第5話 お邪魔します
ゲームと同じく、尽場村はのどかな村だった。
藁でできた屋根の家が並び、道は踏み固められただけで舗装されていない。
だが、これは同じすぎる。
というのも
「人がいないな。誰も住んでないのか?」
いわゆる廃村というやつだろうか。
太郎は注意深く辺りをうかがうが、人一人見つからない。
「ここは敵の頻出地区ですから、国民は避難しているんです」
「なるほどね」
ルーペの言葉に頷きつつ、太郎は手近な家に入る。
扉は壊されており、容易に侵入することができた。
「お邪魔しまーす」
「何してるんですか!勝手に入っちゃダメですよう!」
ルーペが太郎の腕を掴んで必死に止めるが、体格差もあってそれは叶わない。
引きずるようにして彼女を連れていくと、サファイア達も後に続いた。
ついては来たものの、キャストライトは不本意なようで
「悪趣味だよ。人の生活を覗き見るなんて」
「うるさいなあ。情報収集だよ。敵の情報があるかもしれないだろ」
「さすが隊長、頭いいですね!」
サファイアが尊敬のまなざしで太郎を見上げる。
家の中は想像以上に広く、リビングと、そこから続く二つの部屋があった。
家の内装も、村と同じ素朴なものだ。
木で作られた簡易なテーブルに椅子、床には薄っぺらい絨毯が敷かれている。
多くの家具や壁は壊れたり傷ついたりしているが、先ほどルーペが「ここは敵の頻出地区」だと言っていた。
おそらく、家の中でも戦ったのだろう。
「何かねえかなあ」
太郎は目についたチェストの引き出しを漁る。
片方の脚が折れて傾いてはいたが、中身に別条はなかった。
とはいえ、はさみや絵葉書、色鉛筆に消しゴムなど、生活感あふれる物ばかり。
他の引き出しも見てみるが同じようなものだった。
「んだよ、つまんねえ」
ゲームのように武器や宝石が入っていたりはしなかった。
「当然です。ほら、早く行きましょう」
「まだ見てない部屋があるだろ」
急かすルーペを押しのけて、太郎は他の部屋も除いた。
ダブルベッドの置いてある部屋と、シングルベッドの置いてある部屋。
この家は両親・子どもの三人家族が住んでいたのだろうか。
どちらの部屋もリビング同様荒らされており、煤のような黒い物で汚れていた。
「満足しましたか?」
「ああ。何もねえな」
「あるわけないでしょう」
呆れ顔のルーペは、太郎の背中を押して家から追い出した。
後に続くサファイアが小首をかしげ
「情報収集できましたか?」
「いいや、この家はダメだ。隣の家も覗く……」
「あれ、敵じゃないのかい」
太郎の言葉は、キャストライトの緊張した声に遮られる。
彼女の指す方を見ると二体の人型が立っていた。
全体が黒いモヤに包まれており、目だけが異様に光っている。
大きな鉤爪を構え、こちらにじりじりとにじり寄ってくるではないか。
「ひぃ!守れ!俺を守れ!」
「落ち着いてください!隊長に攻撃をすることはありません!」
腰を抜かして後ずさる太郎に、ルーペの声は届かない。
太郎は近くにいたキャストライトの脚を何度も叩いて
「きゃす、きゃ、キャストライト!早く、早くあいつを倒せ!」
「痛い!……全く。言われなくともわかっているよ。サファイア」
「うん。隊長、頑張りますね」
サファイアは笑顔で手を振って、キャストライトと共に敵の方へと向かって行った。
敵が二人を警戒して足を止める。
「民を恐がらせているのは君たちかい?」
キャストライトが敵を睨みつけ、一歩前に出る。
二歩三歩と踏み出し、遂には敵に向かって全力で駆け出した。
「そこ!」
敵は素早い彼女に反応できず、キャストライトの拳を顔面で受け止める。
その衝撃で敵は吹き飛ぶが、彼女はそのまま追いかけた。
敵の着地に合わせてキャストライトが再び拳を振り下ろす――前に、横腹を引き裂かれる。
「がっ」
もう一体の敵が、想像以上に素早かったのだ。
キャストライトは横に飛んで衝撃を緩和させるが、それでも深い一撃を食らってしまう。
かろうじて受け身は取れたものの地面に叩きつけられた。
間髪入れずに追いかけてきた敵が、先ほど切り裂いた個所と同じところに鉤爪を突き立てる。
「ぐう、あっ……どけ!」
敵の腹を蹴って無理やり抜け出す、キャストライト。
だがその足取りは覚束ない。
瞬く間に敵の手が伸びてきて
「私の本気、見せちゃうよ!」
サファイアの言葉と共に、青い光がキャストライト達の元へ洪水のように押し寄せた。
その光は吸い込まれるようにして二体の敵にまとわりつき
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
敵と共に消えうせた。
残されたのは肉が焦げるようなにおいと、呆然とするキャストライト。
「たいちょー!勝ちました!褒めてください!」
同じく呆然としていた太郎の元に、サファイアが笑顔で駆け寄った。
彼女はいつの間にか、炎の代わりに青い石が詰まった、長細いランタンのような物を手にしていた。
いつも腰につけていて単なる飾りだと思っていたが、これであの光を出したのだろうか。
理解が追い付かないままぼんやりとサファイアを見ていると、痺れを切らした彼女は太郎の手をとり自分の頭に持っていき、セルフなでなでをし始めた。
「ありがとう、サファイア。助かったよ」
横腹を押さえ、ふらつく足取りでキャストライトがこちらに来る。
ようやく我に返った太郎は、キャストライトとサファイアを交互に見て
「初期マップだから簡単なはずだろ。お前はなんでそんなに手こずってるんだよ」
「すまない……」
太郎の冷たい眼差しに、キャストライトは俯いた。
「行く前はあれだけ偉そうにしてたくせに、ぼろぼろじゃないか。サファイアがいなかったら、また負けてたんだからな」
「その通りだ……」
「なーにが「私の後ろに隠れているといい」だよ。お前の後ろにいたら俺もやられてたわ。かっこわる!自分の力量見誤りすぎだろ!」
「敵が何か落としてますよー!」
まだまだ言い足りない太郎だったが、ルーペの言葉に遮られる。
舌打ちしつつ見ると、ルーペは先ほど敵がいた場所にしゃがみこみ地面から何か拾い上げた。
「見てください」
こちらにやってきて、拾ったものを差し出した。
受け取ると、それは煤で汚れた小さな袋。
「汚いなあ」
中を開けて掌の上でひっくり返すと、中から小さな石が一つ出てきた。
「これだけ?ゴミじゃん」
「原石ですよう。ゴミなんかじゃないです。鉱床に戻って研磨してみましょう」
「新しいキャラが出るってことか。楽しみだな」
期待を込めて、太郎は小石を握りしめた。
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