過去の記憶 前編
こうかの言葉を聞き、ふと過去の記憶を思い漁ってみる。すると一つだけ思い当たる節があった。たしかあれは、俺が伊藤さんとの初の合宿を行った小学6年の時の記憶だ。
「秀太!もっと腕の振りを意識しろ!そうしないといくら他の部分を鍛えても何も意味ないぞ!」
そんなこと言われたって、やる事が多すぎて理解がおいつかない。
「その点、雪乃は基本的な事はほとんどできてるぞ。言うとすれば、スタートの時の姿勢が少し悪いからそこを意識する様に。」
「ご指導ありがとうございます!」
雪乃は嬉しそうに伊藤さんに感謝を伝えていた。僕なんかまだ一度も褒められた事ないのにと心の中で悪態をつく。
すると奥の方から来た凄く綺麗な1人の女性とその人にそっくりな可愛い少女が、伊藤さんに話しかけに行っていた。
「お久しぶりです伊藤さん。」
伊藤さんは。少し表情を綻ばせて
「おぉ!来てくれた渚!」
すると、僕より少し年下くらいの少女が、
「こんにちは!伊藤おじさん!」
と元気な声であいさつをしていた。
「あの子たちですか?伊藤さんがご指導してく子たちは」
「あぁ、そうだ。」
伊藤さんは短くそう答えた。
「あの男の子凄いですね、上半身の使い方はまだまだ甘いけど、下半身の使い方あれはなかなか出来ないですよ。渚と走り方がそっくり。女の子の方は、言う事ないですね。ほぼ完璧なんじゃないですか?」
「だな。しかも秀太の方はまだ陸上を本格的に初めて1ヶ月弱だぞ。まだまだ伸び代がある」
「まだ1ヶ月しか?それは凄いですね」
「あぁ多分あの子たちは今後の陸上会を牽引する立場になっていくだろうな」
すると伊藤さんが、僕と雪乃に
「おーい2人ともちょっと来てくれこのお姉さんがアドバイスしてくれるらしいぞ」
「ちょっと伊藤さん!」
女性は少し照れたような表情でそう言った。
ちょっとどきりとしてしまった。
そして少し考えた様な顔を見せ
「君名前は?」
僕は女性に大きな声で
「吉岡秀太です!」
「秀太くんね。そうねー、秀太君は多分伊藤さんの走りを意識してるでしょ?」
僕はビックリした。確かに伊藤さんが活躍していた頃のビデオを見て足の動きを真似していた。
「確かに伊藤さんの走りは素晴らしい。だけど、足の動きを意識する余り上半身が疎かになってるからそこは治す様に!っていうのはもう言われてるだろうから、貴方は自分の走りを探しなさい」
「自分の走り?」
「そう、自分の走り。言葉で言うのは簡単だけれど実際には凄く難しい。だけど、貴方はそれができると思う。」
ただ僕がいまいち理解できない様でいると、
「そうねー、私の娘も陸上をしてるんだけど貴方と娘は陸上に対する思考が凄く一致してる。だから今は理解できなくてもいい。だけど貴方はいつか貴方だけの走りを見つけるその時には私の娘に走りを教えてあげて欲しいの」
伊藤さんは何も言わずにじっと僕をみるだけ。雪乃も真剣な雰囲気に呑まれていた。
しかし1人だけは違った
「お兄ちゃん!私に走り教えてくれるの?」
僕がいきなり女の子に話しかけられて固まっていると、女性が
「今日の話じゃないわよ楓」
女性は笑いながら楓ということの頭を撫でていた。
「貴方名前はなんていうの?」
ポカーンとした顔をした雪乃に女性が話しかける
「え、わ私福島雪乃っていいます!」
焦った様に雪乃は自己紹介する。
「雪乃ちゃんはねー、正直走り自体は完成してると思う。もう全国トップクラスじゃないかな?」
「それって何もアドバイスはないってことですか?」
「そう言うと訳でもないのよねー。貴方多分だけど秀太君のこと好きでしょ?」
すると雪乃は赤面して
「好きな訳無いじゃないですかっ!」
「えっ!」
反射的に声を出してしまった。
女性は僕たちの様子を見て微笑みながら、
「まぁそんな事は置いといて」
なんなんだこの人。と多分だが雪乃も思っているだろう。
すると改めて女性は真剣な表情になり
「雪乃ちゃんは、自分だけの武器を見つけてみて。まぁ内容自体は秀太君に言ったことと同じね」
「ありがとうございます!」
雪乃は何かを思った様な表情でそう言った
最後に女性は笑顔で
「まぁ、とにかく貴方たちは凄くいいものを持っているから日々の練習をさぼらない様に!」
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