第26話 二日目
修学旅行三泊四日のうちの、一日目。
一日目は終了した。
魔怪人スゴ・クメーワクの刺客バルルーンの襲撃、飛行機墜落の危機、ラクールたちマジカルマスコットとの連絡が照れないこと、魔法少年、魔法少女との戦いがあったことなど、
生半可な事件ではなかった。
一筋縄ではいかない事態だったけれど、終わってみれば、ケガ人は一人もいなかった。
結果だけをみるなら良かった。
変身が解けてしまうほどにそれぞれの装甲がダメージを負うことはあったけれど、傭宇くんも茂ヶ崎さんも大きなケガはしていなかった。
損傷をしたのは装甲、装衣だけのようだ。
ちなみに茂ヶ崎さんは部屋のベッドに寝かせてある。
体力は消耗しているようだから、今日はほとんど動けないかもしれない。
魔法少女としての活動は今は出来ないけれど、時間が経って魔力が回復すれば、再び変身できる可能性はある。
―――ああ、マジカルマスコットがいないから無理か。
慣れないジャングルでの戦闘での疲れがあった。
そのせいか、私たちはあっさり眠りについた。
部屋がある三〇二号室に入ってベッドを見ると、私も泉ちゃんも緊張の糸が切れてあっさり眠った。
魔法と関わっている今回の事件。
今もその最中、渦中なので、緊張感はあるけれど。
宿泊施設内、そこにいれば怪我の危険はない、ということには変わりなかったようだ。
ドアを開けたら部屋に魔法陣があったなんていうような展開はなかった。
そうして時間は、二日目の朝七時半。
目覚めた時に、ホテルの窓のカーテンから差し込む光は赤い。
朝焼け、というにはマジカルな要素が強い魔法陣による目覚めだ。
あれを朝に見ると、夢ではないって言うことが実感できる。
「結局、魔法陣は今もあるんだね」
相部屋である泉ちゃんは呟く。
まあ私もそうなんだけれど。
パジャマじゃないのに寝心地が快適なのは、これも魔法なんだろう。
人間の常識を超える、魔法の国の存在。
それと現実的な話、今のこの島は安全と言い切れないので、いつでも戦える態勢、姿でいるのは大切なのかもしれなかった。
休暇のようなつもりだった旅行でこれだ―――イライラしないでもない。
ラクールも、修学旅行前にはゆっくり休んできて欲しいと言っていたものだ。
私、それまで連日、魔怪人と戦っていたからね。
「結局、ホテルに戻ってない子は何人いるの?」
泉ちゃんの疑問を受けて、その答えがわからないままに一階に降りる。
外出の準備を整えて、みんなと合流する。
ホテルの一階ロビーに集合した、魔法少年少女。
朝になっても、すべてが夢だったなんてことは無く。
「昨日のことは夢じゃあ―――なかった」
思わず声に出してしまう。
ただ、昨日と全く同じではなかった。
二瀬河さんの姿が見えないなと思っていたけれど、どうも昨日とメンバーが入れ替わっているようだ。
だから、誰がいるかという明言はしないことにする。
どうせ、今から―――町に出れば島を回れば、会える。
彼ら彼女らはそれくらい目立つ。
皆の様子は、まさに朝起きたいつものように、と言った風で緊迫感は無い。
永嶋くんなど眠そうだ。
一日目の晩は、やはり事件は起きなかった。
生徒のうちの何人か抜け出したことを含まなければ、だけれどね。
それは褒められた行動ではない。
ただ―――私はクラスのみんなが何をしようとしているか、おおよそだけれど期待していることがある。
勝手にホテルを抜け出したといっても、旅行中になんらかの不良行為をするわけではないという事くらいは、私もわかる。
この島を守るために、みんな自分の意志で動いている。
空の魔法陣を見て、黙っていられる人たちじゃあなかったんだろう。
そしてジャングル内にあるという、罠のような洗脳魔法陣についての注意は、した。
注意を喚起した。
用賀崎先生の顔色は優れなかった。
クラスの面々に、チームワークがあるようには思えない。
欲を言えばこれから始まる皆での話し合いに参加してほしかったけれど。
会えないわけではない。
私たちも追いつかないと。
このままでは修学旅行は始まらない。
他のクラスの子たちが、本日は安全確認のため待機、と呼びかけられていた。
一組の剛田先生は、こういう非常時こそ教師がしっかりしなければ、と息巻いて厳しく指導していた。
一組に対して体育会系な指導をしていた。
