第6話 幽霊
本来予定していた道に車が戻った頃、ゆうたが
「昼までには美術館につきそうだね。自警団のところに行くのはお昼ご飯食べてからかな」
「わたし、もうほんとにお腹ぺこぺこ」
「ハナは朝から言ってたもんね」
力なくお腹をさするハナを見て、ゆうたが言った。
腹の虫は鳴く元気もないようだ。
「肉がたべたい。ちからでないもん。子子さんもでしょ?」
だが子子は返事をしない。
不信に思ったゆうたとハナが、運転席の方へ目を向けると
「なあ……幽霊って信じる?」
真剣な表情の子子がバックミラーに映る。
「なに言ってんの?」
「疲れてるんでしょ。帰ったらゆっくり休みな」
「違うって!だってさっきのニセ息子の車がすげえ勢いで追っかけて来んだよ!でもニセ息子ってハナがぶちのめしたじゃん。じゃあ誰が運転してんの、って話よ」
「単に同じ車なんじゃないの?」
呆れた様子で言いつつも一応は振り返ってみる、ゆうた。
すると後方から、ニセ息子が乗っていた物と同じ車種の車が近づいてくるのが見えた。
左側が大きく凹んでおり、先ほどこの車にぶつかった時にできた傷と同じように思える。
遠くて運転手の顔までは見えないが、その後ろに二台の車を引き連れているではないか。
ゆうたと共に振り返ったハナが
「ほんとだ!やっつけたから怒ってゆうれいになったんだ!子子さん、ちゃんとあやまりな」
「俺は何もやってねえだろ!ハナですよ、ニセ息子さん!あなたの頭吹き飛ばしたのは食肉植物の……」
「ひどい!なかまを売った!うらぎりもの!」
「バカ、たてがみ引っ張んな!運転してんだろ!」
ゆうたは、暴れるハナを子子から引きはがし
「ニセ息子の後からついて来てる車、あれ全部展望スポットで見た車だよ。ほら、ジュース男の。展望スポットにいた奴らもニセ婆さんもニセ息子も、みんなグルだったんだよ」
「なんだ、ゆうれいじゃないのか。びっくりさせやがって」
「現実なんてつまらないもんだな」
大人しくなったハナ達に代わり、それまで転がっていた老婆が上半身を起こして後ろの車を見た。
ゆうたの読みは当たっていたらしく
「ハッハー!調子こいていられるのも今のうちだぜ!俺をこんなにコケにしてくれたんだ。あいつらが黙っちゃいねえぞ。命が惜しけりゃ大人しく石像を渡すことだぬぁあっ」
ゆうたは老婆の肩を掴み、彼(女?)の上半身を車の窓から突き出した。
後ろからついてくる三台の車は先ほどよりも近づいており、運転手の顔がはっきり見える。
うち一人は、展望スポットで缶ジュースが爆発したときに車から降りてきた男だった。
「こいつの命が惜しかったら大人しくしろー!」
「ひいっ!落ちる落ちる」
体を仰け反らせて車内へ戻ろうとするが、ゆうたがそうはさせない。
ついてくる車の運転手達は互いにアイコンタクトをとった。
そして一台の車の後部座席の窓が開き――ロケットランチャーをこちらに向けて突き出した。
「ちょっと!何やってんの!人質がどうなってもいいの?それしまって!」
男は構わずロケットランチャーを打つ。
どがああぁぁぁああん
「ゆうた!意味ねえじゃねえか!」
子子が急ハンドルをきって事なきを得る。
「そんなのコイツに言ってよ!なんだよ、仲間に対する思い遣りゼロかよ!」
無駄とわかった人質ごと車内に引っ込む。
入れ替わるようにしてハナが窓から身を乗り出し
「ロケットランチャー持ってんのあいつだけじゃないよ!ぜんぶの車からこっちにむけてかまえてる!」
「もういいよ!何個あんだよ!」
ゆうたの叫び声をかき消すように、再び撃たれた。
