第12話
「相手は管理局。そんな仕事、情報を渡せるわけない。知ったやつから葬られる」
ケイは表情を歪めて言う。
「で、でも待ってくださいよ。管理局ですよ管理局。そりゃあ黒い噂も絶えませんよ。でも、一応は公共機関なんですよ? こんな堂々とぶっ飛んだ破壊工作します?」
「あんなもん公共機関の皮を被った犯罪組織だよ。私の能力だって連中のせいでこうなったんだから。それに、あんたもあの組織の暗部はよく知ってるでしょ」
「あーあ、そうでした...」
ケイは顔を歪めたままコーヒーをすする。タキタは頭を掻いた。
「で、ですが。それでもまだ相手が管理局だって決まったわけじゃ...。別の犯罪組織かもしれないでしょう」
「その辺どうなのニール。ここまで言ったんだ。もう話しても同じことだと思うけど」
ケイに言われたニールはもごもごと口ごもった。
「い、いえ。やっぱり話せません。話したら駄目だって、絶対駄目だってスミスさんと約束したんです」
「なるほど。賢い選択だよ。今の状況は私達の勝手な考察だ。本当の真実を聞くよりは立場はましってことか。でも、無駄だよニール。私は管理局が大嫌いなんだ。だから、相手が管理局だって言うなら徹底抗戦するよ」
「ちょっとちょっと勘弁して下さいよケイさん。私は管理局を相手にするなんてごめんですよ。絶対無事では済みません。下手すりゃ死にます」
「なら良いよ。この先は私だけでこなす。タキタはこのまま帰れば良いよ」
「そんな、困りますよ」
「何も困らないでしょ。タキタは家でゆっくりしてるだけで良いんだから」
「いや、私抜きでオルトガまで行けるわけないでしょう。ケイさん社会性ゼロなんですから」
「平然とひどいこと言ったね今。傷ついたよ」
「無事では済まないのはケイさんも一緒の事なんですよ? 大体あのマシンが本当に十二神機だって言うなら完全に覚醒した奴に勝てるわけないんですよ。相手は大陸を自在に動かす化物なんですよ。ケイさんでも勝てっこない」
「なんとかするさ。後ろに管理局が居るっていうなら刺し違えてでも倒してやる」
「いやいやいや。落ち着きましょうケイさん」
ケイの瞳には復讐の炎が宿っていた。管理局に対する憎しみの感情だ。その感情がケイのたがを外していた。表面上冷静に見えるがケイは明らかに怒りと憎しみに頭を支配されていた。
と、そんな時だった。タキタの端末が音を立てた。
「おや、通信ですね。相手は.....スミスさんですね.....」
タキタはもはや怒りを通り越してげんなりしていた。ベストタイミング過ぎることもその感覚に拍車をかけた。何故この瞬間にちょうど通話を入れられるのかと。ケイもあからさまに不機嫌全開になった。
「通話はスピーカーにして。私にも聞こえるように」
「了解です...」
そしてタキタは端末を操作する。画面が浮かび上がり、SOUND ONLYの文字が映った。
「はい...何か用ですかスミスさん...」
『元気がねぇなタキタ。俺の読みじゃ今頃お前らは状況の整理でもしてるとこだと思ったが』
「ええ、はい...。その通りですスミスさん。一体全体どういうわけですか...。なんでこんなことになってるんですか...。なんで僕らにこんな仕事押し付けたんですか...」
『それに関しちゃ謝るしかねぇ。本当に悪いと思ってる。だが、お前らより適任が居なかったって話だ』
「居ますよね? 他にも一杯。もっと腕利きの運び屋に任せるとか。テレビに引っ張りだこのロジャーさんとか、最強と名高いセシルさんとか」
『いや、お前ら以上の適任は居ねぇ。あいつらじゃこの仕事はこなせねぇ。お前らしか居なかったんだよ』
タキタはこめかみをひくつかせた。怒りが蘇ってきたのだ。
「どういうことですか? ロジャーさんやセシルさんは有名で清廉潔白だから経歴に傷が付く。だから、傷だらけの僕らに押し付けたってわけですか?」
『まぁ、そういう部分が無いと言えば嘘にはなるな』
「ふざけてるんですか!」
『ああ、悪い。だが、それ以上にお前らを信頼してんだよ。この依頼をこなせんのはお前らだけだ。俺の仕事をこなしてきたお前らだけだ。そして、俺が頼れんのもお前らだけなんだよ。まぁ、何言っても信じちゃもらえねぇだろうが』
「当たり前です! 私は降りますよこの仕事!」
タキタは叫ぶ。完全に怒り心頭だった。店内が一瞬静まり返った。
『すまねぇタキタ。本当にすまねぇ。だが、頼む。この仕事をこなしちゃくれねぇか』
「な....。いや、でも人にものを頼む言い草じゃないですよさっきから」
タキタは一瞬驚いた。スミスがこんな風に頼み込んでくることは珍しいからだ。いつも気づいたら罠にハメられているのが基本だからだ。
「そんな風に頼んできたのはあんたの幼馴染を海まで連れてった時以来だね」
そこでケイが口を挟んだ。
『....つまんねぇこと覚えてるなケイ』
「つまらなくはないよ。だって本当に大変だったんだから。その彼女、マフィアだの殺し屋だの政治家だの王族だの本当に片っ端から惚れられててたかが海まで行くだけでどれだけの奴と戦ったことか。ひどいもんだったよ」
「ああ、余命が数日だったとかでその後すぐに亡くなったんでしたね」
タキタとケイは一年前の依頼を思い出した。スミスの幼馴染の最後の願い。それが『海を見ること』だったのだ。それで本当に様々なものと戦うはめになりながら海までの道を爆走したのである。追っ手たちは幼馴染を何とか延命させるためにケイたちから奪い取ろうとしていたのだ。そしてその時もスミスは嫌がる二人に同じ様に頼みこんだのだ。そして、無事にこなしてスミスと幼馴染は二人で海を眺め、ケイとタキタに礼を言ったのだ。
「あの時とおんなじくらい大事な仕事だってこと?」
『....まぁ、そうなるな』
「はっ。私達ハメといて死にかける思いさせといて、その上なんの情報も与えないで『頼む』って。中々のもんだよスミス。....でも、話だけ聞いてあげるよ」
「え、聞くんですかケイさん」
「聞くだけね」
「ええ...」
二人は『ジョゼット』で行われたやりとりを逆の立場で演じた。
『悪いなケイ。本当に助かるぜ』
「聞くだけだよスミス。あんた私達に大きな借りを作ったんだから。ましな話を頼むよ」
『本当に悪い』
スミスは言った。
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