簡単ではない
「久しぶりね秀太くん。立派になっちゃって!私の見立てどうりになったわねー。まずは日本一おめでとう!そして、楓に走りを教える件覚えてたかな?」
「、、、お久しぶりです。正直さっきこうかに話を聞いて思い出した所です。」
そこに居たのは渚さん本人だった。初めて会った時からもう4年近く経つが、相変わらず綺麗な笑顔を見せてくれる。だが、あの時と比べて少し顔色が悪いように感じる。
「えー悲しいわー。あんなに熱く語ってくれたのに。まぁそんな所だろうと思ってもう一度お願いする為に日本に来たんだけどね。
それはそうと、こうかって呼ぶ事許したのねー。この子私にしかそう呼ぶこと許して無いのに。女ったらしなのは相変わらずねー」
僕はそう言われて、こうかの方に目をやると、こうかは少し照れくさそうに渚さんの背後へと隠れる。後、女ったらしというのは心外だ。未だ彼女だって出来たことないのに。自分で思っててかなしくなる。
「まぁ、秀太君も言いたい事いっぱい有るだろうし、まずは私から伝えたい要件を伝えます」
僕はコクリっと首を縦に振る
「楓には、来月にある福岡県陸上記録会に出て欲しいの。その為に秀太君には、楓に対して指導して欲しい」
「勿論楓ちゃんに走りを教える事は構いません。だけど、それって渚さんじゃダメなんですか?」
「うーんそうねー。今、楓に会っちゃうとあの子、私に甘えちゃうから」
渚さんの言葉は、余りにも自分勝手に感じた。小学生が親に甘えたいなんてそれこそ当たり前の事なのに。僕は、少し頭に血が上りながらも考えて一つ一つの言葉を発する。
「今の楓ちゃんには、渚さんが必要です。この前の寂しそうな楓ちゃんを見てそう確信しました。」
「それはダメよ。あの子の陸上人生にとって私は必要ないから。甘えにしかならない。」
正直僕には、渚さんの言うことが理解できなかった。しかし、限りなくそれは渚さんの本心なのだと言う事はわかる。
「取り敢えずそんなところね!じゃあそろそろ帰ろっか。」
「了解ですししょー!」
それを聞き僕は、引きとめる
「ちょっと待ってください!未だ聞きたい事は沢山あるんです!」
そう言うと渚さんは、
「えー、秀太くん私の事忘れてたんでしょー?ならダメ!こんなに綺麗なお姉さんを忘れるなんてひどいわ!」
泣き真似をしながらそう言う。
流石に我慢できなくなった僕は
「流石に自分勝手がすぎます!僕にだって聞く権利はあるはずです!」
そう言うと渚さんはスッと泣き真似をやめ
「ごめんごめん怒らないで!そうねーじゃあ一つ条件!」
「何です?条件って」
これ以上粘っても無駄だと思った僕は、諦めてその条件を聞く。
「条件それは、福岡陸上記録会でこうかの記録を上回ること!」
渚さんは続けて話す。
「因みにこうかのベストは、14.52だから。」
僕はその記録を信じられなかった。同年代の子の中でも全国トップクラスに速い記録だったからだ。
「そんなの無理じゃないですか!短期間で記録をそこまで伸ばせるなんて事無理なのは渚さんが一番良く理解できてるでしょ!」
「凡人ならそうなのかも知れないわね。でもあの子は間違えなく天才よ。秀太君も経験したことあるはずよ急に記録が伸びるって事」
確かに、心当たりはあった。記録が伸び止んでいた時期に、一つほんのちょっときっかけで自己ベストを0.8以上伸ばした事があった。しかしそれは、自分だけではできなかった事だ。県の強化合宿や、伊藤さんの助言によるところが大きかった。
「だけどこうかも天才よ。それも楓と同じくらいには。だから本番までにもっと記録が伸びると思うけれど」
「じゃあ楓の事頼んだわね」
「また会いましょうねーお兄さん!」
そう言って渚さんとこうかはその場を後にした。
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