第34話
「ちぃっ!」
ドウダンはタイヤを滑らせながら銃撃を躱した。周りには何人か騎士団の人間、そしてドローンが飛んでいた。銃撃はそれら全てを対象に行われており、つまるところ一つ一つの密度は低かった。これなら凌げる。ドウダンは術式で銃弾を逸らしながら思う。そう言っている内にドローン二機が撃墜された。残るは一機、騎士団員が3人そして、ドウダンだ。
「これなら....」
弾幕の中をドウダンは突っ走る。そして、チラリと上を確認する。ラングトンとカレンが壁面を降りてきている所だった。そこにもトレーラーは射撃を加えるが、やはり密度が薄い。ラングストンとカレンなら凌げる。
「行け!」
ドウダンは車体を左右に大きく揺らしながら二人の動きを追った。
「よし、今だ!」
ラングストンとカレンがとうとうトレーラーの前に降り立った。トレーラーは射撃を加える。しかし、もう遅い。もはやトレーラーはカレンとラングストンの射程圏内だった。
「終わりだ!」
カレンがランスを、ラングストンが爪を振り上げる。トレーラーを粉砕しようと。今まさ決着が着こうとしている。
『危機レベルが最大値を更新。目標の回収を中断。αの防衛を最優先。ユニット稼働率最大』
ヴァジュラが言った。さきほど蹴り上げられたままの体勢でその能力が開放された。
「ちっ!!!」
ケイは止めに入るが、間に合わなかった。
ヴァジュラが十二神機としての力を最大限に発動した。
その時、ケイを異常な魔力流が襲った。
ドウダンたちは巨大な重力場で押しつぶされた。
タキタたちは地面ごと吹き飛んだ。
ここら一帯の構造物がひしゃげて弾け飛んだ。
大地は分解され砂に変わった。
大気はプラズマへと変わった。
景色の全てが弾け飛んだ。
『危機レベル低下。ユニットの稼働状況を平常に修正。状況を終了。目標の回収を再開します』
崩壊した街、瓦礫の山に砂の山。割れて下にある海が顕になった大地。もはやここが元々なんだったのか分からない。街だった面影はどこにもなかった。第一ポート市の3分の2は焦土と化した。残る3分の1も完全に崩壊している。
空からは雪がハラハラと美しく降りしきり、虹がかかり、すごい速度で黒雲が流れていた。
『目標探査.....。発見。回収します』
その中をヴァジュラが歩いている。迷いのない動きだ。ただ、一つの目標に向かってただ歩いている。そして、ヴァジュラは瓦礫の中から目標を引きずり出した。
「うう.....」
ニールは力なく呻く。ヴァジュラはあれほどの力を使いながらもビーグルの被害は最小限に抑えたらしい。瓦礫の下に形は残っていた。運転席には力なくタキタが倒れていた。
『目標の回収を完了』
ヴァジュラはニールを掴み上げ言った。そして、またあの声に変わった。
『さぁ、今度こそ捕まえたよニール君』
「う....」
『みんな随分頑張ってあがいたようだけど無駄だったね。ヴァジュラが本気を出せばこんなものだ。人間の抵抗なんてなんの意味もない。さすがは十二神機だねぇ』
「く....くそ.....」
ヴァジュラはその4つの目の前にニールを引き寄せる。
『さぁ、ニール君。もう、君を助けてくれる人は居ないよ? とうとう本物のゲームオーバーだ。今の心境はどうかな』
ニールは悔しそうに表情を歪める。言葉は出ない。
『全部無駄になった感想はどうだい? 足掻いても何の意味もなかったのは? 助けてくれた色んな人の思いが弾けて消えた光景を見てどう思う?』
ヴァジュラはさらにニールを引き寄せる。
『さぁ、またこの世の終わりが始まるよ。君の絶望した顔を見せておくれ』
ヴァジュラはそのセンサーカメラでニールの顔をつぶさに見る。全てが敵わなかった。試みた全てが何の意味もなさなかった。今からいよいよ世界が終わるのだ。そんな時のニールの顔は.....しかし、
「いいえ、意味が無いことなんてありません。僕らの勝ちです」
力強く笑っていた。
『何!?』
その時だった。ヴァジュラに強い衝撃が加わった。たまらず前に吹き飛ぶ。ニールは空に投げ出され、しかしキャッチされた。ケイがキャッチしたのだ。
『ば、馬鹿な! 何故動いているケイ・マクダウェル!』
動揺する声にケイは再度蹴りを見舞った。当然、結界術式は発動しない。ヴァジュラは吹き飛ぶ。何度かバウンドして受け身を取った。
「もう、そいつの動きは読んだって言っただろ。リズムとクセをさ。なら、攻撃の規模が小さかろうが大きかろうが一緒なんだよ。だから、ダメージの少ないように上手く受けたってだけだよ」
『馬鹿な。十二神機ヴァジュラ相手にそんなことが....』
「出来るさ。この、忌々しい羽ならね」
『くそ....黒翼か。こんなところで足を引っ張るとは。だが、どうしようっていうんだ? ここから、ヴァジュラと戦いながらトレーラーまで行くのかい? もう、レジスタンスも、相棒のタキタくんも役には立たないんだ。中々厳しいと思うよ?』
トレーラーはここから数百mは離れたところにあった。ヴァジュラを相手にしながら、そしてニールを守りながらあそこまでたどり着くのはあまりに過酷だった。そもそもケイがもう満身創痍だ。声の言うとおりだった。声が余裕なのも当然だった。状況は何も良くなっていないのだ。相変わらず圧倒的にヴァジュラが有利なのだ。
しかし、ケイは笑った。
「あんたも大したおつむしてないみたいだね」
『何だと?』
「おんなじ手に何回も引っかかるなんてさ」
『な....』
言葉の意味を理解するのに声の主は数秒かかった。しかし、その数秒は致命的だった。
『ショウ・タキタ....ッ!!!!』
ヴァジュラはセンサーのチャンネルを切り替える。すると、良く分かった。今ビーグルの中に入っているのはタキタと同じ生体反応を示しているデコイだった。本物は....本物はステルス術式のIMCを使い.....。
「さぁて、これでお終いにしましょうか」
そう言ってタキタはF&JM148をトレーラーに向け、そして引き金を引いた。トレーラーのコンテナ、そこで巨大な火球が発生した。その火球は圧倒的な高温でその中身ごとトレーラーを蒸発させていった。
『な....! こんな....!!!』
声の主は発生した火球を見て漏らした。その火球の発生した場所は分かった。その火球の意味するところも分かった。ヴァジュラが言う。
『α....消失.....。機能を維持出来ません......』
が、すぐに声が言った。
『い、いや。無理やり私に繋げてやる。それで何とか...!!! アクセスだけでも....!!!』
が、その声はミシリ、という音とともに消えた。ケイの蹴りがその4つのカメラに直撃した音だった。
「やっと当たった」
カメラは割れた。十二神機ヴァジュラ。その強靭な装甲で唯一脆い部分。そこが砕けた。ケイはさらにもう一発蹴りつける。今度こそカメラは完全に壊れた。これで何の映像も見えない。それどころか本体が消え、頭の中のワームホールも消失したためだろう。さっきまでの声との通信も切れたようだ。
空を覆っていた黒雲が消失した。
ヴァジュラの周りを舞っていた武具が音を立てて落下した。
そして、ヴァジュラを覆っていたナノマシンが動きを止めた。それは風と一緒に空に消えていった。
十二神機ヴァジュラは完全に機能を停止した。
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