第18話 悪の組織の魔怪人 バルルーン 1
悪の組織スゴ・クメーワク。
それは魔法の力を悪用し、日本征服を目論む、魔怪人組織———人類の敵の集大成的な秘密結社である。
人と、様々な動物を混成したような姿を持つ魔怪人。
彼らの活動の源、パワーとして欠かせないもの―――それは人々の恐怖心である。
魔力という人知を超える力によって人々を恐怖に陥れ、魔怪人にとって住みやすい世界を作ることを目的とする。
総統は日本の支配を速やかに行う予定でいた。
時間の問題だと考えていたが、そこに新たな組織が参戦する。
魔法の力をもってして参戦し、行く手を阻む邪魔者。
憎き―――正義の味方。
それが魔法少女、そして魔法少年である。
春風若葉をはじめとした魔法戦力。
魔法協会が力を与え、装備を与え、平和を守るために尽力する者たち。
彼らは正義の味方を名乗り、魔力を正義のために用いる。
魔怪人とは真逆の存在だ。
無論、その正体は知られていない。
だがスゴ・クメーワクでは、組織内で彼女のことを「若葉色」、と呼ぶことがあった。
それは彼女の本名を知っていたからというわけではない。
彼女のその
春に芽吹く新緑を思わせるカラーリングから、若葉色の魔法少女と呼んでいたのだ。
―――
闇。
薄暗い部屋の中だった。
その部屋の中央では、剛健たる風貌の魔怪人たちが漆黒の長テーブルを囲んでいた。
軍団長会議。
そこでは戦況報告、次回の襲撃についての作戦会議が成される。
始まる前から席に着いた魔怪人の何人かが云々と唸っているのは、もとよりの声の低さもあるが、状況が悪すぎるためである。
決して良いとは言えない状況、戦況。
「して―――前回の出撃、その戦報は?」
「またやられた。ゲズリズザの隊だな、数は?」
「ゲズリズザと戦闘員、計13名がやられた、全滅だ」
「うぬう―――それで?」
「それで、とはなんだ?」
「それで、今度は『何色』なんだということだ」
「通信によりますと、燃える炎のごとく赤い装衣の魔法少女だったと―――」
空中に出現している魔法のディスプレイに映像が表示されている。
炎を操るその魔法少女は、自身よりも巨大な炎を自在に振り回し、魔怪人にたたきつけていた。
巨大なイタチのような姿の魔怪人は炎上し、身体の内側から放電、爆発したところで映像がストップする。
「『赤色』か―――ではまた違う奴だな、この前に確認できた者とは」
「そうなるな」
「魔法少年がいる、魔法少女もいる。それはわかったがしかし、この数はなんだ。何人いるのだ」
次から次へと新手がやって来る地獄のような日々が続いている。
強力な魔法戦力。
数が増えた敵、しかも相手は強力な魔法を使って我ら魔怪人を攻撃してくる。
憎き敵は、年端もいかぬ人間の少年少女である以外、正体はほぼ不明である。
そんな彼らをいつしか、色で呼称するようになった。
少なくとも二十名以上確認されている彼女らが、一カ所に大勢集まって出てくることは、この時なかった。
しかしスゴ・クメーワク側が複数の場所に襲撃をかければ、向こうもそれぞれの場所に別の魔法戦力を解き放ってきた。
「魔法協会が動いている。魔力を与えたのは奴らだろう、おそらくは」
「裏で糸を引いているのも―――。日本の少年少女と共に国を守っているのだ」
「クーククク、日本全国
「最近では人間どもも、勝利に酔い、活気づいてきている」
「一般市民どもめ―――我々があらわれても、魔法少女が確実に倒してしまうとあっては、安心しきってしまうだろう。恐怖に陥れるどころか、逆に元気になってしまう」
「敵ながら
「馬鹿が………。忌々しいだけだ。そう言える余裕は無い―――。我らはなんとか策を
「畜生、こうもやられっぱなしでは総統様に申し訳が立たないってもんだぜ」
日本の侵攻だけ遅れている感が否めない。
救われた当の本人たち、人間は魔法少女少年に感謝し、祭り上げている。
敵の連勝、その光景がまぶしい。
重苦しい空気の中、次の攻撃はどうするかという議題に入った。
そこで一人の軍団長が提案をしてきた。
いやに甲高い声をした団員であった。
「こうしてはいかがでしょう、日本ではない場所を狙う、そうすれば奴らもおいそれと手出しは出来ないでしょう――――たとえば」
日本以外の場所である、と彼は言いきった。
「日本を攻めない?それは、駄目だねェ」
意見を拒絶した魔怪人も、とても好感を持てそうもない重く低い声色だった。
見た目も邪悪で醜悪なほど良いとされるのが、この組織での常識である。
魔怪人の法則である。
「総統様は日本を恐怖で支配することを望んでおられる………!」
「そうだそうだ。そもそも他の国は、他の組織が狙っている。いま、縄張りに無暗に接触すれば厄介だぞ」
「それでしたら
ざわつきはするが、疑問が浮かび顔を見合わせる面々。
話の流れが見えない。
「何を言っているんだ、そんな―――日本ではない、他の悪の組織のテリトリーではないだだって、そんなものあるとして、場所はどうする。海の上くらいしかないじゃあないか」
人間がたくさん集まるような場所ではない。
「そう、人間どもは海の上を移動する場合があります、生意気にも海の上で移動する手段、それを持ち合わせているのです」
「海の上をだって?」
「はい。人間は海の上を船で―――あるいは上空を、飛行機で飛びます」
一同は目を見開き、顔を見合わせる。
魔怪人はあくまで魔怪人である。
人間とは違う魔法生物。
それは、魔怪人が人間より強力であるが、人間のすべてに詳しいわけではないという事でもある。
初めて耳にする乗り物の名前は、発想の外に会った。
今までに攻めた町中や人が集まるスポットとは全く違う場所だった。
ひときわ甲高い声の知将染みた軍団長は、にやりと笑う。
説得は成功したようだ。
そして―――
「隊長バルルーン!今こそ前へ!」
カッ―――、と室内の片隅がスポットライトじみた魔光で照らされる。
そこで片膝をついているのは大鷲型の魔怪人、バルルーンであった。
「ハッ………!私は
「バルルーンよ、話はこうだ―――空を飛んでいる人間を襲う!それが今回の任務だ」
出来るのか、やってのける自信があるのか、と軍団長たちが視線を向ける。
彼ならば、人間に、魔法少女少年に対抗することが出来るのかと期待をする。
バルルーンは自身の翼を、ばさりと広げる。
強靭な翼を広げ、誇示する。
「空は私の庭でございます。敵を討つ戦場としてこれ以上の場所はございません。必ずや、総統様が求めるような成果をあげてみせます―――ええ、間違いなくこの任務は私にこそ適任!」
「
「熟知しています。魔法少女が現れようが現れなかろうが、役目を果たして見せましょう!」
作戦の性質は今迄とは違う。
今までのように地上、町中で襲撃をするのではないということ。
それは、スゴ・クメーワク側にとっても前例がほぼなく、未知の領域であった。
軍団長の中にはよく思わないもの、期待しない者もいるようだ。
だがどこかで現状を打破する必要がある。
今までとは違う結果をもたらす可能性があるという事だ。
過去数か月、良い戦果が上がっていない中で、現状を変える一手になり得る。
その作戦内容に、異を唱える者、反論する者はいなかった。
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