第41話 山城嵐と南郷クリストファー 3


 意外過ぎる―――随分とあっけなかった。

 魔法少年だったクラスメイト、南郷クリストファー。

 俺の魔法戦杖マジカルステッキ『厳塞要徼』バンガードフォートレスの鉄拳で叩き潰した。

 手ごたえは、地面。

 鉄拳が地面まで達して、辺りのジャングルに鈍い衝撃音が響いた。

 この戦いは俺の---勝利。


「や、やったぞ!」


 やった。

 ついに、打ち勝った。倒した、破壊した。


「手こずらせやがって!魔法少年に挑もうっていうのが、まず間違いなんだよ!」


 間違いで、愚かだ―――愚か者。

 そう、奴は愚か者だったはずだ。

 あれ―――なにか、おかしい。

 俺、何で南郷と戦っていたんだっけ。

 魔怪人と戦って―――いや、違う、俺は何でこんなことをしているんだっけ。


 戦わないといけないという衝動だけが、まだまだ治まらない。

 俺は戦わないといけない。

 理由はわからないが、そうしないといけない気だけがする。

 理由。

 理由とは何だ?

 魔怪人を散々討伐してきた俺に、いまさらそんなものが必要か?


 バキバキと、近くの木をどかす。

 この機体で操縦すれば、木というよりも草だ―――簡単に折れた。

 そうしても奴の身体は見つからない。

 そういえば奴の黒っぽい魔法装甲マジカルメイルは、見にくいな。

 きっとまだ近くの地面にへばりついているはずだ―――。


 そう思った時、動く影が見えた。

 緑と紫がかった服装の人間―――なんだあれは。

 左手で左の画面を叩く―――視野を拡大する―――あれは。


「別の男子、だよな……あれは、荒多か?」


 拡大した奴の目と、俺の目が画面越しに合った。

 数秒ではあるが、その男に意識を取られていた。





魔法戦杖マジカルステッキ―――『捲土重来』グラウンド・クロス!!』


 直下。

 足元から聞こえた。

 直ぐに雷鳴のような音が『厳塞要徼』バンガードフォートレスの脚部に、響く。

 罅割れた大地から光の奔流が漏れ、俺は瞼を絞る。


 ふわりと宙に浮いた。

 そんな気がした―――次いで、衝撃。

 操縦席が丸ごと揺れた、機体の両腕、いや、脇腹に何かがぶつかった?

 大きなダメージを受けたのか?

 前方画面が、妙だ。

 木の幹が見える―――地面も。

 地面が―――画面に映っている。



「なんだ!?」



 機体の足元のは、南郷の声だ。

 そうだ。

 画面には荒多が映っていて、やつは揺れる地面に戸惑っているように見える―――-奴じゃない。

 生きて?

 生きていたのか、だがどこからだ。

 近くにいる。


「どこからの……!攻撃、かこれは!?」


 俺は操縦席前に姿見のごとく広がる大画面を、タッチする。

 画面を動かして敵を探す。

 左右、背後―――それとも足元を歩いている、か?

 敵の正体はいまだ見えず。


 左右に高速で揺れる画面。

 それと操縦席もだ―――操縦桿を命綱とするように、ぎゅっと握りしめて耐える。

 戸惑いつつも、何か見覚えがある―――現象。

 地震だ。


「そこかあ!」


 操縦桿を素早く操作、思いっきり、右フックのように引く。

 そうすると視界全部が揺れる中、鉄碗が木々をなぎ倒す。


 誰かいる。

 なぜそこに―――モニターで確認。

 違う、色が全然違う。

 眼鏡をかけた魔法少年、あれは荒多か?

 俺のステッキを見上げているが、棒立ちというか、戦闘態勢とは言い難い。


 お前、ここに来ていたのか。

 お前がやっているのかと、画面越しに叫ぼうとした時だった。


 画面が動いた。高速で移動。

 かと思うと、衝撃。

 機体が落ちたようだ。

 またか。

 魔法装甲マジカルメイルを着ていれば、ダメージなどはないが……

 苦痛だ。

 どういう攻撃なのか、わからない。


「ぐうっ―――な、なん……!?なんで、こんな……」


 やはり南郷の奴、南郷クリストファー。

 あの野郎、生きて何らかの手段で俺を、攻撃している……?

 攻撃といえるのか、これが?

 何が起きているのか、正確にはわからないが。

 なんだっけか―――『捲土重来』グラウンド・クロス!?


「見せろ!」


 視界が悪すぎて、思わず叫んでしまった。

 フォートレスの顔に丁度南国の青々と茂った葉がぶつかる、そういう高さになっている。

 さっきまでは見下ろせていたのに―――!

 落ち葉が大量に舞う。

 深緑の紙吹雪。

 その中で、懸命に、起き上がろうとする。

 なんだって言うんだ―――さっきまで直立出来ていたのに、両腕で、くっそ、機体の下半身が完全に地面に、埋まっている。

 これって―――



 両手を地面について、身体を支える。

 そしてロボットをから抜け出そうとする。

 ―――落とし穴だと?

