第20話チーの涙

 おかみさんは野菜でも担ぐように両脇に二人の女の子をかかえて部屋を出ていく。

 手足をばたつかせキャーキャー喚く子供達。

 無邪気だ。

 大人しい女の子は指をくわえてチーをじっと見ていた。

 ニッコリとチーには珍しく笑顔を見せたがその子は母親の影に隠れてしまった。

 チーはなかなか子供に懐かれるようで二人の子とおままごとをしているのを見た。

 チーが母親でごついペツが赤ちゃんの役でその姿が様になっていた。

 ペツの赤ちゃんぶりは本物の赤ちゃんと錯覚するほどだった。

 チーはお嫁さんにしたいぐらい完璧な母親役である。

 内気な女の子は遠くでじっとチーを見ているだけであった。

 チーが呼ぶとすぐに逃げる。

 後の二人の女の子は

 「ウサギさんの耳のお姉ちゃんあそぼあそぼ」とわしゃわしゃチーに登っていった。

 チークライマーという称号が与えられても文句を言う者はおるまいて。

 ケケとププ所謂双子はおかみさんにお勉強を教えてもらっていた。

 さてここにいつまでもいるわけにはいかない、元の世界に帰れる方法は無いものかと思っていた。

 だが事件は起こった。

 いつものようにチーは二人の女の子と遊んでいた、砂で山を作っているとあの恥ずかしがり屋な女の子が樹の影から覗いていた。

 狼に狙われた赤ずきんのように小刻みに震えている。

 彼女も仲間に入りたいのかと思いチーは女の子に近づきその子に微笑んだ。

 いつもすぐに逃げる女の子だが今日は勇気を振り絞って逃げなかった、そう彼女は勇気をだして言わなければいけないと思ったのであろうか。

 「この人がお父さんを殺した、私見た。大きな男の人と一緒に殺した」

 大きな男の人はのぶおの事だろう。

 しかしチーがそんな事するわけないと思いチーを見てみると真っ白い陶器のようになり顔がこわばっていた。

 そのまま一時停止されたように硬直していた。

 どう声をかけていいか分からなかった、小さな女の子がふざけて言っているのか、他の二人の女の子もチーの横に不安そうにチーを見上げている。

 何かを察したのかおかみさんが家から出てきた。

 「皆さんどうしましたの?」

 チーや俺達のくぐもった表情を不思議そうに眺めているおかみさん。

 母親を見つけると内気な少女は走ってドレスをつかみ影に隠れると大声を出した。

 「この人がお父さんを殺したの!!」

 チーを指さしている内気な女の子の初めて聞いた声は恐ろしい言葉であった。

 おかみさん、そんな馬鹿なと女の子を叱った。

 「そっそんな事言うんじゃないの、失礼でしょ!?」

 女の子は震えている、右手は母親のドレスを左手にはいつみても手放さないクマの縫いぐるみを抱いていた。

 しかしチーの表情、氷のように冷たい表情を見たおかみさんはコマ撮り画像のようにみるみる青ざめていった。

 「私の夫が殺されたのは大きい足跡と小さな足跡。チビットじゃないとこんな小さな足跡じゃないとみんな言ってた」

 チーは燃え盛る石炭を吐き出すように苦しそうに白状した。

 「あなたのご主人とは知らなかったのあの大男に無理矢理強盗に手伝いをさせられていて、抵抗する者は殺した事もある」

 おかみさんは走りチーは目をつむった二人の子どもを抱き抱えて涙をながしながら叫ぶ。

 「それで人殺ししてもいいって理由にならないわ! あの人を返してよ!」

 チーはその言葉に泣き崩れた。

 キッと俺達を睨みつけたおかみさんは

 「あなたもこの人殺しの仲間なんでしょ? どうしてここに来たの? 私と子供達を殺しにきたの?」

 ここにはもういられないだろう。

 ☆

 チーはしょんぼり地面に座っていた。

 「だってだって私あんたから取り上げたデスポートがあるからって命令されて」

 俺はチーの小さい肩に手を置いた。

 わっと鳴き声を荒げるチー。

 「そんなの理由にならないよね、あの子のお父さん奥さんの夫を……死んでも許されない、でも私耐えられない」

 チーはそのまま走り始めた。

 俺は直感で、彼女が何をしようかと思っているか感じとり

くつひもがほどけているにもかかわらず、チビットを追いかけた。

 だがチビットはウサギの耳があるためか足も速かった。

早まるなチー。



 


 



 

 

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