第13話

『で、話は簡単だ。お前らにはこのまま仕事を続けてもらう』

「続けてもらう、って。馬鹿にしないでくださいよ。続けられませんよ。あんな化物どうやって相手しろっていうんですか」

 スミスの言葉にタキタが返した。

『それに関しちゃ頑張ってもらうしかない』

「頑張るって...そんな無茶苦茶な....」

『いざとなったら俺に電話しろ。そん時は自分たちの身を守れ。ニールはやつに渡して良い』

「それで良いんですか」

『初めに言ったろうが。ヤバイと思ったら置いて逃げて良いってよ』

「ああ、そういえば言ってましたね。生きてたんですねそのセリフ」

 タキタはコーヒーをすする。

「じゃあ、ここで降りますよ。スミスさん。あとはお願いします」

「私は受けるよ。刺し違えてもあのマシンを倒すって言ったでしょ」

「だから、そういうこと言わないで下さいよ」

「なんでも良いよ。とにかく問題は報酬だよ。この後におよんでノコノコ私達に通話を入れたってことはこの話題に対する返答も用意してるってことでしょ?」

「刺し違えるのに報酬の話ししても仕方がないんじゃ....」

 ケイはタキタの言葉を無視した。

『心配するな。特級は嘘だったが....』

「ええ、嘘っぱちでしたね」

『報酬の話は本当だ。きっちり8000万用意してある』

「え?」

 そのスミスの言葉を聞いた瞬間タキタの表情が変わった。

「え? スミスさん。報酬も嘘っぱちじゃないんですか?」

『いや、報酬は間違いなく払う。仕事が仕事だからな。そこまで悪党じゃねぇ。その証明といっちゃ何だが前金で2000万、お前らの口座にそれぞれ振り込んである』

「え?」

 タキタは急いで端末を操作し口座の残高を確かめる。確かに2000万トランの振込があった。タキタはまた表情が変わった。

「ええと。また、嘘っぱちじゃないですよね」

『馬鹿言え。ケイの銀行ならともかく、お前のはキーツヴァース国際銀行だろうが。あそこの金庫破りなんか出来てたまるか』

 キーツヴァース国際銀行は世界一セキュリティが頑強なことで有名な銀行だ。タキタは念を入れてそこで口座を作っていた。

「え、じゃあ...本当に...2000万...。あのスミスさん。このまま私が仕事を降りたらこの2000万は...」

『返さなくて良い。そのままお前のもんだ。こいつはこの仕事のヤバさと俺の誠意の証明みたいなもんだ』

「え、マジですか....」

『それで、それとは別に8000万を払う。合計で一億だな』

「え? 僕ら二人で8000万でしょ?」

『いや、それぞれに8000万だ』

「おやおや、これは助かりますねぇ」

 タキタはじっと画面の数字を眺めていた。今までと同じ様に怒りと恐怖でテンションの低い声だった。しかし、それは演技だった。タキタの顔は明らかに高揚していた。というか高揚しているどころではなかった。目が見えれば金色に染まっていただろう。そんなタキタは無視してケイが続ける。

「今までになく太っ腹じゃんスミス。初めからそういう誠意を見せてくれれば良かったのに」

『初めから全部明かしてたら受けなかっただろうが』

「ああ、そうだね。間違いなく。タキタならどうだか知らないけど。でも、事実を知った今もう降りる気はないよ。相手は管理局なんでしょ」

『....そいつは言えねぇな』

「状況証拠は揃ってるんだよ。それで、あのマシンは十二神機なんでしょ」

『そいつも言えねぇな』

「言えない尽くしだねまったく」

『当たり前だ。言ったらてめぇらの身に関わる。てめぇらはアレと戦いながらニールをオルトガまで運ぶだけで良い。それ以上は何も考えるな。お前らのためだ』

「そういうわけにもいかないよ。相手が管理局だっていうなら徹底的に叩き潰す」

『刺し違えてもか』

「刺し違えてもだよ」

 スミスはため息をついた。

『止めとけケイ。私怨を仕事に持ち込むとろくなことにならねぇ』

「相手が管理局なのに私が冷静で居られると思う?」

『思わねぇな。だが、抑えろ。これ以上はヤバイと思ったらすぐに逃げろ。今回駄目でもチャンスはいつか来る』

「あんなマシン一体倒しても相手にはなんの損害も無いって?」

『・・・・どうだろうな』

「あるんだねスミス。やっぱりあれは十二神機で管理局の虎の子ってわけだ。それで、なんでニールが連中に追われてるかも本当に教えてくれないの?」

『ああ、言わねぇ。とにかくお前らはニールを運べ。そんで無事にこなせば8000万だ。ヤバくなったら逃げれば良い。その後のことは俺がどうにかする』

「本当にどうにかなんの? 大体、どう考えてもあいつと戦うと『ヤバイ』瞬間がやってくるんだけどね」

 ケイは眉をひそめる。

『そいつの判断はお前らに任せる。一つ言えんのは死ぬなってことだけだ』

「それが難しいんだけどね」

『それから、もう一つ言っとくとこの仕事に関して動いてんのはお前らだけじゃねぇ。裏で何人か動いてる』

「なんなの。そんなデカいヤマだっていうの」

『そうだ。だからまぁ、気休めにしかならねぇだろうがお前らは孤立してるわけじゃねぇってことだけは分かっといてくれ。それでどうだ。ここまで聞いて仕事を続ける気はあるか?』

「私はもちろんだよ。なんとしてでもあのマシンを倒す」

 タキタは『ふむ』と言い、

「なら、私も付いていきましょうかね」

 そうして、コーヒーをすすった。

「なに? 付いて来るのあんた」

「ええ、少し考え直しまして。やっぱりニール君も放ってはおけませんしね」

「1億に釣られただけでしょ」

 ケイは不愉快そうに言った。

「当然ですよ。お金は大事なんですよケイさん」

「はいはい」

 ケイは不快感で表情を歪めながら通話を続ける。

「そういうわけだスミス。私らは続けるよ」

『そうか恩に着るぜ』

「本当にね」

『悪いな。じゃあ頼んだぞ。こっちからも連絡は入れるつもりだが、用事があったらそっちからも入れろ。それじゃあな』

「はいはい、面倒なことになったよまったく」

『悪いな。それじゃあニール。しっかりやれよ』

「は、はい」

 そうして通話は切れた。

「なんだかんだ結局続けることになったのも妙な話ですね」

「あんたは金に釣られただけじゃない」

「当然ですよ1億ですよ1億。マシンさえ退けられれば1億ですよ? とりあえず受けるってもんです」

「はいはい」

 ケイはコーヒーをすすった。そしてニールを見る。

「そういうわけだニール。現状は何も変わらなかった。このままオルトガに向かうよ」

「すいませんでした。ありがとうございます」

「あんたが謝ることじゃない。悪いのは全部スミスだ」

「すいません」

 ニールはなおも謝った。ケイは仕方のない少年だ、と思う。

 何はともあれ、方針は固まった。

「さて、そうなれば次は空艇に乗ってトゥキーナですね」

「そうだね」

「段取りは変わらずです。いつもの運送屋のところに行って乗り込みましょう。それで、トゥキーナで一日。それからいよいよオルトガです」

「は、はい」

 そうと決まれば後は行動だ。3人は席を立つ。ニールはまだ罪悪感が抜けないのかもじもじしていた。そんなニールにケイが声をかける。

「行くよニール。初めての外国だ。楽しみにしときな」

「は、はい!」

 ニールは元気よく答えた。

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