第47話 四峯遥佳

 四峯遥佳は、考えていた。

 考えるだけ、というのは苦手なことだったが。


 霧島夢亜はさっきから、一向に動こうとしない。

 彼女が今使っているのは遠い場所の様子を見ることが出来る能力……なのだと思う。

 それが霧島の能力———偶然一緒の班になって、魔怪人出現騒ぎのあとも、はぐれずに捕まえることが出来た最初の女子だった。


 ……え?どうやって戦うの、それ?

 魔法少女としての能力がそれだとするのなら。

 その詳細については今聞いていないが、聞いていい空気でもないが―――とりあえず、彼女のおかげで、近くに魔怪人たちが接近していないということが確定している、まだこうやってお喋りできるし彼女のことを知れる。

 あ、でも私の魔法戦杖チカラまだ教えてないや―――うん。


 ……けど、これでは調べているだけで、島の事件を解決しているわけではない。

 このままじゃサイパンの住民……とか飛行機のヒトたちだって危険なままだ。

 魔怪人に襲われるか、別の何かがこの事件を起こしているのか。

 早く動かないと……と、ムズムズする気分になる……これって、私の頭が悪いのかな?

 まあ確かに夢亜っちの方があたま良さそうに見えるけどさぁ。

 夢唖っちはなおも、独り言のように呟く。

 

「あぁ……男子が操られているネ」


 私と話しているわけではなく、本当に遠くの様子を見ているんだろう。

 二人の間の空気は、重い。

 シンプルに、赤い霧に包まれているということも、関係しているのかもしれなかった。

 謎の赤い大魔法陣によって、サイパン島は遮断———こうなると修学旅行という名の監獄だ。

 電子機器に異常が起きていて、デジタルカメラで鮮やかな黄緑の自然を撮ることも叶わない(スマートフォンでの撮影は学校の意向で控えるようにと言われているのだ)


「あ」

「でも、終わったみたいだネ」


 本当に……?と、四峯は私は顔をしかめるだけの、返事をする。


「本当ネ」



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ちょっと嘘だった―――厳密には、動きが急に止まっただけである。

 敵も味方も。


「でもすごぉいー、わかっちゃうんだね」


「ホント、萎えるよネ……」


この状況全体に嘆息する。


「言ってたね夢啞っち。 魔法少女バレのことでしょ」


 一応気遣ってくれているようなクラスメイトだが、わかっているのだろうか?

 ここからは、遅かれ早かれ戦いになるんだけど。


「……」


 正体がバレること、それもあるけれどーーー。

 魔法少女であることの、

 いずれは能力コレもバレるのかなぁと思うのが真に萎える要素だよネ。


「あーあ、になっちゃう……普通にキモイんだよネ……」

「えっ ひどい!」

「キモいキモい―――。 アンタの声聞いてると」


 嘘だった―――本当にキモいのは自分の魔法戦杖マジカルステッキについて。

 ただ、変えられるものではないから。

 これでやっていくしかない。

 私だって自分にドン引きしてるってば……十㎞先をえてしまうなんて、そんな奴、クラスメイトにいたらサ。


 私は歩き出す―――高濃度の魔力の場所は、あらかた把握した。

 こちらに進めば魔法関係のトラップには引っかからないと確定しているルートは、ある。

 遅れて、四峰の騒がしい足音も、付いてきた。



 霧島夢亜の魔法戦杖マジカルステッキ

 五里霧中サイレントナイト

 水蒸気を操る能力であり、あまり戦闘に向いていない―――と、本人は感じている。

 というか、ウンザリしている。

 最大有効射程になると彼女を中心に半径十キロほどまで微量の霧を広げられる。

 これは魔法少女魔法少年二十八名中、最長である。

 なおサイパン島の大きさは長さ十八キロ、幅九キロ。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 



 魔法戦杖マジカルステッキ厳塞要徼バンガードフォートレスに搭乗する男子、山城嵐は迷っていた。短髪で、いまはギラギラ光る赤い目をしている。


「動け! 動けよ!」


 頭部カメラが南郷ヤツのオノに割られた―――それはいい、だがまだ、動ける腕があるはずだ。

 画面を食い入るように見つめる山城―――その目は血走っている

 その夕焼けの瞳は、血走っているでもなく、魔力由来の発光をしている。


 眼前の大画面は今、白黒の砂嵐となっている。

 奴の一撃が、頭部メインカメラに命中した結果だった。

ああ、見えないのはわかったよ。


「ーーーだが、戦えねえとでも?」



『———もういいだろ、山城やましろ!』

 

 マイクが音声を拾った。

 あの、斧を振りまわす魔法少年……!


『オマエは! 操られてんだよ! まだわかってないのか!』



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