人の後をついてくるのは、二人が営業周りしている万代周辺だけだ。
二人が営業を終えて古町に戻ってみると、女の子の姿はどこにもない。
ということは、やっぱりあの
「まあ、でも、明日も万代へ行けば、あの
かれんは真人がニヤニヤしながら言うのを見ながら、後輩の果てしないポジティブさに半ば感心して半ば呆れた。
「でも、塩木君、あの
ニヤニヤしている後輩を見上げながら、かれんが言った。
「別にどうってことないですよ。俺の彼女、そんなことでヤキモチなんて焼かないですって。加賀谷先輩と一緒に営業してるって言っても、『そんなキレイな人とずっと一緒なんて、羨ましい』って言うんですよ」
「そう……」
さすが真人の彼女だ、とかれんは思った。「類は友を呼ぶ」とは、まさにこのことなのだろう。
かれんと真人は古町のアーケードを潜って、昴が店主をしている「マーズレコード」の前を通り過ぎ、会社が入っている雑居ビルへと向かった。
かれんは昴の「マーズレコード」を通り過ぎて少し歩いたところで、ふと後ろに自分たちを見ている視線を感じた。
もしかして、やっぱりあの
「あっ! あの人、ウワサの加賀谷先輩の……。あのレコード屋の店主ですよね?」
かれんと同じように視線を感じたのか、後ろを振り返った真人が昴を指さしながら言った。
ウワサのって……。
一体、自分と昴は周りの人からどう「ウワサ」されているのだろうか、とかれんは心の中でため息を吐いた。
昴も昴で、どうして店先に出て自分と真人の方をジッと見ているというのだろうか。
「塩木君、先、会社戻ってて。何かあの人、私に用事があるのかもだし」
「はい、わかりました。ごゆっくり」
真人が会社のある雑居ビルに入っていくのを確認すると、かれんは昴の方に近付いた。
昴もかれんが近付いて来るのがわかると、こちらの方にトコトコと歩いて来た。
「昴、何? 何か用事?」
「うん、かれんちゃん、あのね……」
昴はかれんのことをまるで見上げるように見下ろしながら、何かを言いたいが随分と言いにくそうな表情をしている。
「何? 何があったって言うの?」
あの「いつでもどこでもマイペース」な昴が、そんなに言いにくそうなことって何だろう? とかれんはかなり気になった。
「かれんちゃん、最近、あの男の子とよく一緒にいるな、と思って……」
何それ、とかれんは拍子抜けした。
「あの男の子って、さっき一緒にいた塩木君のこと?」
「うん」
「今度、私が担当しているお客さんをあの塩木君に少し引き継ぐことになったの。それで最近、一緒に営業回ってるんだけど……。
って言うか、昴、そのことが気になって店先でジッと私たちの方を見てたの?」
「うん」
昴が頷いた。
「もう、いい加減にして! 私も昴も仕事中でしょ? くらだないことで引き留めないで! 私、仕事戻るから」
かれんはそう言うと、昴に背を向けて自分の会社が入っている雑居ビルの方へと足早に歩き始めた。
「あっ、かれんちゃん……」
後ろで昴が引き留めるような声を上げたが、かれんは構わず会社へと真っすぐ帰って行った。
(――まったく、あの男、本当に何なの?)
自分の方を何か言いたげにジッと見ていたかと思えば、「最近、あの男の子とよく一緒にいるな、と思って」なんて言い出して……。
ひょっとして、あれってもしかして「ヤキモチ」ってものなのだろうか、とかれんは思った。
(――もう、あの男は何でヤキモチなんて焼くのよ)
私の気持ちも知らないで、とかれんはいつものようにモヤモヤした。
自分も昴の元に届くあの「ポストカード」の送り人が誰なのか気になっているというのに、昴ばっかり「最近、あの男の子とよく一緒にいるな、と思って」と言って来るなんて……。
かれんは歩きながら、「俺の彼女、そんなことでヤキモチなんて焼かないですって」と言っていた、真人と真人の彼女の「類は友を呼ぶ」の二人のことが心底羨ましくなった。
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