せっかくの修学旅行が待機とは。
魔法少女である私は、看過できない。
この状況を直せる、元に戻せる可能性があるとするならば私たちだ。
二年二組の面々は。
湯ノ峰くんや空桐さんや三重さんがいるけれど、昨日の晩か、それとも早朝かはわからないけれど出ていったようだ。
人数の不足、誰から言い出すでもなく、考えるのを、やめようという流れになった。
兎に角、どちらにせよこの島で起こっていることを何とかしないといけない。
そうだ、それも問題。
洗脳は魔怪人の仕業であると思っていたけれど、すくなくとも関係はあると思っているけれど。
空の魔法陣、この規模は前例がないから犯人が魔怪人だということに、何か違和感。
違和感があるけれどあいつら以外にこんなことをしそうな心当たりはない。
他の子はそれについてどう思うのか、知らないけれど、私や泉ちゃんは、今までとは違うことを感じていた。
魔怪人の所為なのかな、あのキロ単位のサイズの魔法陣は。
それもわからないけれど今までにあった戦いとは少し違う雰囲気だ。
日本で戦っている時にはこんなことはなかった、様々な姿の魔怪人と、その手下たちと夜の町で戦うことが主で、魔法陣というものは数えるほどしか出会ったことがない―――いや、無かった。
いよいよ日本の支配に本腰を入れたのかと、それくらいしか予想は出来ない。
いや―――、ここはサイパンだし、何か違う気もする。
今までもずっと、スゴ・クメーワクは日本の恐怖支配が目的だと言っていた。
そう宣言していたけれど、奴らが言っている情報であるだけで。
奴らのすべてを知っているわけじゃあないのが苦しいところだ。
その時、用賀崎先生が歩み寄ってきた。
いつもの先生の表情だったが、そういえば昨日壊れた―――二浅河ちゃん曰く、壊れたのはどうなったんだろう。
「昨日は取り乱してしまったよ―――ただ、あらためて聞くよ、春風さん。私が
「出来ること?出来ること、は―――」
私は思案する。
魔法を使えない普通の人間である先生たちは、魔法陣にできる事は無い。
ない、と言いかけた。
先生にできる事は、無いけれど。
残念ながらないけれど。
私たち生徒がこの事件を何とかする、そのために外に出るという話をしようとした。
そのとき、空桐さんが歩いてきた。
昨日と変わらない、清潔感ある白い
「先生、今のこの島は―――この島の事件は魔法が強く関わっています。ですから、魔法少女である私たちが解決することになるでしょう」
空桐さんの意見に、聴き入る。
「信じてください」
「信じる………」
「担任の先生さん、この子たちは大丈夫ですよ」
歩み寄ってきた女性が、誰なのか私にはわかった。
あの時と服装は違うけれど。
「ああっ、飛行機の!キャビンアテンダントの人!」
「
洗脳から助けてくれたお礼がしたかったのだけれど、私があっという間に空港から去ったので会えなかった、という事だ。
お礼を言えなかった―――って、
「あはは………もう、いいんですか体調は?」
「お陰さまでね………あの
そして先生、と優しく言う御詫村さん。
「この子たちならできることがあります、あるに決まっています、担任のあなたがそう思っていないと、いけませんよ。私はこの子たちに助けてもらったし、つまり―――なんて言えばいいかしら、中学校の先生?あなたのことが、あなたの教室が羨ましいわ」
先生は笑顔のまま、少し困ったようでした。
「はは、は………生徒を信じる、か―――せめてそれくらいはできないとな、私も」
悪い気はしなかったらしい。
「そうッすよ先生!」
「信じてください!信じるっていうかあと応援です!応援していてください!」
「運命は、きっと味方します」
私たちの声が。
昨日まで先生が知らなかった、色とりどりの衣装のみんなが。
「難しいクラスを受け持ってしまったが―――これは、信じるしかないな」
苦笑する先生。
ロビーの隅にいた狙木が、なにかブツブツ言っていたようだった。
けれどあいつの顔も、なんかちょっと笑ってた。
だから、たぶんいい―――いいのだ。
―――
狙木は、みんなの前に立つ。
「いろいろ話し合ったんだけれど、今日は俺たちがサイパンを探し回った方がいいっていう事になった」
この修学旅行で訪れた地、サイパンで活動する。
探し回るというのは―――何を探すの?
