第14話水の騎士
お腹の中に美味しいとは言えないおかゆが俺の胃袋を占領しているので布袋のようなお腹を上にむけて目をまわしている。
助けてもらったし食べさせてもらったので文句は心の中にひそてめいる机のタンスにいれて小さな鍵にをかけた。
するとピーツーが近寄ってきた。
「正直、風の騎士や他の騎士を見ると目がつぶれるや恐ろしい奴やと噂を聞いたがこれ見てくれ」
ピーツーがふっくらとお歳暮にちょうどよさそうなピンクのボンレスハムのような指の中に小さな――正確には指のせいで小さく見える木――をさしだした、ボロボロの木屑であった。
何か書いてある、見慣れない絵だと思っていたが何故かそれが字であった。『ペツ』と書いてある。
「風の騎士様が教えてくれた、これ文字だろ? 俺の名前だって。俺学校行けないから分かんなかった、もっともっと字を覚える、勉強は楽しいなぁ」
なんで学校行かないかはあえて聞かなかった奴隷にされてたもんな。
奴隷といえば他の奴らはどうしたんだろう?
「他の奴らも誘ったけど奴隷のままでいい、後が恐ろしいって、だから逃げたい者だけ逃がしたんだよ、風の騎士がね」
「風の騎士がね」
双子のセイントスノーが俺の不思議そうにしていた顔を察してそう教えてくれた。
時にセイントスノーの二人も大きな木の切れ端を持っている、そっちは文字だけでなくいろいろな図形が書かれていた。
それを見ているのに気づいたセイントスノーは少し恥ずかしげにした。
「これ、僕らの夢なんだ、空を飛ぶ機械、この予算を使いすぎてああやって奴隷になったんだよ、お恥ずかしい」
「お恥ずかしい」
双子の二人も夢があるんだなぁ。
「うちは農家だったから農家は農家にしかなれないでしょ? だから二人で家を抜け出したんだ」
「たんだ」
農家だと跡継ぎも農家になるのか、昔の時代はそういうのが多かったって聞いた事あるけどこの世界でもそうなのか。
「みんな夢があっていいなぁ」
俺は見えないアゴヒゲをさすりながらしみじみとなり目を細めた。
「もぉ! おねぇちゃんにも夢があるんだよ、それはぁ、ラン君のお嫁さんになることキャピ☆」
キャピって☆までつけられても困るってかラン君って誰?
「何言ってるの? あなたの名前よ、ランスロット=ウンディーネよ」
いきなし外国人の名前にされても困ってしまった俺だが大量にたぷたぷとお粥を腹に蓄えた俺にはびっくりしてのけ反ったりは出来なかった。
大体俺の名前は……。
あれ? 俺の名前何だっけ?
やっぱりこの女性の言うランスロット=ウンディーネなのか?
それなら名字が違うからやはりお姉ちゃんでもなんでもない。
「何言ってるの? 騎士の中では別名に決まってるでしょ? おんにゃのこのおねぇちゃんがガラハットだったら変でしょ?」
「え? 騎士?」
すっとんきょうな声を出してしまった。
無理もなかろう、北欧神話に出る英雄の名前がジークフリートだと思っていたらそれはドイツ読みで本当はシグルドがメジャーな読み方だと知識ひけらかし暇もてあやましてるおじさんに道で偉そうな事を言われたのと同じ状況なのだから。
「水の騎士ランスロット=ウンディーネ、あなたでしょ?」
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