(7)
「まあ、そこまでキライだったら、自分の赤ちゃんなんて絶対に勝君のお母さんに会わせようとはしないだろうね」
昴は組んでいた「
でも、奥さんの目が厳しいから子どもを連れだしてお母さんに会わせるなんてことは到底できない。そして、勝君と勝君のお母さんが取った手段がこれだったんだ……」
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その日、勝君と奥さんと赤ちゃんは、連休を利用して奥さんの実家に出かけた。
奥さんの実家へは新幹線で帰ることになった。
勝君は「孫の顔を一目でも見たい」という自分の母親に、子どもを会わせたいと思っていた。
でも、母親のことを一方的に嫌っている奥さんが、どうしても許してくれない。
終いには奥さんに「私の前であの人(勝君の母親)の話は一切しないで!」と怒鳴られてしまった。
そこで勝君はある考えを思いついた。
この連休に奥さんの実家に帰る時に、母親と子どもを会わせてみてはどうか、と。
奥さんの実家は長岡にある。
新幹線が長岡駅に停まったら、奥さんを先にホームに降ろす。
奥さんがホームに降りたら、長岡駅で待機していた母親が奥さんと入れ替わりのように新幹線に乗る。
新幹線に乗って来た母親に子どもを預ける。
そして、自分は母親と子どもを新幹線に乗せたまま、一人でホームを降りる……。
かなり強引な方法ではあるが、そこまでしないと母親に子供を会わせられないほど、奥さんは母親を嫌っていたのだ。
新幹線が長岡駅に着くと、奥さんが赤ちゃんを抱っこしようとしたが、勝君が慌てて赤ちゃんを抱っこした。
「私が抱っこする」
と奥さんは言ったが、勝君は首を横に振った。
奥さんは勝君よりも先にホームに降りた。
勝君は赤ちゃんを抱っこしたまま、新幹線の車内で母親を待った。
少しすると、新幹線の車両連結部のドアが開いて、勝君の母親が入ってきた。
勝君は入ってきた母親に、抱っこしていた赤ちゃんを渡す。
勝君の母親は、愛おしそうに自分の孫を抱き寄せた。
新幹線の発車時刻が近付いてきた。
勝君は赤ちゃんと母親をそのままにして、一人でホームに降りた。
ホームでは奥さんが苛々とした表情で待っている。
ホームに降りて来た勝君に奥さんは「何してるの? 遅い!」と声を掛けたが、次の瞬間、驚いたような声を上げた。
「ちょっと、赤ちゃん、どうしたの?!」
奥さんが声を上げた瞬間に、発車のベルが鳴り、新幹線の扉が閉まった。
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「――そして、奥さんは大キライな勝君のお母さんから赤ちゃんを取り返すために、泣きながら次の新幹線の乗車券を買って追いかけたんだよ。まさにビートルズの『涙の乗車券』って感じで」
「でも、昴、ちょっと待って」
ずっと黙って昴の話を聞いていたかれんが、口を挟んだ。
「何? かれんちゃん」
昴はニコニコとした表情をかれんに向けた。
「でも、やっぱり勝君と勝君のお母さんもひどいんじゃない? 奥さんがそんなに勝君のお母さんを嫌っていたのだって、よっぽど干渉されてイヤだったのかしれないし。第一、奥さんに黙って赤ちゃんをお母さんに預けてどこかにやってしまうなんて……」
「うん、かれんちゃんの言いたいこともわかるよ。でも、あの奥さんが勝君のお母さんを嫌っていたのは、嫌われるほど干渉されたからってわけではないと思う。その証拠に、勝君と奥さんは離婚したけど、勝君の方が子どもを引き取ってるじゃない。勝君が離婚の原因だって言っているにも関わらずね。それに……」
「それに?」
「奥さんには勝君のお母さんを一方的に拒絶する以外にも、何か問題があったんだと思う。
そう、これだよ。かれんちゃんが言ってた『会社だとものすごく面倒見の良い人で、後輩に奢るのが趣味みたいなもの』ってところだね」
「確かに、私、それも言ったけど……」
「奥さんは結婚しても子どもが生まれても、独身の頃のクセみたいなものが抜けなかったんだよ。結婚しても子どもが生まれても、独身の頃のように後輩に奢ったりとかそういうことをやってたんだろうね。
奥さんは勝君のお母さんにそのことを言われてカチンと来て、それからお母さんのことを一方的に拒否したんじゃないのかな、きっと」
昴はそう言うと、かれんに向かってもう一度「ニコリ」と笑顔を見せた。
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