どががどがどがああああぁぁぁぁああああん
ロケットランチャーの一斉射撃は流石に避けきれず、爆音とともに突き上げるような衝撃。
車が浮いてくるりと横に大きく一回転した後、そのまま地面を横転し続ける。
街路樹にぶち当たり、ようやく止まった。
横倒しになった車内の中で
「いったあ……。二人とも大丈夫?」
「ゆうたのおかげでケガしなかった!」
蔦で縛られハナとゆうたと、それから木箱は車内で宙ぶらりんになっていた。
老婆は頭でもぶつけたのか気絶していた。
ゆっくり蔦を解いていると
「俺も助けて欲しかったなあ」
エアーバックの飛び出す運転席から子子が言う。
顔を打ち付けたようで真っ赤になっていた。
「クッションあるじゃない」
「大切なのは心配する気持ちだろ。その蔦、3cmくらいこっちに伸ばしてくれてもいいんじゃない」
「仕方ないなあ。ちょっとだけだよ」
しゅる、とお望み通りに蔦をのばしてあげて
「今じゃねえよ!」
子子が蔦を叩き落とした。
「しっ!あいつら来るよ!」
ハナの言葉通り、近くに停まった車から人が降りてくる気配がする。
こちらに向かう足音が止まり、数秒も経たないうちにドアが開いた。
「黙って車から出てこい。余計な事はするんじゃねえぞ」
一人の男が顔をのぞかせ、銃を見せて言った。
このまま出るべきか。
こいつらの目当ては石像だ。
ここで籠城した方が身の安全のためでもあるのではないか。
先ほど騒ぎを起こしたのだから、そろそろ自警団が駆けつけて……
「もたもたしてんじゃねえぞ!」
苛立った声と共に、ゆうたの腕が撃たれた。
「痛っ……!」
「早くし」
“ろ”の言葉と共に、吹き飛ぶ男。
樹木化したハナの腕に殴り飛ばされたのだ。
「むかつく!」
追うように飛び出したハナ。
待機していた男たちが彼女にむけて一斉に発砲した。
それを片腕でガードしつつ、ハナは手当たり次第に男たちを薙ぎ払う。
「むかつくむかつくむかつく!」
「ハナ!深追いしないで!」
ドアから頭を出して、ゆうたが声を張り上げる。
だが、ゆうたの言葉は耳に入っていないようで。
闘牛のように男たちを追い立てる。
最初こそ彼らは吹き飛ばされていたものの、次第にハナの動きが読めたらしく、散らばって連携を取りつつハナに攻撃し始めた。
それでいてゆうた達への警戒も忘れず、遠くまで離れはしない。
「ダメだ。このままじゃハナがやられちゃう」
火力はあるが戦略なんてない。
ゆうたは出してた頭を引っ込めて
「子子さん、この車がまだ使えるか見てくれる?ダメならあいつらの車を奪って」
「穏やかじゃないな。ゆうたはどうすんだ?」
「あいつらの注意を引き付けておくよ。あんな大人数相手に戦うなんてバカのすることだからね。隙を見てダイダイ美術館まで車で逃げよう」
「任せろ、団長」
ウインクして、子子が飛び出すと
ぱぱぱぱぱぱぱぱ
「ゆうたさん!あいつら撃ってきます!」
涙目で車内に引っ込んだ。
「大人なんだから、それくらい自分でなんとかしてよね」
言って、ゆうたはズボンのポケットからタブレットを取り出した。
それを振って種を掌に出し、開いたドアから投げ捨てる。
と、瞬く間に成長し、絡み合って壁のようになった。
ゆうたはゆっくりと車の外に這い出して、壁に隠れて様子をうかがう。
それに気づいた男が何発か撃ってくる。
壁を貫通するが、体を低くしていれば当たらないだろう。
「出てきていいよ」
「あざーっす」
ゆうたの言葉に、のそのそと這い出す子子。
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