過去の記憶 後編
「まぁ、アドバイスとしてはこのくらいかな」
「「ありがとうございました!!」」
僕と雪乃は図らずも同じタイミングでそう言葉を発した。
「じゃあ、伊藤さん私たちそろそろ帰りますね」
「もう帰るのか?」
「はい。この後ちょっと用事がありまして」
「そうか」
そう言って帰ろうとすると、女性が僕に向かって
「あっ、秀太くん!私が言ってた楓に走りを教えてって話本気だから」
女性は至って真面目な顔でそう言った。
「おい、秀太はまだそんな事言われたって困惑するだけだろ」
伊藤さんはそう言うが、女性は続ける。
「私は、貴方たちが将来この日本陸上会を背負う立場になると、貴方たちの走りを見て確信したわ」
僕はその言葉を聞き胸が今までに無いくらい熱くなった。そして、無意識に言葉を紡ぐ。
「ぼ、僕はまだ人に教えてもらう事しか出来ません。だけどいつの日か絶対に日本で一番の選手になってみせます!そして、楓ちゃんに、、、いや楓ちゃんだけでなく沢山の人達に教えることができる様な、選手になってみせます!」
僕は、ここまで心臓の鼓動がドクドクと聞こえる様な事は、初めてだった。これは、人生で初めて自分以外の人に目標を語ることができた嬉しさによるものだと思った。
伊藤さんと、女性は同じ様に温かな笑みを浮かべながらその様子をみていた。
すると雪乃は
「その為には、まず私に勝つ所からだね!」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらいった。
「直ぐに抜いてやるからな!」
僕もそう言い返した。
「ねーねーおにいちゃん!」
僕は後ろから裾を引かれた。ひょいと後ろを向くと楓ちゃんが
「これあげる!」
そう言って花で出来た冠を僕の頭に乗せてくる。
これどうしたの?と僕が聞くと。
「にほんいちばんのかんむりだよっ!」
満面の笑みを浮かべてそう言った。不覚にどきりとしている自分がいた。
「何か楓、秀太くんの事気にいっちゃたみたいだねー。この際付き合う約束でもしてたらー」
女性はさぞかし面白いものが見れそうだと言った顔を浮かべながらそう言った。
楓ちゃんは不思議そうに聞き
「おかーさんつきあうってなにー?」
雪乃は
「何いってるんですか!」
と焦った様に女性にいった。
伊藤さんに至っては呆れたような、しかしそれを楽しんでいるような表情を浮かべていた。
「ヤバっ。本当に時間無いじゃん!楓みんなにバイバイ言って!」
「ばいばあーい!」
そう言って帰ろうとした女性は最後に
「伊藤さん、あの子達大切に育てて下さいね。」
「勿論だ」
そう伊藤さんが言った後、2人は車を走らせていった。
「よし、2人とも練習に戻るぞ。」
そう伊藤さんに言われて、僕も戻ろうとすると雪乃が
「ねー秀太!あの女の人何処かで見たことない?」
僕はそう言われて記憶をあさる。しかし、全く検討がつかない。
「うーんわかんないなー。綺麗な人だったけれど、、、」
次の瞬間雪乃の強烈な裏拳が僕の頭に炸裂した。
「秀太のバカっ!この節操なしっ!」
そう言って何故か怒りながら練習へと戻る。
僕は打たれた部分を摩りながら。その雪乃の跡を追って再び練習へと戻るのだった。
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