第48話 山城嵐と南郷クリストファー 4

 『ちい! あ、動かねえーーー、いや違う!ちょっとハマっただけだ!』


 巨大なロボットが毒づいた。

 ボディが装甲が、震えている―――。


 大斧で自身の十倍はあろうかという機体に対し、地面を割り、一撃を決めた魔法少年は、思案する。

 正確に言えば、魔法戦杖マジカルステッキ――眼前の、これが?

 アゴだけで自分よりもデカいんだが?

 あのアゴの中にいる(はずの)山城は、マイクの拡張機能で、熱帯雨林に響き渡るマジカル音声を放っている。


『おい!てめぇ南郷!やりやがったな!ぶっ壊した! だろ!』


 元はと言えば、お前が黙っていたせいで、俺が魔法陣を怪しいと思い探し出し、正義感から変な魔法陣に触れてしまった結果、『倒したくなった』――誰を倒したいかは問題じゃない。しいて言えば、目の前の奴だ。

 機体に、装甲に、大きな損傷は無いもののーーー見えなくなった。


「眼が! 眼がああああ―――ッ やられた!くっ……そォーーー!」


 身悶えする機体は、その装甲が声を拡張している印象すら、ある。


「壊してねぇぞ―――このロボットは! 埋めただけだ!これで終わりだ!詰んでるだろお前!」


 南郷———あの大斧使い、アイツは健在だ。そして動きを封じられた俺を、追撃してくる様子もない。

 どうして動かない?


「お前のロボット、止めたぞ!止まってんだよ。もう、諦めて出てこい!」

 マイク越しの声が響く。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 諦めて……?

 ぴくり、こめかみがヒクつく―――頭に血が上りっぱなしだと自覚している。


「ふざけんな!まだまだだ!お前に何がわかる!お前は魔法陣を見て、それだけ!」


『は、あ?』


「前に突っ立っていただけだろ!俺は『勇気ある者』なんだよ!」


「お前――」


 この島をなんとかしようとしていないのか。真相を明らかにしなければ……少なくとも、近づきたい。

 頭数は多いのだ、否ーーー多すぎる。

 魔法陣の出所は、クラス全員でしらみ潰しに探せば、見つかるはずであるーーー問題はその、前。


『まずそれに操られてるんだよ!』


 言ってもわからないのか、聞こえてもいないのか。

 そう、斧使いが舌打ちをした時――!


 ばかん。


 山城は、音のその原因がわかった。

 すばやく、操縦席の画面右を見る。

 肩部のマーカーが紅く点滅し、それが消える。

 それに焦りつつ、睨みつけ外部から困惑声。


『オイ! まだやるつもりかよ、お前下半身埋まってんだぞ! そんな攻撃―――攻撃か?今の!』


「違う。これはホラっ……!あ、アレだ!」


 言いながら目だけでなく顔まで朱に染まる搭乗者。

 いえねえよ……

 厳塞要徼バンガードフォートレスの能力……(てゆーか短所)については言えねェ……!


 魔法戦杖マジカルステッキ厳塞要徼バンガードフォートレス

 ひとたび発動すれば全高18.0m,総重量43.4トンの巨大スーツを出現させ、自分はそれに搭乗出来る。

 地面を擦るように腕を振り回すだけで、量産型魔怪人なら(オレは黒服って呼んでるけど)まとめて吹っ飛ばすことも出来る。

 攻撃も防御も盤石だ―――オレにインファイトしようなんざ。


 また、活動時間にも十分な余裕がある―――少なくとも俺は、戦っていて迫るタイムリミットを意識したことは無い。

 意識したのは装甲だ。

 時間がたつごとにフォートレスの肩、腹、胸、前腕、両脛の装甲が脱落ぶ!

 段々と減っていく……仕様だシステムだ。

 燃費がいい能力とは言えねえ―――。

 そして長期戦を続けていくと骨組み丸出し、人体模型で戦うみたいな間抜けボディになっちまう。なんて


 ―――言えねぇよ。


『何が言えねぇのかわからないがはやく降りて来るんだ! 目が真っ赤だぞ!眼科に行け!』


「なんだとぉ!俺の視力は右が1.5で、左が1.0なんだよ!」


『ええ~い! 降ろすからな! 目は潰したが、それじゃあダメなんだな!』


 下半身は、埋められている、おのれ、こいつの地面を操れる能力……!

 歯噛みする。フォートレスに地面系の能力を避ける機能は、無ぇーーーやれると言えば、ジャンプくらいしか。

 それでも、まだ暴れられるってところを見せてやるぜ!


「気合いで負けたら負けだぞ!フォートレス!」


 声を張りつつ、両腕のハンドルを大きく動かす。

 巨大機構は相槌こそ打たないものの、両目部位を倍ほどに広げた。

 文字通りの、眼光を煌めかせる!!


 巨大な機械に乗って戦いたい。

 さらに言えば人間同士の戦いには全然ワクワクしない、まず美学を感じない。

 全部、あまりにも小さすぎて、それを目指す気が湧かない。

 そんなオレの無茶振りにバクールは答えてくれた。


「そんなメカに乗りたいんだバ? せっかく魔法少年のスカウトとしてやってきたミーに、わざわざ……」


 元々カバのようだと思われる奴は、そう言って嫌そうな顔をしながらも、結局はこんな能力をプレゼントしてくれた、魔法協会のマスコット。

 恩義はある!


『まだ、肩がイカれただけだァーーーッ!!』

 


 大声に、危険を感じ取った南郷クリストファー。飛び退った。

 ―――何か、来る!手首周りの重量感ある部位は、無事!

 それを振り回す。

 横滑りするトラックのごとく―――!


 迫る腕、重機と大差ないサイズ感は視界を埋める。

 だが、逸れている。狙いが逸れている。

 少し、自分には当たらない!

 やはり頭部にダメージ当てて正解だった。


 斧で地面を削り、回避して反撃まで、可能だろうーーーそう思い身構えた南郷。


 頭上で、拳がぴたりと静止した。


「!?」

『はぁ?』


 腕を振り回した張本人も疑問の声をあげている。なんだ、予想外だったのか。


「やれやれ―――ようやく、が良くなったよ」


 近くの樹に、寄りかかっている少年が言った。

 存在を忘れていたぞ、荒多あらた———!。









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