「この事件の元凶だよ。可能性として―――魔法陣を形作っている元凶? というかか
この島に何かあるのは私も予想している。
ただ、わからないことが多すぎる。
元凶があるという可能性すら曖昧なのだから。
「その元凶を、つまり何とかすれば、事件は解決するの?」
「おそらく解決する。空の魔法陣が消える」
本当にそんなことが?
「そんなことがある。春風―――お前、魔法陣が何の原因もなく出てきたって言いたいのか?あんなバカでかいものが」
「そういう訳じゃあ―――ないけれど」
「それを、言い出したのはボクだ」
ソファーに腰かけている
水色っぽい
どことなく線が細く、空桐さんのように落ち着いた雰囲気を持つ男子だ。
彼は話を補足する。
彼なりに考えた結果らしい。
「サイパンの空に魔法陣が出来ている以上、この島に原因があるはずだ。魔法陣発生装置、のようなものを潰せば陣は消えて、空が戻る―――もとの綺麗な青空になる」
と、ゲームとかなら―――そういうシステムになるんだけどな。
なんてことを呟く彼。
綺麗な青空。
なって欲しいけれど、実はこの島の青い状態の空を見ていない。
まだ、見ていない―――そんな事実に気づかされる。
「島にある車とか、町全体で止まっている。道路上に停止してるし、ホテルの設備も打撃を受けてる。食べ物を保存する冷蔵庫の温度が上がってるってさ―――町中そんなだよ。町という、島全体なんだけれど。でもこれは逆を言えば、島全体を同じく覆っている、あの空の魔法陣の範囲だってことだ」
「じゃあ、空の魔法陣がそれの原因だって?」
機械とかを止める影響を持つものだ、ということか?
湯ノ峰くんは尋ねる。
「そう思う」
「理想は、それを解決すると飛行機が動いて、マジカルマスコットたちが現れるパターン」
皆は黙る。
思案する。
理想か―――本当にそんなことがあるか。
今のところ、傭宇くんと茂ヶ崎さんが操られて、そして倒すしかなかったていう、そんな被害しかないのに、理想なんてどこにあるんだろう。
そんな気持ちがある。
ただ、代案がないのだった。
手をこまねいているだけでは、いられない。
「どっちにしろ、やらなきゃいいかない、あと、行かなきゃならない」
日が昇ったら全部解決しようぜ!と湯ノ峰くんは快活に叫んだ。
午前九時。
もはや夜明けではない。
景色が見渡しやすいこの時間に、、ホテルの前に次々と、魔法少女少年が歩いていく。
普通に、宿泊者用の出入り口から出ていった。
傭宇くんと狙木は何か話していたけれど。
「とりあえず今いない奴にも伝えてくれ。うかつに赤い魔法陣に触るな。で、何かわかったら呼んでくれ!!」
私は空を覆う屋根のような魔法陣を
星型の図形、その線は飛行機雲をとてつもなく太くしたようになっている。
それを見上げながら、私は泉ちゃんと、歩く。
歩いて浴びるの外の日光ではなく、赤みがかかった空の光。
「大丈夫かな」
「なにが?泉ちゃん………?」
「何がって―――ええと、何が心配かって言うと、もうわからないんだけれど、色々なこと。色々なことが、大丈夫かなって」
そんなことを言う泉ちゃん。
引っ込み思案というか、ものごとを、強く言わない子だ。
そんな適当な―――と、思わず笑いそうになってしまった。
いや、笑える状況でもないのか。
「そもそもクラスのみんなだって、全然バラバラだし。点でバラバラだし」
「全員集合の会議ができれば一番良かったかもね」
「この先どうなるかは思いやられる、急いだほうがいいか―――赤い魔法陣のことを知らない子もいる」
「この島で今、何が起こっているのかを調べないといけないわね―――、そして、解決しなきゃ」
私は泉ちゃんと二人で、歩き始める
修学旅行のしおりでは、二日目は北部の観光スポットを回ることになっていた。
私たちの足も、自然、北に向いた。
この島で起きている異変を知るためにはその捜索が欠かせない。
空には赤い魔法陣。
そのため見渡せば建物の合間に見える海も、青い海ではない。
赤く輝いている---これも不気味な美しさはあるけれど、観光客が求めていたものでない、それは明白だ。
大変な状況だ。
この状況を解決しないと。
―――
二人の魔法少女。
春風若葉と渡良瀬泉が決意を固めたその頃―――。
サイパンの北側、海岸のある地点に、一隻の舟が迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます