キングコーデpart2
「そうよ」
意外にも力強く頷いたのは、アキラの傍らにいたアヤネだった。
アヤネはアキラの手を強く握って、
「この時のための、誰よりも強い女子力じゃない。大丈夫よ、アキラが言うんだもの。これがわたしたちにとって最良の手段なのよ。なら、やらないと。もうあれこれ考えている暇なんてないわ」
そうだね、とキッコが頷く。
「太陽がもっと迫ってきたら、この国のみんなにどんな影響があるか解らないし……もう一秒も無駄にはできないよ。とにかく、なんでもいいから早くしないと」
キッコの言葉に、今度はカンナが頷く。
「解りましたわ。では……アヤネさん、あなたが氷でロケットを。土台は――」
「土台は私が作ります」
と、アキラ。
「クイーン、その金庫の中にあるポーンコーデを私にください。植物を操るポーンコーデ――その際上位コーデがあれば、きっと頑丈な土台を作ることができるはずです」
「ええ、解りました。では、それはアキラ様にお任せ致しますわ」
「燃料はどうする? クイーン一人で行けるか?」
チナツがカンナを見やる。カンナはその優しげな目を曇らせて、
「いえ……おそらくわたくしだけでは力不足でしょう。なので、まずはアヤネさん、あなたの水でロケットを押し上げ、それからわたくしの火で加速、キッコさんは風でバランスを取り続けて、最後にアキラ様だけを上空へ吹き上げる――という算段に致しましょう。それと、役割を終えた人間はロケットを降りて、重量を軽くするということも忘れずに」
「待って。ボクなら最後の最後――太陽の中までアキラについていけるよ」
いや、とアキラは首を振る。
「きっとキッコさんは、あの中では女子力を使えません」
「どうして? そのコーデを着たアキラがすぐ傍にいれば――」
「いえ、たぶん無理です。根拠はありませんけど、私は私を守るだけで精一杯になる……そんな予感がするんです」
「わ、私はどうすればいい?」
と、急に頼りなげにチナツが尋ねてくる。アキラは微笑んで、
「チナツさんは、これまで浚ってきた『向こう側』の人たちを、あちらへと帰しておいてください。この作戦、私が言い出したことですけど……本当に上手く行くか解りません。だから……」
「解った。そうだな、私にできるのはそれくらいしかない」
チナツが頷くと、アヤネがアキラの手を握る力を強めて言う。
「でも、待って? それで、あなたはどうなるの? もし上手く行ったとしても、あなたは無事に帰ってこられるの?」
しん、と部屋の中が静まり返る。その張り詰めた静寂の中で、アキラは微笑む。
「大丈夫です。あの場所――太陽の中にはキングコーデだけが残って、私は無傷でいられます」
「本当に? 本当に本当?」
アキラの声に何か違和感を覚えたように、アヤネがアキラの目を覗き込んでくる。
アキラはアヤネの手をそっと放させ、
「本当に本当です。それに、危険だったとしても私はやります。クルミが眠りから覚める前に……あの心にまた絶望が宿ってしまわないうちに、全てを終わらせなきゃいけないんですから」
「信じましょう」
カンナが静かに言う。
「アキラ様が、今ここにおられるということの意味を……そして、そのアキラ様に導かれ、わたくしたちがここにいることの意味を」
アヤネが、チナツが、キッコが互いに目を見交わす。カンナもまた皆を見回して、小さく頷く。そして、胸の傷に手を当てながら言う。
「アキラ様……全ては、あなた様の運命と共に」
「……ありがとうございます」
今さら、『自分は神人なんて立派なものじゃない』なんていうことを言うわけにはいかない。それは言い訳であり、責任逃れだ。アキラは皆の視線を受け止めて、
「じゃあ、アヤネさん、借りていたこのコーデを返します。それと、カンナさん、あなたのコーデを一度、私にください。コーデを具現化し直して、新品にして返します」
皆に指示を出し、クルミの枕元へ行く。
世界の危機などとは無縁に、天使のように穏やかな顔で眠っているクルミの手を握り、
「クルミ、大丈夫、私たちがなんとかするから……」
アキラは自分を鼓舞するようにそう言って、それから思わず苦笑する。
父と門下生を取り戻しにこの世界へやってきて、それだけでも信じられないというのに、まさか自分がこの世界を救うために命を懸けることになるなんて……考えもしなかった。
だが、今はもう覚悟を決め、祈るしかない。
――プリンセス、どうか私に力を……。
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