第43話 ゼレファンダーの狙い 2
「バルルーンが生きている可能性?」
虎型魔怪人ブレイズンは目をゆっくりと開く。
悪の組織スゴ・クメーワクの秘密基地。
未だ謎に包まれた悪の根城の中で、二人は会話を始める。
対するは亀型の魔怪人研究者、白衣を着こんだダールド。
生まれながらにして黒を基調とした出で立ちの者が多い。
悪の組織、その中で白衣は異様な目立ち方といえる。
「そうだよ」
「まあ、なんとでも想像するといいが……下手な気休めならよしてくれ……」
開けた目をけだるそうに閉じる虎。
表情は不機嫌そのもの。
世は魔法少女達の全盛。
今更、魔怪人の同胞がひとりやられたとしても大きなショックは受けない。
「ずいぶんと悲観的なことだ―――状況から話すかね。全体にジャミングがかかっているあの島のことだが、我々は魔法陣の解析をしている」
あの島の巨大魔法陣か。
ダールドとかいう、この組織の研究室の連中も、やることはやっているのだな。
今まで碌な成果もあげるどころか、何をしているのかもよくわからない連中だが。
……仮に成果を上げているのならここまで負け戦はしていない。
「研究室は、それを調べ終わったのか?」
「途中経過じゃが、十分にわかったことがある。まず魔法少女の仕業ではない」
大きな声ではないものの、断言していた。
「……それは、根拠があるのか?」
「ある。
以前幹部からそんなことは聞いた。
「日々それだけを繰り返しておったが、島の魔法陣は構造が根本から違う。そもそも、魔法少女というものは、魔法陣で戦う様な連中ではない」
「む……う」
あの連中は絶大なる
逆に言えば、それ以外の手で攻撃してこない。
ダールドはそう続ける。
「魔法少女、魔法協会……そんな、我々のよく知るものではない。術式をざっと把握、解読したところの所感だが―――魔法少女と共通点が少なすぎる。あまりにも旧式というか……いや、わからないものはわからないと言ってしまおう」
「……例の、マスコットの方が魔法陣を張っているという可能性は?魔法少女じゃあない」
「む?ああ、それもない。奴らは積極的に戦闘に参加しないじゃろう」
「……」
「そもそも日本にばかり現われていた連中が、サイパンにあんなものを用意しているとは考えにくい」
そう言われてしまえば、確かにうまく言い返せないブレイズンだった。
今まで日本を守っていた魔法少女、魔法少年のやり口は組織の全員が思い知っていることだった。
日本を守っていた、執拗なまでに日本の平和を守っていた。
それが領土の外に……あの青々とした海にあんな大規模な仕掛けを準備しているとは考えにくい。
バルルーンの発案を擁護するつもりはないが、魔法少女達の守備範囲外のはずである。
そうだな、バルルーンのあの、思い付きとも取れる作戦を察知していないと無理な芸当だし、察知していても魔怪人一体に対してあの大仕掛けをする手間を考えると、やはりおかしい。
仮にそれをできるだけの掌握力、規模の大きさがあるのならばいくつもの国の魔法協会の協力が前提となる。
いわば魔法連合ということで、はじめから相手が悪すぎた、勝てる見込みなどなかったと、あきらめもつく。
そして少しばかり思案する。
この島で起こっていることは……。
その状況の質、良質か悪質か。
「魔法少女にとっては、良くない、と」
「ああ、連中にとっても予想外のことだ。そう推測する。そもそも日本以外に現れたためしがない、
ブレイズンは考えなければならないことをいくつか思い浮かべる。
最後にレーダーが捉えた情報によれば、バルルーンは敵が大群と見るや、島にその飛行能力を存分に使い向かった。
先に逃げ込んだ―――ジャングルはいくらでも隠れるところがあるだろう。
対して追う側であるはずの魔法少女魔法少年たちは、島に着陸する寸前まで飛行機から少しも離れなかった。
バルルーンを追うそぶりがない。
この辺りの動向は謎だが……例のジャミング、妨害魔法陣のせいでまともな映像がない。
一連の流れを追う限りでは、敵に追いつかれていないバルルーン。
バルルーンが完全なる敵地で助けが来ないなか、一対二十八の戦いを強いられているという可能性は低い。
……途中までそうなりそうだったから心配に心配を重ねたのだが。
この島では通常通りに戦闘、組織への連絡、逃走ができない恐れもある。
だが魔法陣によって行動が阻害されるのは魔法少女側も同じ……。
おそらく敵も混乱している……。
「では俺も出撃しようかね」
ブレイズンは言う。
意図して軽薄な口調を作り。
言ってから胸が鈍く痛み出した。
「ほう」
「進言して出撃者を募る―――優位に戦える見込みはある。止めるかい?研究部長さんよ」
「いや……。時期に上からも出撃命令が来るじゃろう」
研究室の情報は幹部にいくはずだ。
研究で得た極秘の情報を俺だけにまわしてくれた、等という訳はないだろう。
むしろ俺は後か。
「せめて、そうだな―――その魔法陣の下で、敵戦力が半減していることでも祈るしかないね」
あまり面白くないジョークだと、われながら思う。
どうもこれから命懸けの戦いに挑むとなると、ギャグセンスにブレが出る。
現実問題、魔怪人の不利は続いている。
先に人間からの恐怖エネルギーを集めるべく出撃した魔怪人達は、ことごとくやられている。
それでも近頃、隊の被害を食い止める食い止めることが出来ているのは、逃走という手段を選べるようになったからに他ならない。
魔法少女の脅威が組織全体に知れ渡って。
魔法少女とやりあったら逃走方法を常に確保しろ、と上層部が命じたのだ。
「上手くやるつもりだが―――俺が戦っている間、
どういう戦い方をするかわかれば、今後魔怪人が戦う敵は、初見ではなくなる。
対策を講じることが出来る。
俺は捨て石となる可能性大。
バルルーンを憐れむような立場では、始めからなかった。
自分も戦う。
「人間どもに恐怖を」
組織標語を呟く。
呟いて精いっぱい強がっている。
膝の震えは―――ない。
バルルーン程のお気楽な性質を持たない虎型魔怪人は、急激にストレス値を上昇させつつあった。
ダールドはその横顔を黙って眺めていた。
その後、ふ、と笑い明るい口調で声をかける。
「なんだかんだ言いつつ、敵に不利と見れば迷わず行くかよ、ブレイズン」
「……ん?」
亀型の魔怪人研究者はブレイズンの発言を受け取った――強がりだとは気づいていない。
初対面に近い二人だ、そこまで心中読まれはしないという事だろう。
「戦略的に正しいことだ」
「あ、ああ……そうだ。俺も悪の組織スゴ・クメーワクの一員だからな」
一応、そんなことを言った。
ダールドが何と言おうが自分の運命は変わらない。
そもそも戦闘にまるで関わらない奴にこれ以上どうこう言われても、仕方がない。
とにかく島に行って現状を見るしかない。
絶対に何らかの機会がある―――この混乱で自分が敵に一矢報いる機会が。
そう思うしかない。
話は済んだ、とばかりにダールドに背を向け歩き始めたとき、呼び止められる。
「それでだ。研究室からだが、ひとつ、持たせたいものがある。ほんの
薄暗い部屋での会話はもう少しの間、続いた。
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