第45話 自分のことを名前呼びしてる女は性格に難があるっていう話があるぞ!天世ひかり!


「ひかり、ちょっとよくわかんないなあ、トリさんの居場所がわからないっていうこと?同じ魔怪人の組織なのに?」


俺は自分の背後に立っている魔法少女から意識を離さず、しかし正面を向いていた。

視界にはジョウゾ。

数メートル先に立っている。


驚愕、あっけにとられたジョウゾの表情。

それを見る限り、敵の移動は奴視点からも見えなかったようだ。

俺は、息を整える。

いつの間にか荒くなっていた。


「……魔法少女よ。背後を取ったところ悪いが、せっかくのところだが、今回のことは、バルルーンの独断専行だ」


実際には幹部も絡んだ正式な作戦なのだが、俺はそんなことを話しかける。

もっとも、正式な作戦なら成功するというものでもないが。


黙っている白黄の魔法少女。

小さいな。奴の頭の位置が俺の背中―――いや、腰くらいか。

これでは狙いにくい。


「この島では―――俺はただヤツを連れ帰れと、いう命令でここに立っている」


「……それでまた今度、出てくるんでしょ?日本に」


「上からの……命令とあらば……な」



組織の上下関係に無暗に逆らっても、目的は達成できない。

人間社会と共通点も多いスゴ・クメーワクの面々。

だが皮肉っている場合でもない。


次の瞬間にでも奴からの攻撃が来るだろうか。

俺は硬直した姿勢のまま身構えていた。

来るか?

どんな攻撃が、来る?

いや、攻撃が来たとしても、それで直ちに致命傷になることはない。

おそらくは耐えられる―――。

思い出せ、奴の要は移動力だ。


ここで先程の移動に関して意識を移した。

魔法戦杖マジカルステッキは発動する際に光の奔流が発生する。

どんな魔法少女少年にも、これにおそらく例外はない。

俺は長鼻を指で掻きつつ、さらに思案を進める。


光の奔流を発生させ、それを目くらましとして、並々ならぬ速度での移動をした。

風のごとき、超速の移動。

それが―――奴がこうして後ろを取っている理由。

俺の後ろを取っている理由。

仮説だ、これが。

速さと、視界の阻害。

その二つが、この女のやっていること―――その本質。


奴の表情を拝めない位置ではあるが、俺は会話を続ける。


「確認だが、バルルーンの居場所を知らないんだな?」


「……探している最中だよ。もーサイアクだよ、最初に会った時に色々あったから、追いかけるのは後回しにしちゃったけれど。ひかり、こんなことなら飛行機は放っておいてすぐに追いかけておけばよかった」


まさか丸一日かかるとまでは思わなかった、とかなんとか。

背後でぶつぶつと言っている。


「……」


嘘か、本当か。

もっとも、この魔法少女ならば翼を持つバルルーン相手に、速度で引けを取らないだろう。

ジョウゾを見る。

奴は俺と魔法少女のいる方を黙って睨んでいた。

動けない俺に変わり、いまジョウゾが攻撃しても、俺に命中するだろう。

期待できない、今の状態では―――。


「もう一ついいか?」


「なあに?」


「お前は、俺の後ろに回ったが―――それは、それが、お前の能力か?」


「そうだよ。ちゃんと聞こえたかな?邪魔してくれたよね。ひかりの魔法戦杖マジカルステッキ『風光明媚』ライトニング・レイはね―――」


俺は長鼻を持ち上げ上を向く。

空に向かった鼻を右肩上でカーブさせ、先端を背後の地に向けた。

―――『魔剛水弾』!


轟音。

自分の背後という見えない位置に渾身の砲弾を打ち出し、地面が炸裂、弾けた。

弾け飛んだ木の根が回転しながら飛んでいく。

攻撃の失敗を悟ったのは、俺の目の前が暗くなったためだ。


すなわち、背後で強烈に光が瞬き、俺に影を落とした。

手ごたえは―――無し。

紙一重で避けた?

それとも移動を―――?


僅かに左足に違和感を感じ、視線を落とす。


「ひかりの『風光明媚』ライトニング・レイはね―――すごく速いんだよ」


魔法少女が戦杖ステッキを真下から振り上げている最中だった。

俺は確認したと同時に左顎に、その殴打を喰らう。

魔法戦杖マジカルステッキを鈍器とした、物理攻撃。


「ぐっ……!?む、」


真上につんのめった俺は、一歩、背後に下がる。

やはり―――駄目か。

予備動作を見て避けられる可能性は、確かにあった。

だが俺が視界外へこの威力の魔力攻撃が可能だと、奴は見破ったのだろうか。

目の前で奴が呟く。

笑んでいたように見えた。


「速いから当たる。最初に邪魔してくれたから、ゾウさんからだね、討伐は」


「ぬあッ!」


態勢を整え、俺は奴に向かい右腕を振り抜く。

俺の太腕は空気を殴った。

くそ、これも駄目か!

肘から先が光に入っている。

水面に手を突っ込んだような光景だ。

眩しさに目を細める。

眩しさ、小手先じみた目くらましが、案外効いてしまっている。



光が消え、視線を左右にやると、もはや離れていた。

完全に間合いの外に立っていた奴の、ここで全容を見ることが出来た。

そのカラフルな黄と白の右わき腹あたりだろうか、縫製が乱れ、わずかだがバチバチと火花が散っている様子が見て取れた。


一瞬疑問が浮かぶ。

だが、そう、初撃だ。

最初の魔剛水弾は確かに命中していたらしい。

奴は手負いだ。


「スピードが売りか……目くらましなんてことまで、随分と手の込んだ、仕掛けを打つんだな」


俺は息を整える……。

時間を稼ぐ。

いつの間にか全力疾走後のような体たらくだ、長時間の戦闘でもないのに。


当のスピード狂に関しては、数秒、感情の読めない無表情になり、瞳の赤い揺らめきだけが動いていた。

だがその後、言葉を返す。


「仕掛け……そういう風に、思うんだ。まあいいけどね」


「ちいぃ!『お前ら』!そいつの逃げ足を止めろ!」


これを叫んだのはハイエナ型、ジョウゾだった。

直ぐに、その背後から黒い影の如き下級魔怪人が出現する。

五体、六体と。

広がり、包囲すべく動く。


俺も援護を開始する。

四体、前後の斜めに、守りを固めるように配置。

これで、勝てるかどうかなどわからない。

だがやるしかない。


俺とジョウゾの、二人で何としてでも奴の隙、弱点を探し出す!


「――お前ら、動きを止めろ!走らせるな!」


「―――止まらないよ」


ジョウゾに先立ち、下級魔怪人が両手を前に出し次々と躍り出る。

閃光が瞬いて、消える。


魔法少女が黒い影の群れの中心にいた。

下級魔怪人が二体だけ、姿勢が崩れて明後日の方向に倒れていく。

首があらぬ方向へ曲がっていた。

瞬く間に戦杖の殴打を加えたのだろうと推測できた。


「止まらない気分だよ……!あの魔法陣に触ってからね」


現時点での魔怪人討伐数、92→94。



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