第33話 轟け雷鳴! 紺田ほたるちゃん! 3

砕けてバラバラと落ちる木板。

その古さからか、よく粉が舞った。

埃と、風化しかけている木屑。


それらと共に魔法少女が落ちる時、両腕が見えた。

魔法少女の姿が、その全容が、手元から放たれる閃光によって見えてきた。


それは姿というより両腕で、もっと言えば、奴の武器が。

暗色系統の金属質なグローブが奴の細腕を覆っていて、まだ光の余り、残滓を秘めている。

魔怪人を圧倒しうる魔法の武器、魔法戦杖マジカルステッキの変形した、ものだ。


奴自身の放つ―――落ちながら、止めてはいない閃光で敵の全容が見えつつあった。



「ゲハッ………ゴボォ!」


喉がひりひりする。

声が………!

だが、これで!


不安定な態勢で墜落していく電流女。

俺の自由になるための、自由に動くための時間が多く取れた爪に魔力を集中させる。


………ッ!?」


魔法少女がうつぶせに近い状態で落下したその上を、俺は飛び越える。

俺の筋肉はまだ痙攣している。

ジャンプ力が本調子ではないが、それでも飛ぶことは出来た。

ほぼ拘束といっていい環境から脱出した。


振り向けば、割れた木に挟まって、わずかに手こずっている様子だ。

思うような自由落下はしなかったらしい。

だが憎たらしいほどの魔法防御力を誇る奴らだ―――ダメージなどあるはずもない。


両手と尾を伸ばせる程度には広い場所に着地し、俺は素早く奴を殴る。

そのつもりで振り回した腕が、外れて床に亀裂を入れる。

連続で、床に転がっている奴を殴る。

肩に命中した。

戦える、まだ戦いを続けられる。

俺は自分の身体の頑丈さに驚いた。



指を鳴らす。

下級魔怪人が俺の背後に出現した。


舌のつけ根が潰されているから指差して指示した。

―――てめえら、そのクソ電流女を始末しろ!


駆ける下級戦魔怪人。

戦闘に関しては単純な格闘戦しかできない魔怪人は、俺の魔力をもとにして生成された存在だ。

足止め程度にしか使えないだろうから、使いどころは考えないといけない。

まずは距離だ。

俺が―――距離を取らねば。


俺は出口を見る。

廊下への出口だ―――その位置を確認しつつ、魔怪人達の戦闘を見る。

魔怪人が次々と襲い掛かり、小柄な少女の姿は見えなくなる。

三体、四体と単純に突進、倒れている魔法少女にのしかかる。

動きを封じられた電流クソ女に、格闘戦で早く対処したかった。


積み重なった黒い怪人たち。

暗闇だと黒い、奇妙な塊に見えるそれ。

一瞬の静寂の後、

下級魔怪人の隙間から何筋かの閃光が伸びて、四体とも吹っ飛んだ。


一体は、こっちか。

俺は、砲弾みたいに飛んできた一体を回避する。

下級魔怪人は回転しつつ、頭部を下にして壁にたたきつけられる。

罅割れた木製の壁に腕が挟まった。


床から起き上がり中腰になった魔法少女は黒いシルエットとして見えた。

右手から左手までをバチバチと繋ぐ電流が黄色に紫に、忙しなく点滅している。

水飴のような光沢を湛えている。


それをお行儀よく観戦している場合じゃあない。

何時それが俺に向くか、わからないのだ。

ようやく廊下に飛び出す。

廊下をぎしりと踏んで、ようやく明度がある空間に飛び込む。


空気が変わるのを感じる。

電熱による木板の焦げ臭さだろうか、それがなくなった。

薄い窓の外で雷雨は続いていた。


さっきまでいた入り口から漏れ出る光をそれ以上見ずに、走る。

距離を取る―――そうして、爪に魔力を集中させ始める。


魔法少女が足早にトイレ内から出てくる。


「ピクール返せやコラァァアア―――ッ!」


そんなことを叫びながら走ってくる。

だから知らないっての。

誰だよ!