 何でこんなものが、さっきまで影も形も―――


「こんなものを、何で急に……現われ?い、いや―――作ったのか!?」


 両脚を操作するペダルをがんがんと踏む。

 だが、移動できない。

 両脚は役に立たない。


 後ろで爆発音がした。

 否。

 何かが、地面を突き破って来たかのような―――!


『大地を操るっ―――地属性ェえええええ!!』


「フォートレスの集音センサーを舐めんなよ、このォ!」


 俺は動けないながらも、背中の方から聞こえた奴の声に、腕を。

 腕を振り回す。

 鉄碗で、当たれ!

 肘鉄でもいい!


 腕に激突し、岩が砕けて飛び散った。

 岩。

 フォートレスの腕は大地に阻まれた。

 岩が何故、そんなところに―――背中に岩山が出来上がっている!?


 背中の画面に、人影が映っている。

 黒いはずの魔法装甲マジカルメイルは、空からの光を赤く反射して夕焼け空のようだ。

 南郷が斧を振りかぶって、フォートレスの肩のあたりに叩き込んだ。


 弾く。

 切り裂けやしないだろう―――だが、俺は反撃ができない。

 どうやら俺は攻撃されているようだ―――岩がガンガンとぶつかる。

 地面から、水たまりから跳ねた水みたいに、飛んでくる。

 気が付けば―――南郷が。


「くそっ!見失った!」





 ―――




「地面を操作している……!」


 島の地下。

 島の地下では、視線だけで岩の壁に映し出された画面を見ている、黒い衣の少女。


「地形を変化させるとは、ずいぶんな能力だ」


 特に迷惑なのは、洞窟内の異変。

 パラパラと時折降ってくる、黒い鉱石は天井の欠片だ。

 振動によって、

 魔法少年の能力の影響が、こちらまで届いていることで、彼女も本腰を入れて分析せざるを得なかった。

 そう判断した。


 あのに巻き込まれている山城嵐自身は見えていない事実も、ここからなら見えていた。

 あの巨大な機体に潰されたと思われた男……いや、男子か。

 彼は生きている。

 それだけでなく、小規模な地割れを発生させた。

 十字型に発生した地割れが発生し、滑落した巨大な機体。


 形勢は逆転した。

 それによって巨大な鉄の機体は、その重量が完全にあだとなり、滑落、身動きが取れない状態だ。

 人間よりも関節駆動の融通が利いていない。

 両手で這いだそうとしたら、手を突いたその場所が砕けた砂となる。

 まるで蟻地獄だ……。




 私は当然ながら日本から訪れた魔法少女のすべてを知る者ではない。

 だが、魔法少女、少年の能力は多岐に渡る。

 既に見たものだけでも、何種類かあるようだ。

 魔怪人の侵入も確認している。

 魔法界の連中で賑やかになるのは久しいが―――残念だ。

 こちらも余裕の表情だけで済ませられる案件ではなくなってきた。


「このまま潰し合ってもらうしかないようだね、そこでしっかり同士討ちをしてもらう……危険だよ、キミ達」



 ―――



「くっ―――この―――おォ、おおお!」


 機体を大地から押し出す。

 なんてざまだ、格好悪ィ。

 うるさい蚊をさっさと叩きつぶしたいところだったが、左腕で、地面から何とか這い出る体勢を、維持しつつ。

 右腕で攻撃、奴を捉えることに苦心する。

 動け、フォートレス。

 こんな簡単にやられる存在じゃアないはずだぜ

 無敵の魔法戦杖マジカルステッキだったはずが、なんていうことだ、この状況―――身動きができなくなる一歩手前だ。



 目の前に土竜もぐらがいる。

 硬い地面をいとも簡単にヒビを入れつつ―――アイスクリームの表面にスプーンを入れたみたいに、もこもこと大地が膨らむ。

 人間が走るくらいの速度で、左から右へ進む―――

 その罅が、声を張り上げた。


『封じたぞ!動きは封じた!壊すぞそのロボット!!この野郎』


 またその声だ。

 俺はその罅に手を伸ばす―――鉄拳、いや鉄の掌てのひらで、叩いた!

 岩が衝撃でがんがんと撒き散った。


 だが―――




 ―――



 その腕が地面につくのを見計らい、俺は、戦斧を地面に当てて、再び力を発動。

 地中を加速する。

 大地は俺を避ける、だから移動できる。

 変形する壁であり足場である大地は、俺を射出した。

 そういう能力の使い方も可能だ。


 そして休んでいる暇はない、降りてきた鉄碗を駆け上がる。

 三歩、四歩―――そのまま馬鹿でかい顔面に、戦斧を振りかぶる。

 喰らえ、山城。

 山城の乗っている馬鹿でかいロボット。

 目の前に大仏がある。

 そうだ、大仏に似ているんだ。

 曲線よりも直線がデザインなだけで、お前は、


「顔が!デカいんだよ、馬鹿おまえッ、おッらああああァ―――ッ!」


 戦斧を、巨大なロボットの右目に力いっぱい叩き込んだ。

 赤い水晶のような瞳にびしりと亀裂が生まれた。



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