第3話 中の人などいない
「じゃぁ、居ない間はお願いね〜♪」
歌を
私の姉は、いわゆるできちゃった結婚で結ばれてから6年。
未だにアツアツで、私の目の前でも堂々とイチャイチャしやがる、いわゆるバカップルのままでした。
今日もなんだか呼び出されたと思ったら、旅行に行ってくるからエリちゃんをお願いね〜、とか宣いやがります。
まぁ・・・・・・・・・・・・・・いいんだけどね。
お詫びの印としてか、毎回、うちの生活が助かるほどのお土産をくれますし!
エリちゃんは姉さんの娘、つまり私の姪っ子で、すっごくかわいいし!
うじうじ考えてたら、奥から当のエリちゃんが出てきた。
「あ、美芳おばさんだぁ。こんにちわ〜。」
もう、花開くような満面の笑みで迎えられると、多々ある文句も引っ込んじゃう。
・・・でもエリちゃん。おばさんというのは傷つくんだからね?
ごくり、と、溜まったフラストレーションを淹れてくれたお茶と一緒に流し込む。
うん。やっぱり姉さんの所のお茶はいつもおいしい。
結婚の経緯から想像したのと違って、お金持ちの彼を捕まえた姉の家で出されるものは、何をとっても
***
姉夫妻を空港まで送って家に帰ったら、3日ほどエリちゃんと二人暮らしになる。
もう、エリちゃんも一緒に連れて行けばよかったのにねー。
え?旦那のお仕事だから?なら、姉さんいらないんじゃない?
旦那が寂しがるからとかこのバカップルめが!
などなど、疑問も文句も多々あるが、ここから3日ほど、かわいい姪との水入らずの時間なのだ。
久しぶりに料理の腕をふるって、エリちゃんの好物のハンバーグを作ってあげると
「わーい、ハンバーグだー♪」
食後にまったりと一緒にエリちゃんの好きなアニメを見ていると
「わーい、プニキュアだー♪」
そろそろ、お風呂に入っておやすみしよっか?と言うと
「わーい、おふろだー♪」
いちいち喜ぶエリちゃんがかわいい。
「明日おやすみだけど、どこか行きたいところある?」
ふと、おふろに入ってる時に聞いてみると、本屋さんに行きたいらしい。
少し妙に思ってると、チラシを持ってきてくれた。
「ふむふむ?新しく本屋さんがオープンするのかぁ。」
場所を見ると、少し遠い。
明日はお天気のようだし、お出かけ日和だった。
***
車で10分ほど、住宅もまばらになった辺りに、くだんの本屋はあった。
思ったよりも大きい本屋さんは、オープン記念でお祭りみたいに屋台まで並んでいる。
オープンカフェみたいにテーブルが並んだテラスみたいな所では、よくわからないキャラクターの着ぐるみの人が子供達に囲まれて、風船やおかしをくばっていた。
エリちゃんが目を輝かせて着ぐるみの人を眺めていたので
「ここで休んでいるから、行ってらっしゃい。」
と言うと、糸が切れたタコのように、着ぐるみと子供たちの群に飛び込んで行く。
「ふぅ。」
ひとつ、ため息をつくと傍にあったテーブルの椅子に座る。
見るとエリちゃんも着ぐるみの人に群がった子供たちの中に加わって、風船やおかしをねだっていた。
おとなしい子だと思ってたけど、存外アグレッシブだ、と微笑ましく思い、そこで買ったラムネを飲んで休憩してると、思いもかけない方から声をかけられた。
「おーい?美芳か?」
このしぶい声は、と振り返ると、思った通りの顔がある。
上村和也。
この間入社した会社の先輩だった。
「こんにちわ。こんな所で珍しいですね。」
「うちの周りは何も無いからな。何か面白いものが無いか、とか出てきたんだよ。」
と、これまたそこで買ったと
「私は、姉から姪を預かっちゃてて。ご機嫌取りなんですよ。」
そんな事を話していたら、エリちゃんがニコニコしながら戻ってきた。
「この子がエリちゃんです。よろしくね。」
「よろしくおねがいしま〜す。」
「おう。元気がいいな。美芳の会社の先輩やってる上村だ。よろしくな。」
元気に挨拶するエリちゃんに、先輩は破顔して答えた。
「それにしても、いまどき、書店なんて開いて需要があるんでしょうかね〜?」
エリちゃんの貰ってきたお菓子は、クッキーが小分けで何枚か入っていた。
おすそわけ、とばかりに先輩と私に分けてくれて三人でぽりぽりとクッキーをかじりながらしゃべっている。
「ただの書店だときびしいだろうな。だからほら、あそこのブースとか。子供たちを集めて、おもちゃの実演販売をしているだろ?書店だけではなくて、おもちゃやビデオなどまとめて流通に流して売っていくスタイルのようだな。」
見ていると、なんだか小さな人形をぽこぽこ叩く度に赤く変化したり表面に怒ったような顔が映し出されたりしている。
人形というより、ロボットなのだろうか?
エリちゃんなんか欲しがったりしないかな?と顔色を伺うが、特に興味は無いようだった。
「そういえば、なんで姪っ子なんて預かってるんだ?」
そう、先輩が聞いてくるので、今までの経緯を話すと、変な所に引っかかったようだ。
同情するような顔になり、エリちゃんの頭を撫でながら、
「そうか。どうせなら一緒に連れてってやればいいのになぁ。エリちゃんは寂しくないのか?」
そんな事を話す。
きょとん、としたのは一瞬で、すぐににっこりとしながら、エリちゃんが話しだした。
「美芳おばさんがいるから寂しく無いよ。それに、おかあさん、おみやげは弟か妹になるかもしれない、なんて言ってたから今からたのしみ〜♪」
ぶーっ!
なんて事いいやがりますか、うちの姉上は!
となりを見ると先輩も吹き出していた。
その時、糸が切れたのか、風に吹かれて車道の方に飛んでいく風船が目に入った。
それを追いかける男の子。
そして、その向こうにはトラックが走っていた。
「あぶない!」
思わず私が叫ぶと、先輩も後ろを振り向いて一瞬の判断ののち、走り出した。
だけど、それよりも早く緑色の風が・・・そういえば、あのへんてこりんな着ぐるみの色が緑色だったなぁ。
ずんぐりとした愛嬌のある姿からは想像もつかないスピードで走り出して、男の子をトラックの前から突き飛ばす。
どんっ!
にぶい音がした。
***
「おい!だいじょうぶか!」
いち早く着いた先輩が着ぐるみを叩いて確認している。
こういう時、確か下手に動かすとまずいんだよね。
出来るだけ首に負担をかけない形で、安全な所に移動させる、とか聞いた事がある。
「移動させられるならいいんだが、まずは着ぐるみを脱がせた方がいいな。」
と
ごろん!
と、首がころがった。
思わず、きゃー!と悲鳴があがるが、それは着ぐるみの首だ。
だが、それ以上におかしな事があった。
首が取れても、その下に頭が見えなかった。
先輩が着ぐるみの後ろに手を当てて、ファスナーを下ろそうとしていたが、次の瞬間、こんな事をつぶやいた。
「これ、中身がからっぽだ。」
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