そして返事を期待してるのか?

こいつ。

俺と会話をするつもりがあるのならば、もしくは尋問するつもりだったとしても、口腔内に電流など最初に流す意味がわからない。

俺が喋れなくなるだろうが。

頭がおかしい―――何がしたいのかもはやわからない。



ガーナフがどれだけ思案しても、魔法少女の意図などわかるはずもなかった。

原因不明の事象が重なり、そんな中で敵を見つけた。

偶然見つけた敵が、あまりにもタイミングが良すぎて、すべて魔怪人の仕業であると決めつけるのに十分だった。

そうでないと彼女の心が耐えられない、ということもあったが。



野球ボールくらいのサイズの雷撃が飛んできた。

ばちばちと、空気を弾く音がうるさい。

一瞬にして着弾した木が黒くなる。

焦げたんだ。

………冗談じゃねえ。


廊下の角をめがけて走り続けるが、雷の玉は次々と飛んでくる。

まだ奴の攻撃範囲から逃げ切れたわけでもなく、どころか、これくらい離れたほうが奴にとって有利か?

戦いやすい可能性すらある。

俺は何とか、廊下の角を曲がる。

下級魔怪人を二体出現、出して、そして―――跳躍した。



「「イイイ―――ッ!?」」


追いついてきたイエローのマジカルクソ女は下級魔怪人のパンチを躱しつつ、脇腹にカウンターを入れた。

殴打ではない、当然のように雷撃。

炸裂音、弾け飛ぶ下級魔怪人。

だが、見下ろしている俺はこの場で諦観していない。

絶大な戦闘力を持つ魔法戦力、魔法少女を、足止めする。

それがどれほど貴重な時間かを俺は知っている。


下級魔怪人がそれだけなのか、と一瞬迷ったように立ち止まったクソ女。

場所は廊下の行き止まり。

ここには階段があるので、俺が上ったのか降りたのか、二つに一つだ。

だから奴は一瞬遅れる。


俺は奴を見下ろしている。

俺のからの攻撃に―――!



一瞬足が止まったその隙だ。

尾の攻撃。

人間の発想外の攻撃。

両手両足を天井に張り付かせ、膂力ある攻撃をすることが出来る者は、魔怪人の中でもそうはいない。


死角から。

肩部と背の辺りに尾の薙ぎ払い。

地平の向こうまで吹き飛ばす気で当てた攻撃は、直撃した。

イエローのクソッタレ魔法少女は思いのほか軽かった。

奴は元いた廊下まで吹っ飛び、窓に突っ込んだ。

その様子だけなら、さっきやられた俺の下級魔怪人に似ていた。


ぱりん、という音は降り注ぐ雨の音でほとんど聞こえなかったが、意味不明なマジカルクソッタレクレイジーはどうやら窓枠に掴まることもなく、両手両足で雨を掻きながら、屋外の下に、落下。

一瞬こちらを向いた表情に困惑と悔しさが見えた。

そうして、校庭のどこかに消え。

降り注ぐ雨だけが景色となる。


天井に突き立てた爪の魔力を緩め、着地した。

どうやら、奴に触れた尾は痺れていない―――。

上手くいった、これほどうまくいった。


敵を退けてひと息つきたいところだったが、舌の点け根が傷んだ。

喉がしびれている。

軽く舌を動かしたが外傷とは少し違う。

傷ついているというよりは痺れて麻痺しているだけ、と言った感触だ。


ただの回収だったこの任務、無傷で済ませられる可能性もあったはずなのだが、なんてことだ。

溜息をつくのにも舌の痛みが伴うとは。

汗がどっとにじんだ。

………まだ生きているだろう、奴は。

戻ってこないうちに逃げるのが利口だろう。


うんざりだぜ、バルルーン。

魔法少女も憎いが貴様も憎い。

その後、ジャングルに逃げ込むことには成功した。

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